マーン・リンブルフ(Maan Limburg)
アーティスト/フォトグラファー 1988年生まれ。
写真とジャーナリズムのバックグラウンドを持ち合わせたビジュアルアーティスト。現在は日本の空室と高齢化をテーマにした「The Lost World」プロジェクトに情熱を注いでいる。冒険と日本を長年愛してやまない彼女の作品は、好奇心を原動力とし、最も美しい色、質感、そして人々を生涯探求し続けている。
主な展覧会に、「Like Stone」(Fotofestival Naarden 2021)、「Tales of Absence exhibition 」(nieuwegracht 2023)「Lost in Japan」(De Nieuwe Gang 2024)などがある。
置き去りにされた廃墟から伝わる、かつての思い出
2018年に東京から北海道、2019年に広島へと旅する中で、日本の郊外を巡りながら撮影旅をしていたマーン・リンブルフ。置き去りにされた廃墟の工場、ホテルや旅館、レストランなどを数多く見つけ、その建物たちが昔の人々の思い出で満ち溢れているように感じ、帰国後「The Lost World(失われた世界)」と名付けた展示をオランダで実施。日本での撮影によるこの企画「The Lost World」はCNN Travelの記事に取り上げられ、ヨーロッパとアメリカで大きな称賛を受けました。
今回は「The Lost World」の続編を「Without Us(人々の残像)」というタイトルで、東京のJinny Street Galleryにて日本で初めて展示。会場は、地域に置き去れた展示ケース42個を、空き箱のままにしておくのはもったいないと考えたことから設立された路上ギャラリーで、その成り立ちもリンブルフの心を惹きつけた要因のひとつ。本展にとって最適なロケーションです。
“この建物は実際には誰の物でもない”
東京都内のラグジュアリーエリアに現在でも聳え立つ10階建てのビルの中を探索していたマーン・リンブルフ。そのビルは、東京で最も高級ブティックやヒップなカクテルバー、寿司バーがある地域にありました。
ちょうど屋上にいたんです。そこには自転車があったし、ゴルフバッグも。そして、今私が座っているこの部屋はバーだったと思います。ベルベットの椅子もあって、飲み物のボトルまであります。
建物の下層階には2つのバーだけがまだ営業していますが、他の階は何年も空き家です。都市伝説によると、所有者は借金を抱えたビジネスマンだったが逃げ出してしまったという噂もあります。だから、今ではこの建物は実際に誰のものでもないのでは?東京のような人気の都市でも、こうした建物の一部が長い間空き家として残ってしまうことがあるなんて信じられません。
マーン・リンブルフ
“土地の寂しさと人々の温かさとの大きなギャップに驚いた”
どこへ行っても、人々は私たちが彼らの小さな集落にやって来るのを喜んで、最寄りの観光名所を案内しようとしてくれました。地元の銘菓や特産品などを分けてくれることもよくありました。例えば、車の中で猫と暮らす人から鮮やかで美味しそうなリンゴをいただいたり、私たちがシャワーを浴びたプール施設のオーナーからアイスクリームをもらったりしました。土地の寂しさと人々の温かさとの大きなギャップに驚かされました。
マーン・リンブルフ
今回の「Without Us(人々の残像)」の写真にはほとんど人が写っていません。しかし、かつてそこに住んでいた人々の思い出や記憶は、まだそこに息づいていて、見る人の感情に訴える写真の展示となっています。日本の空き家そのものや、普段は触れない現実に興味を持つ人におすすめしたい貴重な展示です。
マーン・リンブルフ 写真展「Without Us(人々の残像)」情報
開催日時
2024年4月12日(金)~5月12日(月)
会場
Jinny Street Gallery(神二ストリートギャラリー)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2丁目
行き方・アクセス
<電車>
東京メトロ 銀座線「外苑前駅」から徒歩で13分
東京メトロ 副都心線「北参道駅」から徒歩で10分
JR中央線「千駄ヶ谷駅」から徒歩で15分