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“好き”を撮って生きていく
「ネパールのヒマラヤ山脈にある、ランタン谷をトレッキングしながらの撮影で。トレイルで一番高い4000m超えの場所で見上げた空の色は、高山ならではの雰囲気」。
「ここは花の谷と言われ、さまざまな植物を見られるルート。歩く途中にネパールの国花、シャクナゲを発見して1枚。そしてまた歩き出します」。
「旅の途中で出会った女性が、こちらに視線を向けたときを逃さず撮った写真。コロナがあり海外での山歩きは久々でした。自分の世界が狭くなっていることを感じ、自分がいる空間以外のどこか遠く別の場所でも世界が存在している、それを再確認する良い機会だったと思います」。
歩き、発見して、撮る、山での撮影仕事はその繰り返し
ヤマケイ JOY 2008年冬号「仕事で山の撮影をし始めた初期の頃の作品です。山雑誌で初めての雪山ロケで訪れた、北八ヶ岳白駒池。全面凍結した池の上を、スノーシューで歩く姿を撮りました。2泊3日の山での時間は、いつもよりさまざまな山の表情を見ることができ、その瞬間に立ち会えた喜びを感じながら撮影しました」。
「学生時代に写真を撮り始め、写真部にも所属していました。撮影してプリントして...という創作に魅力を感じ、これを職業にしたいと思うように。山という被写体に出会ったのは卒業後、カメラマンのアシスタントとして学び、独立前の作品作りをしていたとき。特にそれまで山を意識したことはなく、最初はスナップなど街で作品を撮っていたのですが、そのとき植物の写真を多く撮影している自分に気づき、それなら植物がたくさんある山に行ってみようと。その写真を山雑誌の方に見てもらう機会があり、そこから仕事に繋がっていきました。また定期的に作品展をやっていることで、自然系の作品のイメージがついたのか、そういった傾向の仕事が増えていったように思います」。
山での撮影は意図的になりすぎないようにしています
「尾瀬は四季を通して撮影しています。自然の変化やそこにある動植物の生態を知り、写真を撮ることで学んでいます。これは秋の日の出の時間帯に撮影した1枚。作品として撮影していますが、自然や山についての原稿依頼などがあると、尾瀬の写真とともに掲載させてもらうことが多いです」。
「2010年、東京の最高峰、雲取山周辺の風景を撮った作品。山は晴れているときだけが美しいとは限らない、どの瞬間も山の一部」。
「山での撮影は通常よりも体力が必要なので、機材はできるだけシンプルで軽量に。そして頑丈なものを選ぶようにしています。技術的なこだわりは特にないのですが、写真が意図的になりすぎないことに注意しています。特に仕事の場合は、その場の空気をそのまま撮影することが求められていると思います。山ではどのシーンにも新しい発見や喜びがあります。歩いて、発見して、撮る、山ではその繰り返しですが、そのペースも自分には合っているようです。だからもし仕事でなくなったとしても、山や自然と関わり、生涯作品を作っていきたいと思っています」。
野川かさね プロフィール
野川かさね
写真家 山や自然をテーマに個展や書籍などで作品を発表している。写真集に『山と鹿』(ユトレヒト)、『Above Below』(Gottlund Verlag)、『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)、『think of your mountain』(BCCKS)など多数。山登りの多様な楽しさを伝えるホシガラス山岳会名義の著書も多い。主な展示は『study/FOREST』(pieni onni 2022)、『study MOUNTAIN 山の探求』(田淵行男記念館 2023)など。
愛用カメラ:Nikon New FM2、Nikon D600
愛用レンズ:Carl Zeiss Planar T*1.4/50mm、SIGMA 50mm F1.4 DG HSM|ART
GENIC vol.70【“好き”を撮って生きていく】
Edit:Satomi Maeda
GENIC vol.70
2024年4月号の特集は「撮るという仕事」。
写真を愛するすべての人に知ってほしい、撮るという仕事の真実。写真で生きることを選んだプロフェッショナルたちは、どんな道を歩き今に辿りついたのか?どんな喜びやプレッシャーがあるのか?写真の見方が必ず変わる特集です。