menu

世界を翻訳する 津田直

写真は生き様が反映されるアート。何を感じ、何を受け取って生きてきたのか。写真に投影されるのは、自分自身です。私の写真世界へようこそ。
作家活動に積極的に取り組む写真家たち、各人の写真世界に足を踏み入れてください。
「My World, My Essence 私の写真世界」4人目は、独自のアプローチでランドスケープ作品を表現する、写真家の津田直さんです。

  • 作成日:

ADVERTISING

目次

プロフィール

津田直

写真家 1976年生まれ、神戸出身。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年より国内外40カ国以上の都市にて展覧会に参加。主な展覧会に『SMOKE LINE-風の河を辿って』(資生堂ギャラリー、2008)、『エリナスの森』(三菱地所アルティアム、2018)、音楽家・原摩利彦氏との共作『トライノアシオト』(太田市美術館・図書館、2022)などがある。
愛用カメラ:Mamiya7、FUJIFILM Xシリーズ

My World, My Essence 私の写真世界

世界を翻訳する

© Nao Tsuda, Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film
Earth Rain House #23

自然と人間の関係性を長く見つめ続けていきたい

Earth Rain House #2

「18歳の時、育った神戸が大地震に見舞われました。当時はギターなど楽器に囲まれた生活をしていたのですが、着るものもないような状態で外へ飛び出した時、手にしていたのはカメラで、ポケットには数本のフイルムが入っていました。僕は音楽ではなく、写真で生きていくのかもしれないと気づいた瞬間でした」。それを機にランドスケープ作品に取り組むようになったという津田さん。「子供の頃、家の近くに山へ繋がる道があり、早朝登山が日課でした。一年を通して一本の樹を眺めたり、川で小石が打ち出す音に耳を澄ませたり……自然に惹かれたというより、自然が僕の先生だったのでしょう。自然との日々にいまだ飽きたことがありません。僕にとって、写真を撮ることは、世界を翻訳すること。今は写真家になり、世界の様々な地域を訪ね、繋ぎとめておきたい風景や受け継いでいきたい文化を、写真という言語で書き留めているのだと思います。これからも、自然と人間の関係性を長く見つめ続けていきたいです」。

『Earth Rain House』Series

「アイルランドで撮影し、写真集にまとめた『Storm Last Night』シリーズに続く作品。先史時代に『古代人は何を思想したか』という問いかけから始まり、キリスト教以前の世界観に触れるため、古代遺跡の点在するスコットランドのアウターアイランズの島々を訪ねて撮影。1枚目の写真は、まだ薄暗い早朝に一分程度のスローシャッターで遺跡を撮影。2枚目の写真は、島に降り注ぐ雨を船上から捉えた一枚」。

世界が動き続けている限り、僕も動き続ける

1 Elnias Forest #9

「世界にはいつでもあらたなる翻訳を待っている人たちがいます。
だから僕はあらたなる視点との出会いを求め、旅立つのだと思います。
海に波が立つように、世界が動き続けている限り、僕も動き続ける。
至ってシンプルな発想からすべては始まっていきます。
あとは身体で反応し、カメラで受けとめていくようなイメージです」。

2 Elnias Forest #34

3 Elnias Forest #51

4 Elnias Forest #14

『Elnias Forest(エリナスの森)』Series

「バルト海に面するリトアニアは、ヨーロッパで最後にキリスト教が伝来した国ということもあり、現在も各地には日本と同様に多神教の信仰が根づいています。リトアニアの小さな村々を、長く暗い冬や太陽の最も眩しい夏の季節など数年に亘り通い撮影。こうした一つのテーマと向き合う撮影では、地元の人々との交流を通じて撮影スタッフを増やしていくことが多い。そうすることで、より暮らしの中に今なお息づく文化や精神に寄り添いながら撮影に挑むことができます。撮影する場所は、神話や古いうたの歌詞などが糸口となり見つけることも。写真2は森の中で“魔女の箒”と呼ばれている樹。写真4は夏至祭の日に神聖な樹であるオークの樹の下で青年を撮影したもの」。

自然が織りなす光景を前に、風の声に耳を澄ませ、自然の教えを翻訳したい

自分の「言葉」を持つことがすべて

REBORN-Platinum Print Series #17

「作品における“自分らしさ”とは、自分なりの解釈を、自分なりの言葉で語ることだと思います。僕の活動から話をすれば、世界を旅してランドスケープを撮影し、写真作品を通じて僕なりの風景論を語ってきました。具体的には、展覧会を開催することと写真集を制作することが、僕の二つの基幹になっています。また、なぜランドスケープを撮影しているのかというと、自然が織りなす光景を前に、風の声に耳を澄ませ、自然の教えを翻訳したいと思っているからです。作品づくりのプロセスにおいて大切にしているのは、待つこと、静けさの中に立つこと、それらを忘れないこと。写真作品を制作する上で喜びを感じるのは、たった1人であったとしても、写真を届けることができた瞬間でしょうか。僕自身そうですが、気になる作家の作品は長く見続けていきたいという思いがあり、そう思ってもらえる作家でありたいと思っています」。

どうしても見届けたい世界があるから

REBORN-Platinum Print Series #14

「旅を始めたのは、子供の頃、祖父母がヨーロッパに暮らしていたり、海外を含めた遠くから人が家に訪ねてきたりすることが多かった環境の影響が大きいかもしれません。いつの日か自分も旅人になるものだと思い込んでいたのでしょう。あとは“歩き続ける”ということに、魅かれているのだと思います。世界中どこへでも、行こうと思って歩き始めれば辿り着けると信じているようなところがあります。旅先をどのように決めているかとよく聞かれますが、不思議なことに、いつでも一つの旅が終わりそうになるとあらたなる旅が始まっていくのです。なぜ撮るのか?と聞かれたら、どうしても見届けたい世界があるのだとしか言いようがありません。そのためにすべてを振るいたいと思います」。

『REBORN』 Platinum Print Series

「2010年よりスタートした『REBORN』シリーズは、世界で唯一チベット仏教を国教としているブータン王国にて撮影。古くから神仏や自然界への畏敬の念が培われ、宗教が人々の生活に深く根差すこの地で、仏教の原点や信仰の在り方について探求しながら撮影を続けています。古典技法であるプラチナプリントは、amanasaltoの協力のもと18作品を制作しました。今回は『ひとと自然との関係性』をテーマに、観る人にとって、未知なる領域への扉となるような写真を選びました。ひそやかに、僕自身が再訪を望んでいる国や地域から選んだという言い方もできます」。

音楽家の原摩利彦氏との共作《Stella – Music for Writing Letters》

「ソロ活動だけでなく、近年は音楽家の原摩利彦氏との共作を発表。美術館での個展に合わせて作品集『トライノアシオト』(左右社)を発行したほか、音楽作品としては芸術祭への参加後に音源化されたLP《Stella – Music for Writing Letters》をADAGIAよりリリースしています」。

GENIC vol.71【My World, My Essence 私の写真世界】

GENIC vol.71

2024年7月号の特集は「私の写真世界」。
写真は生き様が反映されるアート。何を感じ、何を受け取って生きてきたのか。写真に投影されるのは、自分自身です。自分らしさとはいったい何なのか?その回答が見つかる「作品」特集。私の写真世界へようこそ。

GENIC公式オンラインショップ

おすすめ記事

【GENIC|私の写真世界 vol.71 2024年7月号】特集詳細&編集長 藤井利佳コメント

横浪修の現在地

次の記事