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ステージでの身体表現から写真表現の世界へ 今井龍世 | 連載 CHANGE MY LIFE 写真家への転身物語

写真が好きだから仕事にしたい。そう思う気持ちはありながら、その一歩は大きく、なかなか踏み出せないものです。一度は別の道を歩みながら、写真家・フォトグラファーへキャリアチェンジし、新しい人生を切り開いた4名から勇気をいただきます。全4回の連載、第1回は前職、アイドルから転身したフォトグラファーの今井龍世さんです。

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プロフィール

今井龍世

フォトグラファー  1990年生まれ。神奈川県出身。多摩美術大学映像演劇学科卒業後、都内撮影スタジオで6年間勤務し、フォトグラファーとして独立。パーソナルワークでは自然をテーマに作品を制作。「チョウ」を主体とし、自宅内で蝶が飛び交っている環境で生活。現在は2000km飛翔する蝶「アサギマダラ」を使った作品を制作中。作品はWEBサイトにて。
愛用カメラ:Canon EOS R5、FUJIFILM GFX100S II、PENTAX 67
愛用レンズ:SIGMA 24-35mm F2 DG HSM ART/60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM Sports、GF80mm F1.7 R WR

ステージでの身体表現から写真表現の世界へ

記憶としてではなく物質として残るものを作りたい

「自分らしい作品のコンセプトを探していたとき、目の前に突然現れた蝶の幼虫。天から降って来たプレゼントのように、大切に持ち帰り羽化させました。その姿を撮ったことをきっかけに、パーソナルワークとして蝶の写真を撮り始めました。運命の出会いだったなと思います。この写真はアサギマダラの給餌中で、ステンドグラスのように反射する幻想的な瞬間を撮影」。

「13歳でスカウトされ、大手芸能事務所に所属し約10年間、アイドルとして活動していました。ステージ上の自分と本来の自分のギャップに悩んでいた18歳の頃、それまでの身体表現のような記憶に残るものではなく、物質として残るものを作りたいと思い、美大受験を決意。カメラは浪人時代に姉のものを借りて気分転換の散歩をしていたときに写した程度で程度で、写真で生きていこうなどとは全く思っていませんでした。それまでやってきた身体表現を捨ててしまうことへの自己疑念もあり、写真や映像、演劇など、様々な領域を行き来できる学科に入学。そこで学ぶうち、コンセプチュアルに作品を作ることが好きなんだと気づき、そのツールとして写真を熱心に撮るようになりました。何かを作りたいという気持ちに、写真というメディアがフィットしたのだと思います。今でも『写真を作る』という言葉を自然と使ってしまうのは、そういう理由からかもしれません」。

「捕獲した母蝶が、朝の低い光の中で産卵する様子。神秘的だったので、逆光でフレアが入らないギリギリをハレーション気味に狙いました」。

「蝶の成虫がいなくなる冬は、他の生物や自然風景を狙いフィールドワークを楽しむことも。この水紋は、穏やかな流れに僅かに感じた気配を、超望遠レンズかつ高速シャッターで捉えたもの。冷たい空気と静寂の中で響くシャッター音が印象的でした」。

「全部で9枚から成る、卒業制作の中の一枚。三名に同じ動き(振付)を与え、個々が持つ異なる動きを線として可視化した作品。自分がそれまで続けてきた身体表現を写真作品で表しました」。

2つ目の看板は背負えないと師匠につかず独立

「卒業後は仕事としての写真を意識し、撮影スタジオに就職。6年間を過ごしたあと、師匠につかずに独立したのは、2つめの看板は背負えない、と思ったからです。アイドルのときに背負った看板があまりにも大きく、辞めて時間が経ってもなお、それが知られると、元○○という目で見られることもある。写真も師匠につけば、その名前と一緒にずっと生きていくことになります。もうこれ以上大きい看板は背負えないと、最初から一人でやっていくことを選択しました。アイドルをしなかった人生のほうがよかったのではと想像したこともありましたが、今は仕事で人を撮ることが多いので、過去に培った舞台での表現や被写体としての経験を活かせるメリットもたくさん感じています。一方で、パーソナルワークでは自然や昆虫を撮影するのが好きで、特に蝶をずっと追いかけています。人と違って、何もせずとも自然な素顔をさらけ出してくれるから、気を張りすぎずに向き合えます。フォトグラファーの醍醐味は、ファインダーを通すことで、その風景をリアルから少しだけずらして見せることができること。同じ風景でも、その人だけの世界をまさに『作り出せる』。そういう表現が自分には合っているから、ずっと続けていきたい、そう思っています」。

GENIC vol.75 『CHANGE MY LIFE 写真家への転身物語』
Edit:Satomi Maeda

GENIC vol.75

2025年7月号のテーマは「I love photography ただ、写真が好きで」。

写真は移ろいゆく季節に目を向けることを教えてくれた。
写真は心の奥にしまい込んでいた自分の感情に気づかせてくれた。
写真は自分らしく生きていいよと励ましてくれた。
写真はかけがえのない仲間と巡り会わせてくれた。
写真は素晴らしい世界の見方を示してくれた。

写真から、たくさんのものをもらってきた。
だから、好きな理由はひとつじゃない。

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