相武えつ子
お母さん兼フリーランスフォトグラファー 愛知県在住、姉妹の母。自身の家族をテーマに写真を撮り続けている。2015年シグマフォトコンテスト優秀賞受賞。多くの写真展へ参加するほか、Canonワークショップ講師、トークショー登壇、EOS Kiss X10iのカタログ撮影なども務める。
愛用カメラ:Canon EOS R、Canon EOS-1v
愛用レンズ:Canon RF35mm F1.8 MACRO IS STM/EF50mm F1.2L USM
子どもを撮るときに大切にしたいこと
「空をダイナミックに撮りたかったので、地面すれすれから狙って撮りました。空と空に負けない存在感の娘を被写体に、いい風が吹いた瞬間にシャッターを切りました。階段の暗いところもあえて写真の中に入れ、写真が引き締まった印象になるようにしたのがポイントです」。
ピンボケだっていい。どんなシーンでも残しておきたい
ご主人に勧められて写真をはじめ、そして写真が大好きになったのは生まれたお子さんを、“撮りたい撮らなきゃ残さなきゃ”と思ったからという相武さん。
「子どもの成長は一瞬で、すぐ過去のものになります。とても尊いです。その成長を忘れないように撮り続けています。もう覚えてないこともたくさんありますが、写真に撮ったシーンのことは色濃く覚えています。あいまいな記憶を記録に残せるんです。どんなカメラでも、ピンボケでもいいのでたくさん撮っておきたい。また、子どもだけではなく、ときにはパパママも、そしてその場所も一緒に残しておくと、いつか見返したときに、みんなにとってうれしい写真になると思います」。
いかに“その子らしい”写真を撮るか?それを考えるのが楽しい
「娘がメガネを作り、“お母さん見て! ヒーロー!”と撮ってほしそうにポーズをしていたところをフィルムで撮りました。屋内ののっぺり感をなくすように前ボケに照明を入れ、奥行き感を出しました。自宅のありのままの様子を残し、元気さ自由さ楽しさを表現しています」。
相武えつ子さんへ質問
Q1.子どもの自然な表情や姿を引き出す方法を教えてください。
「長女は美しく撮られたい人です。なので美しく撮れるよう、ふたりで意見を出し合うこともあります。次女は楽しく撮られたい人です。そんな次女の楽しさやエネルギーが伝わるように残したいので、あまり声をかけないか、または遊びの提案をしていいところを引き出すようにしています。一言で子どもといっても、同じ姉妹でも撮ることについてのアプローチはこんなに違います。重要なのは、いかにその子の良さを引き出して“その子らしい写真”を撮るか。よく観察して被写体の良さを知ることです」。
「娘ふたりのモダンバレエの発表会のひとコマを、舞台袖から撮影しました。姉妹ふたりの性格の違いがポーズに表れていて面白かったので、気づくとたくさん撮っていました。ふたりの動きや表情が光に当たって見えるように、背景も撮れるアングルから狙っています。この写真は私の自信作でもあります!」。
Q2.ポージングをして欲しいときにはどうすればいいでしょうか?
「場所の指定をすることはありますが、ポージングの指示まではあまり出したことがありません。子どもなので『ああして、こうして』というとその通りにしかできず、その子らしい写真が撮りづらいからです。撮りたい姿に導くような、誘導するけどその子の自由があるような大まかなお願いをします。季節的なシーンを撮るときは、子ども達が安全にかつ美しく見えるようなお洋服は、あらかじめ考えます」。
「ランドセルを背負った姿を撮りに行ったときの写真です。私が写真を撮りながら“待ってー”と追いかけたときの、一番元気よく楽しそうな瞬間を撮影しました。光を取り込みながらも逆光になりすぎないように、子どもも桜も空も光も撮れるように意識しました。tokyo grapherのOPF 550-Lというフィルターを使っています」。
Q3.被写体が子どもだからこそ、気をつけることはありますか?
「子どもと会話すること、子どもの意見を聞くこと、子どもの意見を尊重すること。私の場合は自分の子どもだから甘えもあると思いますが、子どもは子ども。やりたいことはたくさんあります。せっかくの休日なのは大人も子どもも同じです。なので子どもを尊重し、楽しく過ごせるように、あまりイメージしすぎず、その場で撮れるものを撮るように気を付けています。また、撮ることはその子らしさを認めること。かわいい!とか最高!とか、子どものいいところを口に出しながら撮ることで、子ども達もうれしそうにしてくれます」。
「親なので子どもの行動は何となく想像できるんです。このときは寝室で遊ぶと言われたので、“何かが起きそう!”と、カメラを持って後を追い、布団にダイブしている瞬間を連写しました。次の一枚は布団しか写っていなかったです(笑)。右側が荷物でごちゃごちゃしていたので事前にドアを閉めて、子どもへと目線が行くように促しています」。
Q4.子どものポートレートを撮る際におすすめのレンズはありますか?
「私は単焦点が好きです。背景が美しくボケて、子どもたちに写真を見せると自分が写真の中で主役になったように感じる、と喜びます。あとは子どもが小さいうちは離れると危ないこともあるので、35mmか50mmをよく使っていました。そうすると会話しながら写真も楽しむことができますよ」。
“記録”がたくさんあると 子どもの“記憶”が増える
「自宅の庭で、暑くて水遊びをしていたときのワンシーン。私は濡れていい服装をしていなかったので、家の中から窓越しに撮っています。娘の“きもちいい! たのしい!”と、楽しくてたまらない様子が垣間見える瞬間だったので撮影しました」。
Information
相武さんが顧問をしている、親子のための写真のオンライン写真部『まなざしフォト部』では、家族が好き、写真が好きなママさんパパさんと3か月間オンラインで交流ができる。ただいま第三期活動中。
GENIC VOL.59 【あの人の表現に近づく! ポートレート撮影Q&A】
Edit: izumi hashimoto
GENIC VOL.59
特集は「だから、人を撮る」。
最も身近にして最も難しい、変化する被写体「人」。撮り手と被写体の化学反応が、思ってもないシーンを生み出し、二度と撮れないそのときだけの一枚になる。かけがえのない一瞬を切り取るからこそ、“人"を撮った写真には、たくさんの想いが詰まっています。泣けて、笑えて、共感できる、たくさんの物語に出会ってください。普段、人を撮らない人も必ず人を撮りたくなる、人を撮る魅力に気づく、そんな特集を32ページ増でお届けします。