ソノダノア
写真家 東京都出身、熊本県在住。「生活とファンタジーの融合で撮る写真家」として活動中。娘・もくれんの写真と詩で構成した写真集『ケンカじょうとういつでもそばに』(KADOKAWA)が発売中。
愛用カメラ:「押せば写るようなタイプのいろいろなフィルムカメラ」を使い分け。
愛用レンズ:コンパクトカメラがメインで、Nikonの一眼用に50mmと35mmを所持。
娘との移ろいゆく生活
「誕生日に買ってもらったブレイブボードを練習しに、意気揚々と夜の路上へ。その矢先に転んで、もう帰ると言い出した時」。
「たまねぎを切っといて、と言ったら、この姿になっていた」。
「毎年クリスマスに焼くチキンレッグ。皮の部分を『ぷりぷり』と呼んでそーっと剥がし、最後に味わって食べます。好きなものは最後にとっておくタイプ」。
ありとあらゆる場面で娘との生活を定点観測的に撮影
12歳になる娘・もくれんさんの姿を通じ、移ろいゆく2人の生活を定点観測的に撮影しているソノダさん。
「たとえば今着ているこのシャツ、よく似合ってるけど次の季節にはもう入らないだろうなってふと思う時だったり、骨付き肉にかぶりついていかにも捕食中って時だったりとか。ありとあらゆる場面でカメラを持ち出すので、たまちゃんのお父さん並みに疎ましいと思います。撮る際に大切にしているのは、素の姿を写すこと。 今は加工アプリをデフォルトで使っている人なんかもきっと多くて、それはそれで時代の風物詩だとも思うのですが、自分がおばあちゃんになった時にめくるアルバムが虚像のセルフィーばっかりだったらどこか虚しく、風刺SFの世界だなと思うんです。また、母が私の子供の頃にたくさん写真を撮ってくれたことにも影響を受けていると思います。子供の時のことって大人になるにつれほとんど忘れてしまうけど、写真が残っていると思い出せるし、思い出せなくても知ることができる。そして、姿こそ写っていなくてもこれらの写真はそのときどき彼女を眼差していた私自身の内景の軌跡でもあります。いずれ私が先に死んでいなくなってからも、こうしてあなたを見ていたよ、と伝えうる存在になればいいな、とも思っています」。
娘を撮る写真には、娘を、見つめる私の心も写っている
「家の中で突出して散らかっている、通称もくれんコーナー。自分の人生に子供が登場してからは、衛生と安全を維持する義務が生じたので”片付ける”習慣がぼちぼち身についたのですが、私自身も似たようなスペクタクル空間を創造していたので、既視感がすごいです」。
「いつかのお風呂タイム。さすがにもう、こんな風に遊ぶことはなくなってしまいました」。
「お風呂場から『鼻血が出たー』という声を耳にして、駆けつけながらもカメラを持っている自分。母性と写真に撮り憑かれし者の性の融点」。
「激しめの口論をして部屋に立てこもり、しばしの沈黙が続いたのち、お腹を空かせてひょっこり出てきた時の姿。仲直りを持ちかける才能がすごい」。
「コロナの第一波が奮う昨年の春、人の少ない夜間に散歩。小さな子が遊ぶ白昼の公園ではちょっとはばかられるような乗り方も、夜の公園ならでは」。
「家に来たおばあちゃんに帰ってほしくなくて、えんえんと絡み続けるもくれん。それにうれしそうに付き合ってくれる、やさしいおばあちゃん。すごく好きな写真です」。
「『小さい時よく花を摘みながら帰ってきたよね。花の合わせ方がいつも素敵で、うれしかった』って話をした何日か後、久しぶりにくれた花束」。
「翌日の学校の準備中。私とは違い、提出物などはギリギリの一歩手前でそつなくこなすタイプ。この春中学生になり、ランドセルは役目を終えました」。
写真が連なった時に浮かび上がる非言語の詩みたいなものが、自分らしい写真
「娘の写真自体は生まれた時から、そのときどきの携帯カメラやコンデジなどで撮っていました。一貫してフィルムで写すようになったのは、6年位前になんとなく写ルンですを懐かしんで使ったあたりから。自分のティーン時代のスナップの感覚を反芻するようなノリで、あーやっぱこれかも、という感じで。次第に写真行為そのものに向かう意識の側面も芽生え、没入していきました。娘を撮る時はシンプルに記録的な意味合いが強いですが、私にとって写真を撮ることは、記録、思考、表現、対話がないまぜになったようなもの。他者や世界と交わるための貴重な回路でもあります。母親として子供を撮る目線、写真家として人間を写す目線、どちらも不可分に混在しています。娘を写すことに関してはおそらくこれからも細々と続いていき、そこには成長とともにシームレスに変化する私たちの関係性や距離感が空気ごと写り込んでいくのだろうと思っています。忘れたくなくてもこぼれていってしまう時間は写真に焼きつけて、変わっていくことを楽しんでいたいです」。
GENIC VOL.59 【DEAR MY PEOPLE 愛する人を撮る】
Edit: Satoko Takeda
GENIC VOL.59
特集は「だから、人を撮る」。
最も身近にして最も難しい、変化する被写体「人」。撮り手と被写体の化学反応が、思ってもないシーンを生み出し、二度と撮れないそのときだけの一枚になる。かけがえのない一瞬を切り取るからこそ、“人"を撮った写真には、たくさんの想いが詰まっています。泣けて、笑えて、共感できる、たくさんの物語に出会ってください。普段、人を撮らない人も必ず人を撮りたくなる、人を撮る魅力に気づく、そんな特集を32ページ増でお届けします。