Unconscious 無自覚
「旅の中に写真があるのではなく、純粋に写真を撮るために旅をする。写真と向き合う純度を高くするために、旅をするという時間を作る。ただひたすら歩いて写真を撮るだけの一日を繰り返す。無自覚なものの中にある面白さや美しさを勝手に発見して、楽しむ」。
「近づいて見たらけっこう生々しかったので、薔薇越しに見るくらいの方がちょうど良かった」。
自分にはまったくコントロールできない、思いつきもしない瞬間が無限にあるからこそ、写真も尽きることがない。
「プラハの朝。日の出前から一番高い丘に登るのが日課に。時が止まったかのような街で、ノソノソと目の前を横切る人にこちらもつい立ち止まる」。
無自覚さの中で出会う写真的瞬間が面白い
「駅にはとりあえず行ってみる。何処かに行く人、何処かから来た人...みんな目的を持っているのでこちらには無頓着だし、さまざまな人間模様が見られるので飽きません」。
「無自覚とは、まさか写真のためになんてまったく存在していない、すべてのものや瞬間。つまり世の中のものすべて。目の前のものすべてを写真という目線で見ると、世の中は100%写真的無自覚な瞬間の集積でできています。それはとても当たり前のことなのですが、自分にとってはその無自覚さの中で出会う写真的瞬間が面白く、なぜかしら無自覚さが滲み出るものにより惹かれる傾向があります。その瞬間に出会ったことや気づいたことが、その写真のすべてです。自分にはまったくコントロールできない、思いつきもしないその瞬間が無限にあるからこそ、写真も尽きることがありません。世の中を写真という目線で見ること、無自覚の中にある面白さに出会うこと、気づくこと、反応すること、それを写真で切り取ること。ずっと楽しくていつまでも続けていける行為です。そういう目線で生きていけたらずっと幸せだと思います」。
「太陽が眩しかったとか、日差しが暑くて風がなかったこととか、夏の匂いとか、記憶が結びついて覚えているものです」。
「すごく楽なカメラを買ったので、試しに使ってみようと好きな植物園に行った。ぜんぜん使えなくて、それ以来一度も使っていない」。
「旅先は、◯◯を撮りたいというよりも、その街に長くいても苦しくならなそうな場所を選んでいる気がします。自分のことを放置してくれそうな、自分の存在を消せそうな土地を選ぶことが多いです」。
写真を撮っていられたら、写真を撮る目線で世界を見ていられたら、ずっと退屈せずに生きていける。
「レンジファインダーのカメラで撮影。心のフォーカスをいろいろなところに合わせて、想像しながらシャッターを切ります」。
「旅先では、必ず植物園に行ってしまいます。好きなので」。
旅は、一番純粋に写真のことを考える時間
「誰も気にしなくなってくれたら良いなと思って、カメラを手に持って構えたまま、何分も静止して銅像になったつもりでいることがよくあります」。
「どんな風に写るかは想像でしかなく、ファインダーを見てもわからない。そんな写真に限って一枚しかシャッターを切っていないことが多いのは、なぜなのでしょう」。
「旅に行くから写真を撮るのか?写真を撮るために旅に出るのか?自分の場合は、完全に写真を撮るために旅をします。ただひたすら歩いて、出会ったものをただ切り取ります。目に入るすべてが被写体になり、その感覚はどの土地にいても変わりません。写真を撮ること以外、ほとんど何もしません。旅=写真、写真=旅。旅は私にとって、さまざまな要素がある日常に比べて一番純粋に写真のことだけを考える時間です。体力の続く限り、それは変わらないだろうと思います。世の中を面白がること。フラットでいること。写真を
好きでいること。常に写真に対して、新鮮な気持ちを持てる努力をし続けたいです」。
市橋織江
フォトグラファー/シネマトグラファー 1978年生まれ。広告や雑誌、アーティストなど多分野で写真を手掛ける。また、TVCMを中心にムービーカメラマンとしても活動し、映画『ホノカアボーイ』『恋は雨上がりのように』、ドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』『雨の日』などで撮影監督を務める。世界のさまざまな地を独自のトーンと視点で切り取った作品を発表し、主な写真集に『サマーアフターサマー』『TOWN』『PARIS』『BEAUTIFUL DAYS』『Gift』『SHIBUYA-KU』(私立恵比寿中学)など。
愛用カメラ:Mamiya RZ67、Leica M4/M6、Nikon FG
GENIC vol.68【Unconscious 無自覚】市橋織江
Edit:Satoko Takeda
GENIC vol.68
10月号の特集は「旅と写真と」。まだ見ぬ光景を求めて、新しい出逢いに期待して、私たちは旅に出ます。どんな時も旅することを諦めず、その想いを持ち続けてきました。ふたたび動き出した時計を止めずに、「いつか」という言葉を捨てて。写真は旅する原動力。今すぐカメラを持って、日本へ、世界へ。約2年ぶりの旅写真特集。写真家、表現者たちそれぞれの「旅のフレーム」をたっぷりとお届けします。