【龍崎翔子のクリップボード Vol.21】メディアとしてのホテル

龍崎翔子<連載コラム>

龍崎翔子<連載コラム>第1・第3木曜日更新
23歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

【龍崎翔子のクリップボード Vol.21】メディアとしてのホテル

ホテルはメディアだと思う。
「ライフスタイルを試着できる」空間で、日常生活では出会えない価値観やブランド、アイテムに出会い、人生が少し豊かになる。そんな価値を提供することが私たちの使命だと思っている。

20歳のクリスマスの夜、彼氏が私にプレゼントしてくれたのはアナログレコードプレーヤーだった。
音楽は長い間趣味にしてきたけれど、物心ついた時から親指で音楽を聴いていた世代だった私にとって、レコードプレーヤーは映画や小説や、私の手の届かないところで輝いているだけの存在で、ターンテーブルが欲しいとか買いたいと思ったことなんて一度もなかった。

でも、いざレコードとそのプレーヤーが自分の占有スペースにやってきたことで、私の生活に豊かな時間がもたらされた。
それまでなんの気なしに聞き流していた「針を落とす」という言葉がリアルな実感を伴うようになって、裏寂れた1DKの木造アパートに優しい音色が響きわたるようになった。

今まで存在も気づかずに通り過ぎるだけだったレコードショップにも立ち寄るようになって、文字通りジャケ買いをした。好きなアーティストがLPの新譜を出すたびに、我先にと買った。やがてDJをはじめ、レコードを聴けるホテルを作った。

私は雑誌がすごく好きで、毎月5~10冊くらいは買って読むのだけれど、写真とテキストだけで伝えられる情報には限界があると思う。
例えば、もし私が雑誌のレコードプレーヤー特集を読んだだけだったら、レコードプレーヤーの佇まい、感触、音、そこで過ごす時間を知ることは決してなかっただろう。
パブリックとプライベートが融合した、日常生活が営まれている場所だからこそ、
ホテルには伝えることのできる価値観やライフスタイルがあると信じている。

ホテルはとても面白い箱だと思う。その街に住む人も、地球の裏側に住んでいる旅人も、この箱の中で一夜を明かす。Netflix社を筆頭に、IT企業たちがしのぎを削ってユーザーの占有時間を奪い合っている中、ホテルは悠々とユーザーの1日の大半という時間を手に入れる。

街、人、文化の交差点となる場所にホテルがあると思う。だから、ホテルはメディアになり得ると思っている。触れたことのない価値観と、まだ見ぬ「ライフスタイルを試着する」ホテルを作っていきたい。

【龍崎翔子のクリップボード】バックナンバー

Vol.20 セクシーなウィンターリゾート
Vol.19 深夜のアメリカンダイナー

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

龍崎翔子 Twitter
龍崎翔子 Instagram
前の記事