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シェアハウスで綴る今ここにある物語
暮らしのリズムや音に合わせて
「今夜、共に食卓を囲めるということは決して当たり前ではない、そう思い出す度にリビングを撮っています。戻らぬ今日を誰かと生きている喜びは、出会いと別れを繰り返すシェアハウスでの日々から学んだこと」。
「お菓子作りが趣味なので、ゲストが来るとよくお菓子を作ります。この日のゲストと焼いたのはスノーボールクッキー。お菓子作りや手紙など、手作業にこだわって暮らすことが好きなので、そんな様子をよく撮ります」。
「シェアハウスのリビングにある食器棚にグラスを戻しているとき、ふと目に入ったのがガラスに反射して映っていたキッチン。暮らしには、見ようとしなければ見えない、愛しいものが溢れていると気づいた瞬間」。
国際協力の道を夢見て大学に入ったものの、コロナ禍で海外活動が困難に。そんなときにカメラに出会ったYamashitaさん。「前年に海外ボランティアへ行き、現地で役立つ技術がない自分を無力に感じていた頃でしたが、偶然手にしたカメラに新たな可能性を見出し、世界中で暮らしながら自分の作品を作り、その収入を国際支援へ回すという夢ができました。以来どこに住んでも、日常の暮らしの風景を被写体にしたスナップを撮っています。光が差し込むことで日が傾く時間だと気づいたとき、ご飯を作る音が聞こえたときなど、暮らしのリズムや音に合わせて撮っていることが多いですね。自然とそこにあるものやその場の持つ雰囲気が、自身の表現したいイメージと適合したときにシャッターを切る、これがスナップをただの記録から作品にする瞬間だと思っています。頑張って被写体を探すのではなく、見えたときに撮る。このスタンスでも撮りこぼさないためには、普段から視点を増やしていくことや、神経を研ぎ澄ませていくことも必要です」。
いつか必ずなくなるけれど、決して忘れたくない場所
「個人的に苦しくて辛い経験があった今年の夏。ふと目に入った扇風機がどこか淋しく見え、そのときの自分の感情と重なりシャッターを切りました。例年よりも暑くギラギラしているのに、淋しい夏だったと感じる1枚です」。
「見上げた窓から、ベランダで風に揺れている洗濯物を撮影。暮らしのリズムに乗って、洗濯物が踊っているように見えた」。
「今回はすべて、現在暮らしている三重のシェアハウスの写真で、今私はここで暮らしていると鮮烈に感じる瞬間や、いつか必ずなくなるけれど決して忘れたくない場所なのだと気づいたときの作品です。シェアハウスで移ろう時間や、そこにある暮らしをそのまま観察したものと、自己内省をイメージした窓や扉の反射を用いたものを織り交ぜ、今ここにある物語として伝えたいと思っています」。
頑張って探すのではなく、見えたときに撮る
「洗濯物を取り込んでいるときに目が留まった、みんなで共有しているカラフルなハンガー。一人でなく誰かと一緒に暮らしていると、視覚的に思わせる光景だと思います」。
「シェアハウスの庭で。どんなに忙しくても仕事を言い訳に、季節の微細な変化や風の音などを逃さぬよう、猫と一緒に外に出るようにしています。この写真は、そんな猫と庭で過ごしながら、そこに差し込む光を撮っていたら、猫がフレームインしてきたもの」。
Hana Yamashita
写真家 2000年生まれ、熊本県出身。2019年大阪大学法学部国
際公共政策学科入学。翌年より写真家として活動することを志し、独学で写真を学びながら作品制作を開始。2021年大学を休学し、アドレスホッパーとして日本中を旅しながら「旅と日常と孤独」をテーマに地域密着型のドキュメンタリーを制作。2022年よりヨーロッパや東南アジアへ出向き、暮らしを作ることを含めた制作をスタート。「Jeter_捨てられる写真」作品販売中。また、スナップポートレート特別企画「Main Character Syndrome in みえのおうち」の被写体も募集中。
愛用カメラ:Sony α7R III、Sony α7 II
愛用レンズ:Sony Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS、SIGMA 35mm F1.2 DG DN | Art
GENIC vol.69【“暮らし”の中にカメラを向けて】
Edit:Satomi Maeda
GENIC vol.69
1月号の特集は「SNAP SNAP SNAP」。
スナップ写真の定義、それは「あるがままに」。
心が動いた瞬間を、心惹かれる人を。もっと自由に、もっと衝動的に、もっと自分らしく。あるがままに自分の感情を乗せて、自分の判断を信じてシャッターを切ろう。GENIC初の「スナップ写真特集」です。