移住したらストレスってなくなるの?/伊佐知美の「旅するように移住」Vol.11
移住によって変わること
移住したら、今感じている暮らしのストレスって、果たしてなくなるのだろうか? すごくストレートな疑問だけれど、移住前の身からすると、「なくなってほしい。なくしたいなぁ」と願うばかりの大切な課題である。
結論から述べてしまうと、「現状の何か」を変えたくて移住を選ぶ人が多いので、その結果それまで抱えていたストレスが軽減または解消されることは確実にあると私は思う。
さすがに、「移住するとすべてのストレスがなくなりますぜ!」というような無責任なことは言えないけれど、数々の移住関連調査の結果や、私がインタビューさせてもらった方々の声、また私自身の経験から見ても、移住によってストレスが減る人は実際に多い。
改善されるストレスは、たとえば、居住スペースの狭さや固定費の高さ、自然へのアクセスの悪さや人間関係、職場への通勤時間などいわゆる「QOLのアップ」関連のほか、「そもそも、私はなんのために生きているのだろう?」といった根本的な疑問や、漠然とした将来への不安など。
また、取材でよく聞く具体的なストレス軽減例は、以下だ。
・地産地消の野菜が安価で手に入ることがデフォルトなので、食生活が豊かになった。水がきれいなので肌もきれいに。
・人口密度が都会ほど高くなく、土地が広々としているため、自宅に差し込む自然光が増えた。結果朝日で自然と起きるようになり、健康的なリズムで生活ができるようになった。
・毎日通る道が美しいので、生活しているだけで幸せを感じる瞬間が増えた。
・電車や車、隣人の生活音など騒音がなくなり、虫の声や水音など自然の音に囲まれる時間が多くなって癒やされる。
・美容室代やコスメ代など、誰かに見せるためのおしゃれではなく、食事や運動など内側からの美容により気を遣うようになり、結果出費が減った。
などなど。
私自身の経験で言うと、沖縄県は、首都圏よりも日没時間が30分ほど遅いので、平日の仕事終わりでも美しい日没に間に合う日数が多い。「今日は夕陽がきれいそうだな」と感じる日、気が向いたら近所の高台のカフェにふらりと立ち寄って、夕暮れを見ながら夕食をいただくだけで、日頃のストレスが吹っ飛ぶな、と感じる。
また、東京では地下鉄に乗ることが多く、真っ暗な景色を眺める時間が長かったのだが、沖縄では格段に自家用車での移動が増え、自然の景色を眺める時間が多くなったことも嬉しいなと感じる。
でも、「移住はユートピアじゃない」。新しいストレスの種に出会うことも
ただ、移住前に想定していたストレス軽減・解消は確実に見込めるものの、移住先にもよるが、移住後に新しく発生するストレスの種というものも存在する、ということについても合わせて言及しておけたら……!
もちろん、それらが新しい大きなストレスに直結したり、移住を後悔する理由になったりする、ということが多いわけではない。むしろ、前半で紹介したように、移住によって従来のストレスが減り、心や時間に余裕ができたため、移住前ならストレスに感じたであろうことも「楽しいこと・新しい興味関心」に転換できるようになった、という声をよく聞くほどだ。
けれど、移住後に出会いうるストレスの種について、移住検討段階で知っておくことは大変有意義だと思うので、ちょっぴり紹介させてほしいのだ(もはや移住経験者たちの老婆心……!)。
それは、たとえば以下。
・移住先は自然が多くてとてもきれいだけど、虫の数が多いし、なんだかサイズも大きい気がする。苦手な人はつらいかも。
・海や川のそば、森の中などの家は湿気が多く、とくに梅雨時期はカビ対策に必死になる。
・田舎ならではの出費が不可避。たとえばガソリン代や冷暖房費、雪国なら除雪費用など。
・九州や沖縄地方ではとくに、台風シーズンはスケジュール通りにいかないことが多い。前後に余裕を持つことが必要。
・車社会ならではの苦悩がある。渋滞や、自分の車が何か把握されていると「ショッピングモールにいた」「何の道を通った」「見知らぬ人を隣に乗せていた」などと、言われることも。
・移住前よりも人付き合いが密になり、地域の活動に参加するため、プライベートの時間を削る時期が発生。
これらがささいなことか、自分にとってのストレスになりそうなことかは、人それぞれだと思うので、参考までに読んでもらえたらありがたい。
個人的には、これらを総合しても「移住したらストレスってなくなるの?」の答えは、大きな声でイエス!だと思っている。
次回は、後半で紹介したストレスの種をもう少し深掘りした、「移住した人のリアルな悩み大全」がテーマの予定。ではでは、また!
伊佐知美
これからの暮らしを考える『灯台もと暮らし』創刊編集長。日本一周、世界二周、語学留学しながらの多拠点居住など「旅×仕事」の移動暮らしを経て沖縄・読谷村に移住。移住体験者の声をまとめた『移住女子』の著者でもある。