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名のない景色 中川正子

雑誌、広告 、展示など多ジャンルで活躍を続ける中川正子が、暮らしの半径2mで⾒つけた「残しておきたいひかり」。ランドスケープ写真とは、自分が世界を、その美しさをどう定義しているか自分自身に知らせるもの、と語るに相応しい、美しい日々のスライスをお届けします。

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目次

プロフィール

中川正子

写真家 1973年生まれ。神奈川県出身。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープを得意とする。写真展を定期的に行い、雑誌、広告、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月より岡山を拠点に、国内外を旅する日々。写真集『An Ordinary Day』、『新世界』、『IMMIGRANTS』、『ダレオド』ほか、直木賞作家・桜木紫乃氏との共著『彼女たち』など、文章執筆の仕事
も多数。2024年4月には、アメリカ留学時代に写真を始めた話や岡山へ越してからの仕事との向き合い方などにも触れた初のエッセイ集『みずのした』(くも3)を刊行。今後も新作の刊行を控えている。
愛用カメラ:Canon EOS R5
愛用レンズ:Canon R50mm F1.8

名のない景色

暮らしの半径2mで⾒つけた「残しておきたいひかり」。この種の光を見逃さない自分でずっとありたい

「友人のジュエリーデザイナーに作ってもらったお守りのようなリング。運転するときに目に入るのが好きで、信号待ちに撮りました」。

「本来学習机であるところの息子のデスクに、彼の好きなお絵描きアイテムや推しグッズが転がっている。14歳のよき景色だなと思い、撮った1枚です」。

「毎年春はアゲハの卵から幼虫を育てています。彼らは生き物の神秘を教えてくれる存在で、別れはいつも突然。人生でたいせつなことはアゲハに教わった、と言いたいくらいです」。

「南向きの窓は冬に結露が出ます。家の維持のためには拭き取ったほうがよいのですが、流れる水滴が光ってきれいでつい、撮ってしまいます」。

ランドスケープ、それは自分が世界を、そしてうつくしさをどう定義しているか、自分自身に知らせるもの

「こういった、なんでもない瞬間の光がどうしようもなく好きです」。

見逃してきた足元や至近距離のうつくしさに目がいくように

「かつて子どもがいなくて移動に制限がなかった時代は、遠い国に出かけ、見たことのない景色を収めることに夢中になっていました。子どもができて、乳幼児の頃は行動範囲が狭くなり、自由度も減り、でもその分、歩くスピードも変わり、これまで見逃してきた足元や至近距離のうつくしさに目がいくようになりました。遠くばかりを見てきたフェーズが終わったのだな、と感じたことを覚えています。言葉でも表現するようになってからは、より写真の力を信じるようになりました。見る人によって解釈が大きく異なるのが、ビジュアル表現のおもしろさですね。書くことと撮ることに共通していることは、自分の状態が如実に現れるという点。今後わたしがより強化すべきは、いつでも濁りのない、めぐりのよい自分でいることだなと感じています。また、一瞬の光をすくいあげるという意味でも両者には共通点が。それをのちほど言葉に落としていくか、現像の段階でシャッターを切ったときの心情に近づけていくか、プロセスは違っても似た行為だなと思います。今回の掲載写真は暮らしの半径2mで見つけた“残しておきたいひかり”を中心に、名前のつかない景色を集めました。個人的には、この種の光を見逃さない自分でずっとありたい。自分が開いている日と閉じている日、コンディションによって光の捉え方が大きく変わります。これからもたくさん見える自分でいたいです」。

「植物に水をやっていたときのこと。大きな虹が出て、夢中で撮りました。日常に現れる奇跡みたいな瞬間が好きです。オートフォーカスの精度にも助けられます」。

「夏のパワフルな光は、濃いコントラストを作るので好きです」。

ああ、世界はうつくしい。そのきもちが溢れたときを逃さぬように

「羽田に到着する直前、ふと、窓のむこうにぷかりと飛行機が浮かんでいるのが見えました。仕事がタイトな時期だったのですが、そののんびりとした様に、前へ前へと焦るきもちがやわらぎました」。

光の具合は撮影するときに、これだ、と思うかどうかがすべて

「春がもうすぐというときに見つけた(おそらく)梅の花です。毎年花をつけ続ける植物にはげまされることは多いです」。

「ランドスケープ撮影のときに心がけているのは、商業写真を長く撮ってきたことでよくも悪くもついてしまった“よい写真”を撮る筋肉を発動させないことです。そして絞りは開放に近く、メモリーカードの空きはじゅうぶんに(だいじです!)。あと、当たり前ですが、カメラが体の一部であるように仲良くしておくこと。作品の自分らしさを挙げるなら、50mmで撮る限定されたアングルでしょうか。35mmや24mmなどの広角のほうが伝えたい要素が一度で取り込めると思いつつ、ある種の不自由さがある狭めの50mmで切り取るくらいがよいと思っています。あとは光の具合。どの種類の光がわたしらしいということはなく、逆光も強い順光も好きです。撮影するときに、これだ、と思うかどうかがすべて。そして水の中にいるような色合いが、ずっと好きです。世界をそんなふうに見ています。胸にあふれた、世界がうつくしい、のきもちがそのまま写真に乗っているとうれしいです。世界を似た角度で見るひと、似た瞬間にこころが動くひと、そんな仲間が世界に散らばっているように感じます。彼ら彼女らにそっと届くといいなと思っています。ひとりじゃない、と」。

「うちから徒歩5分の距離にある小さな山。思考をまとめたいとき、自分を整えたいとき、ひとり向かいます。どんな季節でも必ずうつくしさにはっとする瞬間があるので、カメラは必ず」。

GENIC vol.72【名のない景色】

GENIC vol.72

9月6日発売、GENIC10月号の特集は「Landscapes 私の眺め」。
「風景」を広義に捉えた、ランドスケープ号。自然がつくり出した美しい景色、心をつかまれる地元の情景、都会の景観、いつも視界の中にある暮らしの場面まで。大きな風景も、小さな景色も。すべて「私の眺め」です。

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