棚木悠太
作家 福島県出身。航空自衛隊で航空機の操縦を学び、退官後に執筆活動を始める。2年程前にリサイクルショップで中古フィルムカメラを購入したことをきっかけにカメラにも興味を持ち、SNSでは独自の感性で切り取った写真を発信。
愛用カメラ:Canon A-1
愛用レンズ:Canon NEW FD 50mm F1.4
普通だけどドラマチックな日常
高校卒業後に航空自衛隊に入隊し、退官後は作家として活動している棚木さん。
「ありきたりな日常で、人に自慢できるような特別なことはまったくない。道端に転がっていてもおかしくないような普通の日常。大切なことは、毎晩の飲酒。幸せを感じるのは、素晴らしい人や料理や作品に巡り合えた時。自衛隊を辞めてから、せっかく厳しい規律と数多くの制約から解放されたのだから、正反対の生き方をしたいと思っている。普段意識することはほとんどないが、自分の人生を一本の物語だと思って振り返ってみれば、誰かと食事を共にするのも、深夜のレイトショーでひとり映画を観るのも、ドラマチックでロマンチックなワンシーンのように感じ、普通でありきたりな日常にも満足している」。
Rule01:ロマンとユーモアを忘れない
「これは僕が好きな現実の友人や、映画に登場する架空の人物に共通していること。彼らは生い立ちも性格も違うのに、どこかロマンチックで独特なユーモアを持っている。そこに強く惹かれてしまう。彼らは財布とハンカチは忘れても、ロマンとユーモアだけは肌身離さず持ち歩くような人間。僕自身もそんな人間でありたい」。
「後ろのブルーの壁と、花の色とのコントラストが気に入っている一枚」。
「緑色のハンドソープが鏡に映って並ぶ光景が面白くて、思わず撮影したもの」。
Rule02:適度な運動を心がける
「もともと体を動かすことは好きなので、夏は近所のプールで泳いで、冬はランニングやサイクリングをしている。何をするにも筋力と体力は必要だから、できるだけ維持するよう意識している。スポーツ選手になりたいわけではないので、過度に自分を追い込むようなことはしない。写真を撮るようになってからは散歩をすることが増えた。カメラさえあれば時間を忘れてしまうので、苦ではない」。
Rule02の写真はすべて散歩中に見つけた光景を切り取ったもの。
「それぞれの色の融合と、屋根の影の面白さに惹かれて」。
「闇に浮かび上がるバーのネオンが幻想的」。
「夕日によって照らし出された家と、それを含めたそれぞれの色が美しい」。
Rule03:体が欲するものを食べる
「入隊して飛行訓練が始まったばかりの頃、当時の担当教官が『いつ何が起こるかわからない職業だから、ものを食べる時は常に最後の食事だと思って真剣に食べろ』と言っていた。これは今を生きるすべての人に当てはまること。だからこの食事は最後だと思って、真剣に食べるようにしている。そして最後の食事は自分が食べたいもの、つまり自分の体が欲するものが好ましい。体がマクドナルドのビッグマックを欲する時はカロリーなんか忘れて真剣に食べ、体がボウル一杯のサラダを欲する時はひたすら真剣にそれを食べる」。
「祖母の家でメンチカツを作った時の一枚。生活感のある料理風景が気に入ったので」。
「暗闇の中に浮かび上がる壁とコースターの緑、ミルクセーキのクリーム色が美しかったので撮影」。
Rule04:身だしなみを整える
「爪は短くする、毎朝髭は剃る、常に清潔な服を身にまとう、など外見の身だしなみももちろん大切だけれど、内面、つまり心の身だしなみはさらに大切。心の身だしなみを整える方法は人それぞれ違うのだろうけれど、本や映画や音楽といったすばらしい作品に触れることは、ひとつの方法だと思っている。できるだけたくさんの作品を手に取り、もし人生の道標になる作品に出会えたら、それを何度も繰り返し読んで観て聴くことで、心の身だしなみは整っていくはずだと信じている」。
「髭を剃り終わった時、この生活感のある光景が面白く見えた」。
「靴、トラウザー、ジャケットそれぞれによって作り出される光と影のコントラストが美しい」。
Rule05:自分らしく生きる
「生きていく上ですべての判断基準は、結局これだと思う。自分らしく生きられる道と、そうでない道。どちらも非常に険しく困難な道であることに変わりはないはず。だったら自分らしく生きられる道を選んだ方がいい。それに人は自分らしく生きられない道を歩き続けることはできず、遅かれ早かれ止まってしまう。地味な服を着るにしろ、派手な車に乗るにしろ、自分が自分らしいと思える方を選びたい」。
「多くの色が混ざり合う内装が面白い、カラフルなロッカールーム」。
「修理途中の車内の内装の美しさに惹かれて」。
「影と光のコントラストが気に入って撮影」。
Information
小説『どこかで』
出版社:KADOKAWA
GENIC VOL.60
特集は「とある私の日常写真」。
当たり前のようでかけがえがなく、同じ瞬間は二度とないからこそ留めておきたい日常を、表現者たちはどう切り取るのか。フォトグラファーが、クリエイターが、私たちが、それぞれの視点で捉えた日常写真と表現、そしてその想いに迫ります。