南 阿沙美
1981年生まれ、 北海道札幌市出身、写真家。高級感のあるファニーな写真が評価され、役者、ミュージシャンの撮影や雑誌等でも活躍中。
【BIOGRAPHY】
2014年 キヤノン写真新世紀優秀賞受賞
2015年 個展「MATSUOKA!」
個展「親子写真入門」
2016年 個展「sheHerHers」
個展「オートマチック乙女ちゃん」
2019年 『MATSUOKA!』写真集、展覧会
『島根のOL』写真集、展覧会
RECENT WORKS
写真は最近のクライアント仕事の作品から。
2021年、NHK「第72回紅白歌合戦」のメインビジュアル。
コントユニット、テニスコートの神谷圭介さんが始めた演劇プロジェクト「画餅」の第一回公演「サムバディ」のメインビジュアル。
撮らないともったいないから
スタジオ時代に写真に関わる苦手意識をクリアできた
「美術全般に興味があって、美術系の短大に入ったのですが、写真の授業が少しだけあって。写真そのものより、写真の話をしているのがおもしろくて、写真について考えることが多くなり、いつも考えながら撮っていた気がします。学校で学んだことは今の写真に影響しているというより、なぜ作るのかとか、表現の部分で共通しています。卒業制作はモノクロのセルフポートレートでした」。
卒業後もしばらくは札幌で暮らし、2007年に上京。
「東京で個展を開いたり、美術の展示や写真展を見に行ったりすることもあり、住んだ方がいろいろと見られそうだと思って上京しました。写真の道に進むぞ、というのは当時はあまり意識してなかったです。撮って、展示などで見せる、というのが特別なことではなかったから。最初は普通の仕事をしていて、写真を仕事にしたら、もっと撮れるかなと思って、出版社に営業に行ってみましたが、仕事には結びつかず。当時自分はフィルムで、自然光でしか撮れなかったので、デジタルやスタジオでも撮れるようになった方がいいのかなと思って、29歳でイイノスタジオに入って、全くわからなかったスタジオライティングも理解できました。パソコンも少しだけできるようになり、苦手意識がものすごくあったことをクリアできて本当によかったです。スタジオで働いてなかったら、写真についてわからないことがあることがコンプレックスになって、ずっとびくびくしていたと思います」。
思わぬ写真が撮れた時、自分の"らしさ"の外に出られる
「写真家になろうと決意したことはなくて、ただずっとやっているだけ。何がデビュー、という感覚もないですが、MATSUOKA!は2014年にキヤノン写真新世紀の優秀賞(大森克己選)をもらって、写真集も出しているので、デビュー感のある作品かもしれません」と南さん。受賞が決まったのはスタジオを辞めた1週間後のことだったそう。
「2013年から撮っていたMATSUOKA!は2014年に一度撮り終えて、写真集を作ることが決まってから、2018年秋に撮影を再開しました。撮っていて、私も松岡さん本人も、想像できなかった写真が撮れたんです。それを見て感動して。想像を超えることができるんだー、と実感しました。自分の能力とか計画とか、想像の向こうに行けるということを知れた作品です」。
転機となった作品『MATSUOKA!』
2019年5月に発売された、南さんの初の写真集『MATSUOKA!』(Pipe Publishing)。
「ある日突然、松岡さんが半袖短パンで動き回っている姿が頭に浮かんでしまい、実際に写真に撮ってみたらきっとおもしろい!と思ったのがきっかけです。架空のヒーローという設定は、何かと戦っている感じで撮りたいと思ったから。写真集の制作を始めると本当に大変だったので、手にした時の感じはあまり覚えていませんが、いろいろな本屋さんに並んでいるのを見た時はとてもとてもうれしかったです」。
写真を撮る時はいろいろなスイッチをオフにする
留めて再生してしまう、とんでもない装置、写真
「中高時代も写ルンですや家にあった家庭用カメラ(当時はフィルム)で撮っていたことはありました。初めて買ったカメラは19歳の時、授業で必要になって、先生に勧められたニコマート。今もたまに使うととてもいい。デジタルは全然わからなくて、撮って、人に聞いて学んだ感じです。デジタルを買ってから、フィルムの枚数を気にせずに撮れるから、こうだ!と思うまでの間や、今までフィルムがもったいなくて撮らなかった場面でも撮るようになり、新しく自分の写真と出会った感じはあります。スランプのようなものは、あまり気にしてなかったです。撮れない時は撮っていなかったかも。無理せず何かに出会って心が動けば、それを撮り始めます」。
そんな南さんに自分らしい写真とは?とお聞きすると、
「らしさ、というものはなくていいと思っていて、”あなたらしい”と言われるとなぜか落ち込みます。自分らしさを固定されたようで息苦しいです。思わぬ写真が撮れた時に自分らしさの外に出られた気がして、それが自分の写真らしさ、かも」。
ひとりのOLに魅せられた『島根のOL』
2019年8月に発売された2冊目の写真集『島根のOL』(salon cojika)。
もともと友人である女性が普段はOLとして働いていることを知って、その姿に魅せられた南さんが2017~2019年の2年間、島根に通って撮影したもの。
写真に撮ってみる、ということをしなければ起きなかったことが起こるのがおもしろい
写真家になってよかったと思う"瞬間"はないけれど、いろいろな人に会えたり、いろいろな場所に行けたりすることに、しみじみと喜びを感じるという南さん。
音楽バンドHei Tanakaのアーティスト写真。
2022年6月に行われた移民・難民フェスに出品されたバッグのための撮影。このバッグはアフリカ出身の難民が作ったもの。
人の意見や感想に耳を傾け考えながら、あまり考えすぎない
人の様子やいでたちに惹かれるという南さんにとって、キャリアの中でもっとも印象深い、宝物のような作品(2013年)。
「親しい友達親子が、七五三だったので写真を撮ることに。なんとなく体操着を着てもらって撮っていると、誰も何も言わなくても何かの魔術にかかったかのように、2人もいろいろなポーズで写真を撮られ、私もどんどん撮っていって。できた写真を見て、お互いになぜこんな写真が撮れたのかわからなくて、感動しました」。
現在、雑誌や広告、CDジャケットなどを中心とした撮影のほか、WEB連載で文章も手がけている南さん。
「たぶん、書くことは前から好き。写真を始めた頃の展示でも、自分で書いた言葉のファイルや日記などを置いていました。写真と短歌の展示をやったこともあります。短歌は作れる時期にだけ、決まったリズムの中に言葉が向こうからやってくる感じがおもしろいです。がんばっては作れないので、書かない時は書かないですが。文章に残すということは、書いておかないと少しずつ忘れそうだし、書くことで出来事を再認識できるところは、写真と似ているかもしれません」。
写真家としての今後の目標は、「いい写真集を作っていきたい。そして広い場所、アトリエ、スタジオがほしい…。どんどん自由にできるようになるといいです」。
最後に写真家を目指す人にアドバイスを。
「いろいろな人に写真を見せること。人の意見や感想に耳を傾け、考えながら、あまり考えすぎないことです」。
GENIC vol.64【写真家たちの履歴書】
GENIC vol.64
GENIC10月号のテーマは「写真と人生」。
誰かの人生を知ると、自分の人生のヒントになる。憧れの写真家たちのヒストリーや表現に触れることは、写真との新たな向き合い方を見つけることにもつながります。たくさんの勇気とドラマが詰まった「写真と歩む、それぞれの人生」。すべての人が自分らしく生きられますように。Live your Life.