移住体験中のぽんず(片渕ゆり)さん
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。
上川町暮らしの、第二章がスタート
上川町に住み始めて、1ヶ月弱が経った。
Vol.1でも書いたとおり、最初の2週間はほとんど人にも会わず、雪の中で粛々と仕事をしていた。しんしんと降る雪の中でひとりで過ごす。静かなその時間も楽しかったし贅沢だったけれど、徐々に撮影やイベントに参加させていただけることになって、上川町暮らしのおもしろさが、いっきに加速した。
上川町は、とにかくスケールが大きな町だ。「町」と聞いて私が想像していた規模よりも、はるかに広い。
夢に見た犬ぞり体験へ
「大雪森のガーデン」を訪れると、まさに思い描いていた北海道そのものの光景が広がっていた。
この日ここへ向かったのは、上川町に来る前からずっと憧れていた犬ぞり体験のため。
御伽噺(おとぎばなし)かゴールデンカムイの中でしか知らなかった犬ぞりが、とうとう体験できる。しかし、テンションが上がっていたのは私だけではなかった。
走りたくてたまらない犬たちは、GOサインを待ち侘びて今か今かとはしゃぎまわっている。オオカミのように遠吠えし、その場でぴょんぴょん跳ねている。
いざ犬ぞりがスタートすると、見た目のメルヘンさから想像するよりもスピードが出た。下り坂なんて、ほんのり怖気付いてしまうくらい。
そんな私の臆病さを嗅ぎ取ったのか、それともそういう性格なのか、私のソリを引いていた犬たちは、途中で「チル」モードに突入してしまった。振り返ってニコニコしたり、積もった雪を食べ始めたり。
のりのりで走っていく一つ手前のソリとの差が、どんどん開いていく。だけど、そんな犬たちの個性が垣間見えるのも楽しかった。そして何より、足跡ひとつ付いていない雪原の中をしゅるしゅると運ばれていく時間は、この上なく爽快だった。
丸ごと凍った滝!SF映画のような場所へ
雪原だけでもじゅうぶんに衝撃を受けたけれど、上川町の自然はまだまだ広い。ここには、北海道有数の温泉地「層雲峡」もある。
険しい峡谷に位置する層雲峡には大きな2つの滝があり、それぞれ「銀河の滝」「流星の滝」と呼ばれる。これらの滝は、なんと、冬になると、丸ごと凍るのだ。
今にも轟音を立てて崩れ落ちそうな形をしたまま、滝は静かに凍っている。
クリストファー・ノーランの映画にでも出てきそうな不思議な光景が、当たり前のように目の前にある。「地球上には本当にこういう景色があるんだ」。この1年で忘れかけていた興奮を、久しぶりに思い出した。
冬の層雲峡では、毎年「氷瀑まつり」というイベントが行われる。「雪だるまや氷の彫刻があるのかな?」なんて思っていたけれど、私の想像はまたしても甘かった。
色とりどりの氷の建築、氷瀑まつり
氷瀑まつりの会場にあるのは、巨大な氷の「建築」だ。
氷瀑まつりの会場は、11月頃からじっくりと時間をかけ、骨組みをつくり、そこに水をかけて凍らせて作っていく。家を建てるのと似た要領で、この巨大な氷の会場が生み出されるのだそう。
標高が高いこともあり、氷瀑まつりの今住んでいる家の近くよりもずっと寒い。だけど中に入ると、外の風が嘘のように、しんとした空間が広がっている。
天井の骨組みからは、無数の氷柱(つらら)が。
今年はコロナの影響で例年より規模を縮小したり、密になりそうなエリアを閉鎖したりしているそうだけれど、それでもなお、この迫力。
会場にはインタラクティブなプロジェクションマッピングもあり、人の動きに合わせて光の絵が動く仕組み。カラフルに染まった雪を見る機会なんて東京ではなかなかないので、ついじっと眺めてしまう。
1ヶ月、この場所で過ごしてみて
しばらく住んだら慣れてしまうのかな、と思っていたけれど、雪をかぶった木々の美しさには毎回見惚れてしまうし、氷柱(つらら)を見かけると写真を撮りたくなるし、街灯の灯りがふんわりと雪に反射する淡くて明るい夕暮れ時には心が躍る。
地元の人は冗談めかして「なんにもないよ」なんて言うけれど、ほんとは色んな景色がある。私が今見ているのは冬だけれど、この場所の春も夏も秋も、見てみたくなる。
短期移住も、気づけば折り返し。この場所で「ぽんずちゃん」と呼んでくれる人もちょっとずつ増えてきて、楽しさは増す一方。次はどんな景色に出会えるか楽しみにしながら、残りの日を大事に過ごしたい。