柘植美咲(写真家)
2000年生まれ、三重県出身。高校1年生から写真を撮り始め、在学中にポカリスエットの広告を撮影。2020年にはIMA next “LOVE”でグランプリを受賞し、yonigeのアルバム『健全な社会』のジャケットにアートワークを提供するなど、活躍は多岐にわたる。
愛用カメラ:Nikon FM2
日常を残すことは大切。
ふと写真を見返すと記憶が蘇り、誰かに話したくなるし見せたくなるじゃないですか。
日本人なら知らない人はいないスポーツ飲料・ポカリスエットの広告で、2018年、高校生カメラマンとして起用され広告業界を驚かせた柘植さん。それがきっかけとなり写真家としてのキャリアがスタートした。
「知り合いの方に『こういうのあるけど、どう?』とすすめられて、5枚の写真に文章を添えて提出しました。約130人の応募の中から選んでいただきました」。そのときに提出した写真が、下の体育館での1枚や手を振る友人の写真。まさに柘植さんの当時の日常そのものだ。「これまで一番多く撮ってきた被写体は、人。みなさんが面白いなとか、美しいなと思うのと同じ感覚で撮っています。そのときは、撮りたいというよりは、もうすでに撮ってる。その感覚はみなさんより多いかな。そうだったら嬉しいです」と、カメラを片手に日常的に撮影している姿が伺えた。
「大掃除の翌日。友達が朝早く行くと言ったので私も早く行ったら、友達はまさかの寝坊。そのおかげで写真が撮れた。誰もいない教室で、前日の大掃除で使った雑巾だけが並んでいる」。
「”まめつゆ”と私が勝手に呼んでいる写真。近所の書道教室で、ここに私も少し通っていました。散歩していたら飾ってあるのを見つけて」。
文化祭の日に撮った1枚。「ある人が、この写真は魚に見えると私に教えてくれた」。
私の家族は私にしか見せない顔があって、私の友達も私にしか見せない顔がある。
Tumblrやインスタグラムでは、”うちの父ちゃん”が印象的。「私の家族は私にしか見せない顔があるし、私の友達も私にしか見せない顔がある。それは私にしか撮れない。高校生のときからそう考えていました。日常を写真に残して行くことにも意味があるし、大切だと思います。自分で写真を撮るのが難しいなら、写真家に撮ってもらったらいいと思う。写真家ってそういうこともできると思うんです。私に依頼してくださったら嬉しいですね。そしてプリントして形に残してほしい。私も残すことを大切にしなきゃなと思っています」。
そう思う理由とは。「ふと撮った写真を見返すと、『このとき、この子は彼氏と喧嘩していたな』とか『この子は学校で携帯使って怒られて掃除させられていたな』みたいなことが蘇ってきて。こういうことを誰かに話をしたくなるし、その写真を見てほしいと思うじゃないですか」。
「父です。このときは確か、3度目のコウモリ到来。父が洗濯カゴに入れて逃した後の写真」。
「確か女子バスケのクラスマッチの決勝戦前。1.2.3、2.2.3...の掛け声が思い出される」。
「私はバイバイという言葉が嫌いだったので、友達はまたね。と毎日言ってくれた。またね」。
最後に写真を撮るときのMYルールを問うと面白い答えが返ってきた。
「いろいろあるのですが、ひとつ挙げるとすると、自分の中に自分と似ているようで似ていない別の自分が何人かいるんです。写真を撮るときとかにもその子たちが出てくるときがあるんですけど、それを無理に隠そうとしないこと。隠すと写真が撮れないんです。きっと同じ感覚の人もいるはず。分からない人にはこの面白さを伝えていきたいです」。
「夕方の光のような朝日。朝まで起きていて、ふと気づくと部屋に光が射していた。まだ誰も起きていていない家で一番にリビングに向かったときの1枚。美しい」。
GENIC VOL.60 【Daily Life of … Under23】
Edit: Yoko Tadano
GENIC VOL.60
特集は「とある私の日常写真」。
当たり前のようでかけがえがなく、同じ瞬間は二度とないからこそ留めておきたい日常を、表現者たちはどう切り取るのか。フォトグラファーが、クリエイターが、私たちが、それぞれの視点で捉えた日常写真と表現、そしてその想いに迫ります。