成瀬凜
女優・モデル・写真家。2004年生まれ、東京都出身。アート系の高校でデザイン科に通いながら、芸能活動を開始。TVCMなどに出演しながら、女優として短編映画やドラマにも出演。独特なファッションセンスを持ち、Droptokyo、9090などのファッションモデルとしても活動。同年代の女性ファンからの支持も多く集めている。2021年9月、女子高校生フォトグラファーとして初の写真展『鏡の凜』を開催。
愛用カメラ:iPhone 11 Pro、Canon EF
愛用レンズ:Canon FD 55mm F1.2S.S.C
クスッと笑える「ミラーセルフポートレート」
撮る私とそれを鑑賞する人。鏡と私と場所。すべてを繋げてくれる手段
「背景と馴染みつつ生まれる違和感とマンホールの融合がテーマです。見慣れた風景に鏡を加えることで、その場所の存在感を改めて引き出しました。この道の先は行き止まりになっているため、鏡を置いて道の続きを作ろうと思い選びました。鏡はブックエンドで支えています」。
女優やモデル、女子高生フォトグラファーとして活動する成瀬さんが、ミラーセルフポートレートを撮り始めたのは昨年の春。高校で本格的なカメラの授業がスタートし、写真の課題提出のために考えたんだそう。
「何かテーマを絞って、誰が見ても私が撮った写真だとわかるような、 私らしい作品を撮りたかったんです。私にしか撮れない、クスッと笑えるようなユニークな発想で見る人を楽しませることができる作品を作っていきたいなと思っています。どう撮っているんだろうと考えてもらったり、関心を持ってもらえるようなものにしたい。鏡の置く位置で生まれる反射を試したり、普段自分が歩いている道に鏡を置いたりしたら面白いかもしれない、など街中を歩き写真を撮りながら多くの発見をしています。写真の捉え方も人それぞれだと思いますが、鑑賞してくれる人の新たな思考を生み出すきっかけになったり、感性や発想に刺激を与えることができたらいいなと思っています」。
「鏡のサイズ感にこだわりました。鏡があればドーナツにもなれる、どんな空間にも入り込めるということを伝えたかったです」。
Q1 どんなテーマでミラーセルフポートレートを撮っていますか?
「<誰“鏡”ている いや“ミラー”れている>をキャッチフレーズに、ありのままの自分の姿を映してくれる鏡を使って、写真の中に写る“自分を自分で撮る”というコンセプトをもとに撮影しています。17歳、女子高生、スマートフォン、コロナ、ノンフィクション、フィクション...青春の時間が刻一刻と進んでいる中で、等身大の自分を記録しています。物事にはすべて終わりがあるけれど、その過程を残すことで人生の記録になるというテーマを持っています」。
「多面的な角度から映る私がテーマ。見慣れた風景に鏡を加えることで、その場所の存在感を改めて引き出すよう意識しました」。
Q2 どうして自分自身を撮影するようになったのでしょうか?
「最初は自分ではない被写体を、自らスタイリングして撮っていました。しかし、撮っていく中でモデルというお仕事を自分がやらせていただいてることもあり、“私もここでこの服を着て撮ってもらいたい”という欲が湧いてきました。そんな中、写真家の浅田政志さんの写真集『浅田家』に出会い、刺激を受けたんです。ご自身の家族にいろいろな格好をさせてセルフの家族写真を撮り続けるユニークなもので、絵を描くように考えて作品を作り上げていく、という写真への捉え方が一気に広がったんです。そこから私は“自分で自分を撮る”という発想に辿り着きました。そして、ただの自撮りではなく鏡を使うことで日常の中に違和感のある世界を創り出し、自身を撮り続けるというテーマを考えるようになったんです」。
「魚眼ミラーと歪み。自撮りをする自分を鏡で自撮りする究極の自撮り!魚眼レンズで撮影されたときに画面の焦点や広域の面白さに興味を持ちました。それから魚眼レンズではなく魚眼ミラーを使って、より自分に焦点を合わせ、現実世界では有り得ない歪みを作り出す“鏡の中の不条理”に入り込もうと思いました」。
Q3 写真を撮るときに大切にしていることを教えてください。
「テーマでもある“自分で撮る”ことを重要視しています。写真をより彩るような服やメイクを自分で選んだり、顔の表情や写る向きも考えたりしています。あとは周囲の迷惑にならないことも大事ですね(笑)」。
一目で鏡に目がいくような違和感のある世界を引き出したい
「いろいろなパーツを組み合わせてひとつの建物を作り上げていく工事現場からインスピレーションを受けて、さまざまなパーツからひとりの私が作り上げられていることを伝えるために、この場所で撮影しました。すべての鏡に自分が映るように配置し、反射するようにしたのがこだわりです」。
Q4 このような作品を生み出すために必要なことやこだわりを教えてください。
「まず私の撮影に欠かせないのは自分と鏡です。大小、さまざまな形の鏡を組み合わせたりしながら活用しています。自分で面白い形の鏡を作ったり、その場で見つけたりもしています。スマートフォンを使って片手でセルフ撮影をしているのは、女子高生だからこそのこだわりのひとつです。鏡の写真という異様な世界の中に、現代のスマートフォンを落とし込むことで日常と非日常を結びつけるような、抜け感を出せたらなと考えています。日常的に鏡を持ち歩いて面白そうな場所を見つけて、あらゆるところに引っ掛けたり立てかけたり、その場に設置されている鏡をうまく使って撮影することも。鏡と鏡を置く場所が鏡を通してリンクしたり、逆に違和感を生み出したりするような、お互いの良さが最大限に出る背景選びを心がけています。規則的な線の入った背景を、魚眼レンズのような鏡を使って歪ませたりすることもあります。あとはレタッチするときに鏡の中の明るさや彩度を上げたり、一目見ただけで鏡に目がいくような、違和感のある世界をより引き出せるように心がけています」。
「花から見た私になるように鏡を配置して撮影しました。被写体を撮るカメラマンと、被写体から見たカメラマンを同じ画面に収めたら面白いかなと思って試してみました」。
GENIC vol.61 【あの人たちの感性から学ぶ 想いを運ぶ写真術】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC vol.61
テーマは「伝わる写真」。
私たちは写真を見て、何かを感じたり受け取ったりします。撮り手が伝えたいと思ったことだけでなく、時には、撮り手が意図していないことに感情が揺さぶられることも。それは、撮る側と見る側の感性が交じり合って起きる化学反応。写真を通して行われる、静かなコミュニケーションです。