熊谷直子
写真家 兵庫県出身、東京都在住。雑誌や広告、舞台などの撮影で幅広く活躍するかたわら、写真集や個展なども通してパーソナルな作品も発表。『anemone』(タイフーン・ブックスジャパン)、『月刊二階堂ふみ』(朝日出版社)、杉咲花『ユートピア』(東京ニュース通信社)、『赤い河』(TISSUE Inc.)、川上なな実写真集『すべて光』(工パブリック)など作品集多数。
Q.「写真の現在」を教えてください!
A.過去も、現在も、そして未来も、写真は変わらない。
写真の価値は昔も今も変わっていない
「写真は撮った瞬間から過去になっていくものだけれど、それでも常に今であり、未来でもあります。同じ写真であっても見るときによって感じ方は違うし、見る人によっても違いますよね。過去に撮られた写真でも最近の写真でも、いつの時代の写真でも、そこに写されているのは“希望”に他ならない。だからこそ撮りたいし、写真を見て感動したりするのだと思います。もちろん流行や、社会を反映した写真の傾向というのはその時々であるけれど、それは全てではないし、同時に、そうした写真にもまた、希望が含まれているから多くの人に支持されるのだと感じています。私自身そうで、ずっと希望を撮ってきたし、これからも撮っていく。そうである以上、やっぱり過去も、現在も、未来も、写真は変わることなく存在しているというのが前提にあると思います」。
いつの時代の写真であってもそこには“希望”が写っている
誰でも撮れる時代、人は何を見ているか
「今は誰でも撮れる時代。スマートフォンの存在は大きく、撮ることも、同時に見ることも簡単になって、写真は身近な存在になりました。でも、そうして世の中にあふれる写真と、カメラや写真が好きなGENICの読者の皆さんが好きな写真では、性質が異なっていると感じます。例えば、私自身、撮影した有名人の写真をSNSに上げると、いいねがすごくつくし、フォロワー数も一気に増えることがあります。面白いなって思いながらその現象を見ているけれど、おそらくそれは、写真ではなく写真の中にある“情報”、ここであれば写っている有名人が評価されているのだと思うんです。一方で“写真”は、距離感をはじめ、写真の中にある世界を見ようとしますよね。それらには大きな差があるはずで、写真がごく当たり前にある現在においても、やっぱり写真の価値は、過去から何も変わっていないし、これから先も本質は変わっていかないだろうと思います」。
ひときわ目を引く、若い写真家の作品
「私には撮れないって思うくらい、昨今は斬新な作品が多い。そう感じるのは若い写真家たちの作品で、背景には、進歩する撮影機材の、どの時代を生きているかがあるように思います。昔、写ルンですのような使い切りカメラで撮っていた頃は、濡れてもOK!みたいな軽い気持ちで、海に入ったり雨に打たれたりしながら、勢いのままに撮っていました。そこからデジタルカメラが出てきて、ハイスペックかつ高級化が進む中で、“カメラを大切に扱う”という気持ちが無意識に出てきていたと思うのです。そうした機材遍歴を経験していないってすごく大きくて、今の人たちは、どんな高級なカメラでも、まるで使い切りカメラを扱うかのように撮っていると感じます。実際、写ルンですで作品を撮っている方もいるでしょう。ある意味では過去を彷彿とさせるような、若い写真家たちの恐れずに撮っているかのような作品が、今とても魅力的だと感じています」。
表現の可能性が広がりを見せる現代
「作品撮りにおいて、フィルムカメラで撮った写真が一番しっくりくることはもうわかっているから、だからこそその枷を外して、デジタルでも同じように撮れる自分でいたいと思ったことがきっかけで、今年の始めにLeica Q2を買いました。フィルムからデジタルへの移行がきっかけで、今は写真が持つ価値をそのままに、動画も再びはじめようと思っています。いろいろなことができる今の時代、表現の手法もさまざま。マルチになるほど可能性は広がる一方、自分というものがちゃんとないと、あっという間に飲まれてしまう時代でもあります」。
「これまで作品撮りはフィルムカメラで撮っていましたが、今年に入ってすぐLeica Q2を買って、意識的にフィルムを遮断するということをしました。3週間も経った頃にはデジタルカメラでもフィルムと変わらない表現ができることを知って、世界が広がるのを感じました。結局、“知っておく”ことって大切なんですよね。レタッチであっても動画であっても、昨今はマルチであることを求められる傾向がありますが、世界を知って可能性を広げるという意味でとてもいいこと。ただ注意したいのは、順番を間違えてはいけないということです。昨年、石橋静河さんが出演する「サントリー天然水」の動画と写真にゾクゾクしました。動画よりも一枚で見せる写真のほうが強い力を持っているとずっと思ってきましたが、この動画は、写真と同じ世界感で、写真を見たのと同じ感情を抱かせるものでした。広告の世界でこの作品を作れることがまずすごいことで、同時に、この表現ができるのは、撮影者が自分を持っているからだと思いました。自分がなければ表現はできない。自分の好きなこと、何が楽しくて得意かというのを知って、こだわっていく。一度ちゃんと偏ることをしてからマルチになっていけたら、本当に世界が広がる、いい時代だと思います。かく言う私は、最近動画に興味が湧いてきています。2008年にCanon EOS 5D Mark IIが発売されたとき、カメラマンが動画を撮るという最初の波がありました。私の最初の動画経験もその頃でしたが、動画は写真のように一人で完結できるものではなく、たくさんの人がかかわることに混乱。生半可にやってはダメだという気持ちで以来距離を置いてきました。それが最近、フィルムからデジタルへ移行できたことに後押しされて、動画を撮ることにも興味が出てきたように思います。写真がすごく好き。一方で、写真と同じ価値を異なる手法でもアウトプットしていきたい。そのことは、現代だからこそできる楽しみなのだろうとも感じますね」。
GENIC vol.67【撮影と表現のQ&A】熊谷直子/Q.「写真の現在」を教えてください!
Edit:Chikako Kawamoto
GENIC vol.67
7月号の特集は「知ることは次の扉を開くこと ~撮影と表現のQ&A~」 。表現において、“感覚” は大切。“自己流” も大切。でも「知る」ことは、前に進むためにすごく重要です。これまで知らずにいたことに目を向けて、“なんとなく”で過ぎてきた日々に終止符を打って。インプットから始まる、次の世界へ!
GENIC初のQ&A特集、写真家と表現者が答える81問、完全保存版です。