澤村洋兵
フォトグラファー 1985年生まれ、京都府出身。バンドマンとして青春時代を過ごし、その後は美容師、和食料理人、バリスタ、珈琲焙煎士などさまざまな職業を経験してきた異色のフォトグラファー。それぞれで培った感性を活かした写真は人物、風景、スナップなどバリエーション豊か。本人のライフスタイルの中にある瞬間を自分の色にして表現している。オンラインサロン「写真喫茶エス」主宰。
愛用カメラ:Nikon Z 5、Nikon Z 7
愛用レンズ:NIKKOR Z 50mm f/1.8 S
“寄り”と“引き”のテクニック
「曇りガラスから入る柔らかい光がきれいだったので、窓の近くで撮影することを決め構図探しをしました。メイクを少し濃くしてもらったので、手前に何もないと抜けが強く出すぎると思い、鮮やかな花束を前ボケに入れてバランスを取りました。撮影イメージのアンニュイ、きれい、かっこいい、かわいいが入り混じったような写真に仕上がりました」。
寄りは引き付けるようなパワーを引きはレストランの料理のように
これまで多くの人と関わる仕事をしてきた澤村さんは、“人”が好きだから人物を撮影していると言います。
「撮影するときには、寄り引きにかかわらず光、表情、構図、メイク、ファッション、ヘアスタイル、モデル選び、場所などすべてを妥協しないことが写真の良さにつながると思っています。寄りの写真のときは引きつけるようなパワーを感じる写真になるようにイメージすることが多く、引きの写真はレストランの料理のように、余白を大切に考えられた盛り付けをするイメージで撮っています。どんな写真もですが、モデルやスタッフ、みんなの感性が掛け合わさって、一人では出せない100%以上のものが撮れる可能性を秘めているところが、人を撮ることの楽しみ。それが生まれたときに喜びを感じます」。
全てを妥協せずに撮れるかが写真の良さにつながる
「左側の窓から優しく入る光に照らされるモデルさんを、できる限りシンプルに引き立つように撮りました。そのまま撮ると窓が入って少し目立ってしまうため、さらにシンプルにするため手前にあったカーテンを左手で持って窓が写らないように隠しながら前ボケに入れたのがポイントです。“シンプルで普通の写真に見えるけどなんか良い”という自分の作品テーマにハマる写真になった、お気に入りの写真のひとつです」。
澤村洋兵さんへ質問
Q1.顔に寄る際のピントの合わせ方について教えてください。
「まずはまつげにピントを合わせるように。それができるようになってから、撮りたい表現によって唇や髪の毛などその他の部分に合わせていきましょう。また、気を付けるべきポイントとして初心者がやりがちなのが、どんなときでも開放で撮ること。これが結構危険です。寄って写真を撮る場合はボケが激しくなりやすいので、絞りの調整に気を付けて。顔がボケすぎると、意図がない限りただふわふわした写真になってしまいます。どこまでピントを合わせるか気にしながら、F2からF4あたりで絞りを決めるのがよいと思います」。
「強い光が左側から差し込んでいたのを上手く生かしつつ、陰影が出るように片目だけに光を入れて、左右の目の色が違って見えるように撮影。視線を目や顔に誘導できるように、無駄をできるだけ省いた構図を意識しました。モデルさんのかわいさときれいさ。衣装の質感。光の入り方が美しく、モデルの表情、視線がとてもイメージ通りだったのでシャッターを切りました」。
Q2.寄り写真の構図や切り取り方のコツを教えてください。
「寄り写真の場合、写らない部分はあまり気にせずに構図を決めるのも手です。例えば、光の状況や顔の角度などがバッチリなのにどうしても首切りになってしまう場合、引いてみたときにはおかしなポーズだとしても、肩を少し上げてもらうだけでその状況を逃れられることがあります。また、頭を切って撮る場合は、モデルによって良く見える位置が違うので、頭の丸みやおでこの見え方などに注視してよりよい切り取り場所を見つけます。見せたい部分(主体)を、“モデル全体”や“顔”という大きい部分ではなく、もう少し細かいパーツで見て構図を決めるのがおすすめです」。
「全体的にふわっと明るい感じにしつつ立体感も出したかったのでクリップオンで撮影しました。シャツをディフューザーがわりに使い、光を柔らかくしつつ左側にある白壁に光を反射させて全体的に明るくしました。美しさ、かわいさはモデルとヘアメイクの力で引き出せていたので、少し上からの角度でカメラ目線をもらい三白眼にすることでパワーを感じるように仕上げました。右側を少しだけ強めに明るくしたのがポイントです」。
Q3.引き写真を撮るときに気を付けていることを教えてください。
「引いて撮るときは、被写体以外に写る余白の部分が重要です。僕は余白が美しい写真が好きなので、モデル以外の部分をどうデザインするか、隅々まで注意し確認して構図を選んでいます。寄りのときも同じ考えですが、引き構図の方がいろいろと入ってくる情報が多いので、より注意が必要です」。
「さわやかさをプラスするために逆光で。白飛びした空だけにならないように、葉っぱでバランスを取った構図にしました。髪の美しさ、動き、メイクのきれいさが伝わるように、それらを表現したイメージ写真という意識で撮影しました」。
Q4.寄り、引きそれぞれに最適なレンズは?
「寄って撮る場合、広角だと顔が歪みやすい、望遠だと会話がしにくいという部分があるので個人的には50mmが一番好きです。モデルと会話でコミュニケーションを取りながら撮影をしたいので距離感も重要です。また、引きについては、どこまで引くかにもよるのですが、ポートレート撮影を前提とすると50mmはモデル、35mmはシーン、24mmは場所ごと切り取りたいとき、というイメージで選ぶことが多いです」。
変わらず自分らしくいるために変わり続ける。作品はそのときの“好き”を追求したもの
「太陽の位置が高かったので、上からの光で影ができすぎないように光が当たる向きに顔を倒してもらいました。半順光ぐらいの光に当てることで艶感が出るようにし、モデルとヘアメイクの良さが伝わるように、いらないものを排除しつつ、動きを感じられるようにしました。ある程度メイクや髪に露出を合わせないと質感が潰れてしまうので気を付けています」。
「レトロ×おしゃれ×かっこいいをミックスしつつ、派手すぎないバランスの良い作品になりました。僕は何かを“作り込む”よりも、その時々の状況に“対応”しながら撮っていくのが得意だし楽しいです」。
「光や構図選びを考えすぎず、感覚的に撮ったこだわりの一枚。構えずに撮れるようコンデジのRICOH GR IIIを使って撮影。かわいさ、かっこよさ、美しさが入り混じったような、自然体ではないながらもナチュラルさを感じさせる写真。いい意味での“曖昧”さを表現しました」。
GENIC VOL.59 【あの人の表現に近づく! ポートレート撮影Q&A】
Edit: izumi hashimoto
GENIC VOL.59
特集は「だから、人を撮る」。
最も身近にして最も難しい、変化する被写体「人」。撮り手と被写体の化学反応が、思ってもないシーンを生み出し、二度と撮れないそのときだけの一枚になる。かけがえのない一瞬を切り取るからこそ、“人"を撮った写真には、たくさんの想いが詰まっています。泣けて、笑えて、共感できる、たくさんの物語に出会ってください。普段、人を撮らない人も必ず人を撮りたくなる、人を撮る魅力に気づく、そんな特集を32ページ増でお届けします。