柘植美咲
写真家 2000年生まれ、三重県出身。高校1年生から写真を撮り始める。2018年ポカリスエットの広告撮影に、高校生カメラマンとして起用され、業界で大きな話題となる。2020年、IMA next”LOVE”でグランプリを受賞。yonigeアルバム『健全な社会』へのアートワークの提供、羊文学や20th Centuryのアーティスト写真撮影などを手がけている。
愛用カメラは高校生の時から使い続けているNikon FM2。
#うちの父ちゃん
撮りたい!より撮らなきゃ!
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「夏は基本的にシャツとパンツだから、いつ撮ったのかわかりにくい」。
”うちの父ちゃん”を撮り始めたきっかけは、6年前に知り合ったスタイリスト山本康一郎さんの言葉がきっかけという柘植さん。
「最初に父を撮ったのは、2019年の旅行の時。ズボンに傘を入れているのを見て、アホだな〜と思って撮りました。本格的に撮り始めたのは2020年。成人の日に父と私のツーショットを康一郎さんに送ったら、『父ちゃんの顔が頭から離れない!父ちゃんを撮れ。こんな被写体そうはいない。』と連絡があって。康一郎さんに言われなかったら、今でも撮っていないと思います。なぜ『撮れ』と言われたのかは、まだよくわかっていません。撮っても、撮ってもわからないと思います。でも、だから撮り続けられるのかもしれません」。
父の好きなところは“おもしろくないところ”
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「確か、レースを見ていた。勝ったのか?負けたのか?」。
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「何かを作っている。カーネーションがあるので、母の日に近いのかな」。
普段は「お父さん」と呼んでいるという柘植さんが、#うちの父ちゃんというタグをつけた理由は、「康一郎さんが『父ちゃん』と呼んでいたからかも。でも、私にとっては、ただの父ちゃんではなく”うちの”父ちゃんだなと。多分、”うちの”をつけることでしっくりきたんだと思います」。撮影はいつも自然発生。「撮ると決めて撮影したことは、今まで一回もないです。撮りたい!というより撮らなきゃ!というのが先ですね。その時にはもう撮っていると思います。ポージングをお願いすることもないです。不思議なくらい、何もない。ただくだらないことをしている、普通の私の父を撮っています」。
撮りすぎない、でも撮れることを当たり前だと思いすぎない
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「父の誕生日に釣りに行った。父は船酔いを全くしない」。
「家族、友達、尊敬する人。好きな人が私に見せる姿を撮らずにはいられません。気まずいな、と思う時に撮ることもあります。その時にしか撮れない写真がきっとあるから。”うちの父ちゃん”の写真は、私や家族には、その魅力がわからないところに魅力を感じています。心がけていることは、父をチヤホヤしすぎないこと。すぐ調子に乗るので。よく『撮影?お父さん、モデル?』と言ってきます。普通にめんどくさいですね。あと、撮りすぎないこと。ゆっくりと長く撮っていくものだと、今は思っているので。でも、撮れることを当たり前だと思いすぎないようにしています。(写真を見る人は)おもしろいことが毎日起きているように思うかもしれませんが、普通の家族です」。
「魅力的だな」と思って撮ってはいない。でも撮る時には少なからず愛がある
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「この日、私はすごい船酔いをした気がする」。
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「朝早くに行った釣り。この頃には船酔いを克服していたような」。
「『魅力的だな』と思って撮っていません。でも撮る時に少なからず、愛があります。写真を撮っている時は常に幸せで、どの写真を撮った時も、写真家になってよかった、と思いますが、高校生で写真を撮り始めた頃、卒業したら写真はやめようと思っていました。今でも、明日は写真が撮れないかもしれない、と思う日もあります。家族を撮った日は、今日も写真が撮れてよかったな、と安心しますね。写真の神様と康一郎さんが『父ちゃんを撮れ』と言うので撮り続けていますが、良いことも悪いこともたくさん得てきました。悪いことも“得”です。“うちの父ちゃん”を撮り始めてまだ3年目、これからもっと“得る”と思います」。
家族を撮った日は「今日も写真が撮れてよかったな」と安心する
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「寝起きの母。母の好きなところはフットワークが軽いところ。あと、ノリが合うところも好きです」。
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「寝ている父。私もよく、お腹の上で手を組んで寝ます」。
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「最近の父。運動はしないし、食事管理もめちゃくちゃな父。でも、そのままの父を撮れば良いんだと気づくことができた」。
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「何があって、笑っているのかは覚えていない。そういえば、父に怒られることが少なくなった気がする」。
GENIC vol.66【気がつけば、追いかけて】
Edit:Yuka Eguchi
GENIC vol.66
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GENIC4月号のテーマは「撮らずにはいられない」。
撮らずにはいられないものがある。なぜ? 答えはきっと単純。それが好きで好きで好きだから。“好き”という気持ちは、あたたかくて、美しくて、力強い。だからその写真は、誰かのことも前向きにできるパワーを持っています。こぼれる愛を大切に、自分らしい表現を。