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飄々と、図々しく 小浪次郎

さまざまなファッション広告、アーティスト写真、雑誌などを手掛けながら、同時に数々の写真集の出版や写真展開催など、作家としての活動にも精力的に取り組み、高い評価を得ている小浪次郎。最初の作品となる父を撮った1枚の写真から、今日に至るまで、ブレることなく貫き続けている撮影スタイルと、「自分らしさ」とは何なのか?についてを聞いた、珠玉のインタビューです。

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目次

プロフィール

小浪次郎

写真家 1986年生まれ、東京都出身。東京工芸大学写真学科卒業。在学中より8年間、自身の父親を撮影し続けた作品で富士フォトサロン新人賞を獲得するなど、高い評価を得る。ファッションからコマーシャルまで幅広く活躍する傍ら、『父をみる』(2013)、『meme -Personal Memory-』(2014)、『PARADISE TOKYO』(2016)、『Straight, No chaser』(2018)、『舐達麻 / Namedaruma』(2021)、『Searchlight』(2022)など多くの写真集を出版。2017年より活動拠点をニューヨークに移し、『The New York Times』『Interview Magazine』などで作品を発表している。

飄々と、図々しく

『Searchlight』 (2022)より

魂入れて撮っている。 自分らしさって、それに尽きる。

『舐達麻 / Namedaruma』 (2021)より

『黄色い太陽』 (2021)より

自信を持つべきです。

Rie Miyazawa(2016)

Ryo Kase(2015)

鍛錬に裏打ちされた自信が自分らしさへとつながっていく

レンズを覗けば、 こっちの世界に持ってこられるっていう自信。

Untitled(2022)

Red Lip(2021)

SupremeやCalvin Kleinなどのファッション広告やアーティスト写真、さまざまな雑誌を手がけ、2017年にニューヨークに拠点を移してからは『The New York Times』の表紙を飾るなど、グローバルに活躍する小浪次郎さん。同時に、『父をみる』を始めとする数々の写真集の出版や写真展開催など、作家としての活動にも精力的に取り組み、高い評価を得ている。そんな小浪さんの撮影スタイルは、仕事であってもプライベートであっても、変わらない。変わらないどころか、最初の作品となる父を撮った1枚の写真から、今日に至るまでブレることなく自身のスタイルを貫き続けている。
「友人に誘われて、ドイツの写真家であるヴォルフガング・ティルマンスの展示に行ったのが17歳のとき。当時の僕はティルマンスのことも知らなかったし、彼の作品を見るのも初めてだったけれど、写真家になろうと決めた瞬間になった。作品から、僕自身の記憶がよみがえるような感覚を受けたんですよね。何かを想起させてくれたり、違う世界に導いてくれたりする。たった1枚の写真で何かが大きく変わる、そういう力が写真にはあるのだと衝撃を受けたし、今でもこの力を、僕は信じ続けて写真を撮っています」。

『父をみる』 (2013)より

高校卒業後は、東京工芸大学写真学科に進学した小浪さん。大学で本格的に写真と向き合うことになり、撮り始めたのが父だった。のちに富士フォトサロン新人賞受賞へとつながっていく「父をみる」シリーズは、写真家への道しるべとなり、その灯は今もなお続いている。「正直、入学した頃は何を撮っていいかわかんなくて。それで、ふと自分にとって、不確かな存在だった父を撮ってみようかなって思いました。思い浮かんだのが父だったというだけなんですよね。でも帰省していざ撮ろうとすると、照れくささとか恥ずかしさみたいなもの、それに父から威圧感のようなものを受けてしまって、結局そのときに撮れたのは1枚だけ。でもその1枚が、あとから現像して見たときに『いいな』となった。ティルマンスの作品を見たときと同じで、父を撮ったその1枚から、新しい考えが生まれたり、改めたりしている自分がいた。それで何かに辿りつくということではなくて、それ自体がすごくわくわくしてドキドキするものでした。このとき以来、とくに人物写真に対する見方が『最初の1枚』と『2枚目以降の写真』になった。結局最初の1枚が一番いいと感じることが多いし、そこで得られる感覚をまた味わいたくて、今日まで写真と向き合い続けていられるのだと思います」。

ずっと撮ってきた、という自負がある。

Scarlett Johansson(2019)

父を撮った1枚がトリガーとなって、小浪さんは撮影に没頭していく。とにかく撮る。38歳になった現在も、どこへ行くにもカメラを手にし、朝の犬の散歩からはじまり、毎日必ず写真を撮っている。そうして手に入れたのは、揺らぐことのない自信。
「20歳のときに、森山大道さんと話す機会がありました。『写真は3歩進むたびに2枚撮るんだ』と言われたのを真に受けて、実践するようになった。なかば強制的に、とにかく写真にしていくような感覚。すごく鍛錬みたいな感じですけど、それを毎日、何年もやっていくと、フレーミングだったり、被写体の動きだったり、どう撮ったらいいかというのが瞬時にわかるようになってくる。今、僕にとって写真を撮る行為は、ただ自分の体が動く、動物的本能に近いものになっていると感じます。そして、“ずっと撮っている”というのは、自信につながるものです。この写真はダメだなと思うぐらいはあるけれど、基本的には何がきても撮れるっていう自信がある。カメラも何だってよくて、とにかくレンズを覗けば、こっちの世界に持ってこられるっていう自信があります」。

Untitled(2017)

そして、鍛錬に裏打ちされた自信は、“自分らしさ”へとつながっていく。
「僕は仕事の作品もプライベートの作品も変わらない。いつも撮っている写真の延長線上で仕事でも撮れればそれがベストだと思っていて、仕事であってもとにかく普段どおりにやるようにしています。そのためには、飄々と、図々しくしているしかないです。いろいろな声に振り回されずに自分を貫いて、最終的に写真で納得してもらうだけの自信を持つ。あとはただひたすらに、魂入れて撮っている。僕の写真において、自分の“らしさ”って何かと聞かれたら、それに尽きると思いますね。自分が魂を込めたエネルギーを、作品から感じてもらえたらうれしいです」。

GENIC vol.71【飄々と、図々しく】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.71

2024年7月号の特集は「私の写真世界」。
写真は生き様が反映されるアート。何を感じ、何を受け取って生きてきたのか。写真に投影されるのは、自分自身です。自分らしさとはいったい何なのか?その回答が見つかる「作品」特集。私の写真世界へようこそ。

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