増田彩来
写真家・映像作家 2001年生まれ、東京都出身。静止画の中に動を残すことを大切に、その瞬間を閉じ込めたような写真が魅力の写真家。20歳になる節目のタイミングに、個展「ecran(エクラン)」を開催。現在は、自主制作映画やMVの監督を務めるなど、映像作家としての活動も注目されている。
愛用カメラ:Nikon FM10、 OLYMPUS PEN FT、NATURA CLASSICA
愛用レンズ:AF-S NIKKOR 50mm f/1.4G
Q.いま、写真とどう向き合っていますか?
A.目的というピラミッドの頂点に、変わらない愛を置く
作品はすべて、渋谷の今を切り取り発信する「Shibu_tsuku」(東急不動産主宰)にて、増田さんが撮影している連載「彩sai」より。すべてフィルムで撮影されている。「この撮影に限らず、『この一枚が撮れるのなら、カメラなんて壊れてもいい!』という気持ちでいつも撮影をしています。今はとくにフィルムも高いけど、もともと現像にもお金がかかっていたし、そういう話でもないんですよね。写真のために生きてますから、存在する限りアナログの撮影も続けていくと思います」。
理性も備え、大人へと成長していく
「私にとって、シャッターを切ることは愛であり、愛しているからシャッターを切る。最近、より一層、愛の持ち方や取り組み方、向き合い方がわかってきたと感じます。そうしたら、明らかに写真がよくなった。撮影には目的があって、目標があって、手法があって、手段があります。目的と愛が同じものとして同時に存在することもあれば、『これを見せます』『この人のこういう面を見せていきます』とすでにある目的を解釈して撮っていくこともあって、そこに迷いが生じることもありました。また、写真は1対1で完結できるものだけど、たくさんの人とつくっていくこともあって、時には自分の“めちゃくちゃこれが撮りたいんだ”という愛の純度を、100%貫き通せないこともある。でも、どんな撮影でも変わらない愛の持ち方で、作品は120%にできるとわかったんです。そのために大切なのが、コミュニケーション。私のことは私しかわからないし、相手も同じ。だからこそ、相手が思っている私にはわからない部分を、会話を通して見つけていく。相手の思いや意図を知ったら、それに対峙した自分のことも理解して、理性を持って伝えていく。『井の中の蛙、大海を知らず』という言葉があって、その続きは『されど空の青さを知る』ですよね。私は自分の世界で、感情の部分で空の青さを知っていたけれど、大海は知らなかった。でも人とかかわりながら撮影をしていく中で、大海も知っていったんです。もちろん、感情を捨ててしまったらただの手法になってしまうから、目的というピラミッドの頂点に、変わらない愛を置く。それができるようになって、この数カ月は心が追い付かないほどに走り抜けた感覚。どうしようもできないこともあったけど、それでもいい昨品をつくったと思うし、誇れないものはないと思っています」。
大人になるってなんだろう。そのことをずっと考えている
新しい写真の可能性を見つけたい
「デジタルとフィルムの話も含め、視点次第で価値は変わるものであり、その価値は自分が決めるものだと思っています。渋谷の街が美しいかどうか、世界が美しいかどうかなんて正解はわからなくて、自分がどう見て、何を愛すのかという話だと思っていて。その上で、誰でも写真を撮れる世の中になっているからこそ、自分にとっての新しい写真の可能性を見つけたい。もう一歩超えていくような何かを見つけたいんです。以前『あなたの写真は、世界とはつながっているけれど、社会とはまだつながっていない』と人に言われたことがあります。まだ理解はしきれていないけれど、その言葉がすごく腑に落ちました。私はまだ、自分の出来事でしか自分の今日を変えられない。社会とつながりたくないのかと言われたらそうではなくて、自分がそこまでまだ届いていないだけなんです。だから今は、本心を言葉にしていけるよう、とにかくちゃんと、自分の目に映していくことをしていきたい。本当の意味で知ること、すべての出会いを大切にすること。その先にきっと何かがあって、確証のない何かを信じることができたら、明日も、一年後も、生きていけるって思っています」。
写真と映像、アナログとデジタル
「私にとって、写真はないと生きていけないくらい自分と切り離せないもので、その先で映像と出会いました。映像もすごくやりたいことで、欲しているものです。写真では写しきれない時間を残せる場合もあるし、純粋に楽しいから映像をやりたいというのもあります。フィルムカメラで映像を撮ることもあって、写真と同様に現像するまで見られないのでドキドキ緊張もするし、怖くもあります。でも、やっぱりフィルムが好きなんです。その場で撮った写真を見られるか、見られないか、とても感覚的だけど、でも、見られないことによって生まれる信頼とか、プレッシャーもそうですけど、そういうものも含めて、アナログだからこそ、というのはあると思っていて。また、最初に手にしたカメラはデジタルだったけど、実際に写真にのめり込んでいったのはフィルムカメラのファインダー越しに見た世界を好きになったからというのもあります。どちらも手法に過ぎず、目的に合わせて選ぶべきだと考えているけれど、私の空気、視点で自由に選んでいいと言われたら、フィルムを選びたいですね」。
Special thanks to
TOKYU LAND CORPORATION, Atsuya Katabami, Jango Yamada, Junya Narita, Katsusuke Inomata, Kyo, maeka, payu, Tarilla Tanaka, Tatsuki Inoue
GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】増田彩来/Q.いま、写真とどう向き合っていますか?
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.67
7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」 。表現において、“感覚” は大切。“自己流” も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
GENIC初のQ&A特集、写真家と表現者が答える81問、完全保存版です。