menu

心惹かれるカフェの記録 川口葉子

夢中になれるものを撮り続け、それが生きる糧となった人。レンズを通して、ひとつのことに情熱を注ぐようになった人。仕事と愛が交差する場所で生きる6名のフォトグラファーに、“好き”の先にある仕事を語ってもらいました。
「“好き”を撮って生きていく」3人目は、文筆家・喫茶写真家の川口葉子さんです。

  • 作成日:

ADVERTISING

目次

“好き”を撮って生きていく

「こちらは鎌倉に古くからある『喫茶 吉野』です。雨の日がベストの喫茶店だと思っているのですが、撮影した日は明るい小雨という天気。中庭の緑がしっとり濡れて美しく、ほの昏い奥の席と窓際の席の対比にも、古い喫茶店ならではの風情が感じられ、印象的な1枚になりました」。

「午前の光が窓からちょうどいい角度で射し込んでいた『喫茶 東京郊外』。亀戸水神に2022年にオープンしたお店で、若い店主2人のお話の内容も充実していて、お店の魅力をたっぷりと感じながらの取材ができました」。

私の写真は文章と合わせてカフェや喫茶店を記録するもの

「すぐに消えてしまう儚い一瞬に惹かれます。抽出されるコーヒーのしずく、カップからたちのぼる湯気や、テーブルに揺れる木洩れ日、鏡に反射する夕日、季節感や天気、その時間帯ならではの光などが写ると幸せな気分に。東京、銀座の『トリコロール本店』で撮影した1枚です」。

「喫茶店で読書や書き物をすると不思議なことに自宅より捗ることに気づいたのが学生時代。よく喫茶店に入り浸って、読書やレポート、サークル活動などに励んでいました。以来、喫茶店やカフェはいつも“街の中の自分の居場所”です。そんなカフェを撮ろうと思ったのは、毎年伊豆大島で訪れていたカフェの突然の閉店がきっかけ。そこにあるのが当然と思っていたカフェが、実はその命は儚いと思い知らされ、せめて文章と写真で今の姿を記録しておきたいと思ったのです。その記録として始めた個人サイト『東京カフェマニア』を愛読してくれた編集者のお声がけで本を出版し、そこから雑誌やウェブでの連載など、仕事が広がりました。
そのため私の写真はあくまでも“文章と合わせてカフェや喫茶店を記録するもの”。“作品”や“表現”ではないので、なるべく正確に写すことを主眼に、お店の空気感やコーヒーの香りも伝わればいいなと思っています。仕事になった今も、カフェでの過ごし方は基本的に学生時代と変わりません。でもそのお店の記事を書くときにメインテーマとなる可視化されている魅力と、可視化されていないけれど確かに存在している魅力について、より注意深く観察するようになりました。またコーヒー好きなので長年コーヒーの美味しいお店を中心に訪ねてきたのですが、最近急に紅茶の魅力に目覚めたのもちょっとした変化のひとつ。紅茶が主役のお店も取材していきたいと思っています」。

仕事だからこそ、可視化されていない魅力を深く観察している

「窓辺のしつらいが素敵な喫茶店は、撮るのが特に楽しいもの。水元にある『珈琲達磨堂』もそんなお店のひとつで、午前中は奥の窓から陽光がやわらかく射して、理想的な光でした」。

「建物の老朽化により、惜しまれつつ閉店した向島の小さな喫茶店『カド』。凝った天井画やカウンター上の木彫が、創業者と2代目店主の自作だと取材時にお話をうかがってびっくり。もう二度とこんな空間は生まれないでしょう」。

川口葉子 プロフィール

川口葉子

文筆家・喫茶写真家 大学卒業後、企業に勤務しながら趣味で個人サイト「東京カフェマニア」をつくり、文章と写真でカフェや喫茶店を記録。2000年に同名の著書を上梓。以来20年以上にわたり書籍や雑誌、Web等でカフェと喫茶店に関する執筆と撮影を続けている。『金沢 古民家カフェ日和』(世界文化社)、『喫茶人かく語りき』(実業之日本社)、『京都カフェ散歩〜喫茶都市をめぐる』(祥伝社)ほか著書多数。新刊『新・東京の喫茶店~琥珀色の日々、それから』を実業之日本社より発売。
愛用カメラ:FUJIFILM X-Pro2、Sony α7 III
愛用レンズ:XF16-55mmF2.8 R LM WR、SIGMA 50mm F1.4 DG HSM | Art、FE 90mm F2.8 Macro G OSS

GENIC vol.70【“好き”を撮って生きていく】
Edit:Satomi Maeda

GENIC vol.70

2024年4月号の特集は「撮るという仕事」。
写真を愛するすべての人に知ってほしい、撮るという仕事の真実。写真で生きることを選んだプロフェッショナルたちは、どんな道を歩き今に辿りついたのか?どんな喜びやプレッシャーがあるのか?写真の見方が必ず変わる特集です。

GENIC公式オンラインショップ

おすすめ記事

一瞬の煌めきを写すハナビスト 冴木一馬

美味しい風景を残したい 土田凌

次の記事