ほのあかるいラブホテル/龍崎翔子のクリップボード Vol.22
HOTEL SHE, KYOTOをオープンしたばかりの頃、よく「ラブホテルじゃないか」と揶揄された。
数年前の話だから、当時は「ライフスタイルホテル」という言葉はなく、「ブティックホテル」はラブホテルを意味していた。
シティホテルじゃない、ビジネスホテルでもない、となると、個性的な内装や若い女性が経営しているということも相まって「ラブホテル」だと言いたくなったのかもしれない。
これがソフトなセクハラだということは当時からよくわかっていたが、私はどちらかというと自分の認知の枠組みを超えられない大人に対して哀れみを抱いた。
ホテルプロデュースを志すにあたって、ラブホテルは長い間私のインスピレーションの宝庫だった。カタギのホテルが均質化していく中で、ラブホテルは常にエンターテイメントの舞台だった。
宮殿のようなホテル、ゴンドラでチェックインするホテル、部屋にプールのあるホテル。独自の世界観で、ただの寝床ではなく泊まる楽しみを提供する。その自由で大胆なホテルたちは、大概眉をひそめられ陽が当たらないことも多かっただろうけど、間違いなく日本のホテル文化を牽引していたと思う。
街中で手を繋いでいるカップルを見てもなんとも思わないのに、ラブホテルですれ違うとそこはかとないいやらしさを感じてしまう自分が不思議だった。
「ラブホテル」という言葉自体が、どことなく後ろ暗く、口にすることさえ憚られるように感じられた。
いわゆる「ホテル」が旅行先で泊まる場所なのだとしたら、「ラブホテル」はきっと日常生活の中で、普段一緒に夜を過ごせない人と泊まる場所なのだろう。
そう考えると、ホテルとラブホテルの境界線ってとても曖昧だ。
旅ではない、日常の中の非日常として誰かとお泊まりをする。そんなほのあかるいラブホテルでいたいといつも思っている。デート、女子会、オールナイト。記念日をお祝いしたり、ダラダラと一晩中おしゃべりをしたり、何をするでもなくビンジウォッチングしたり。
私はよく、気の置けない友達と遊ぶときにホテルお泊まりを選ぶ。夜に集合して、ごはん食べて、深夜までとりとめのない話をして、寝落ちして、一緒に朝ごはんを食べて、それぞれの予定へと向かって行く。
恋人、パートナー、友人、家族。誰かとホテルに泊まるとき、きっとそこには愛がある。
【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー
龍崎翔子
2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。