心の余白をつくるもの/ぽんずのみちくさ Vol.61
ある時から、明るい気持ちで目が覚めるようになった。仕事が捗るようになった。ご飯が美味しくなった。
魔法のようなこの現象には、理由がある。
我が家のちゃぶ台を、新しくしたのだ。
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そう、今までうちの家にあったのは、紛れもなく「ちゃぶ台」だった。ソファもダイニングテーブルもないので、カーペットに座ってご飯を食べるスタイル。社員寮に住んでいたときに、「とりあえず」と思って近くのリサイクルショップで買ってきたものだった。
そのままだと部屋に馴染まなかったので、ホームセンターで買ってきたアンティークワックスをかけ、渋い色に仕上げようとした。が、なぜかいっそう明るい色になり、光沢も増し、ツヤツヤ光るようになった。「アンティーク」という言葉にちっとも似つかわしくない姿になったちゃぶ台を前に、私のDIY欲はすっかり減退してしまい、その後もちゃぶ台はツヤツヤと我が家に居続けた。
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しかし。コロナの蔓延する世の中である。おうち時間である。
仕事終わりにくつろぐため・ぐっすり眠るために整えていたはずの部屋で、せっせと働かなければならなくなった。
家具の配置を変えたり、プリンタを導入したり、小さな試行錯誤を積み重ね、なんとなくめんどくさくてそのままにしていたちゃぶ台を、2倍ほどの大きさのテーブルに買い替えた。
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冒頭の変化は、2倍のテーブルを前にして起こったことだった。
PCの隣に印刷した構成案やメモを置いて、さらにお水のボトルとおやつとコーヒーを置いても大丈夫。鍋をするときに、追加用の具材やおたまも一緒に机上に載せられる。今までは載せるスペースがなかったので、いちいちキッチンに戻ったり、無理矢理段ボールをサイドテーブルに見立ててその上に置いたりと、涙ぐましい努力をしていた。ちょっとしたストレスや手間がなくなっただけなのに、テーブルに向かうときの気持ちはずいぶん違う。
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私の人間性は何一つ向上していないのに、生活が変わった。机の余裕は、心の余裕。スペースの余白は、心の余白。
自分の努力だとか適性だとかを嘆きたくなることもあるけれど、案外すんなりと環境で解決できることもある。そう覚えておくことは、生きていくうえでいくらか肩の荷を軽くしてくれる気がしている。
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片渕ゆり(ぽんず)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。