松波佐知子
写真家(和菓子フォトグラファー)、和菓子作家、翻訳家 神奈川県藤沢市出身。国内外で写真技術を学び、和菓子、料理、舞台撮影を手がける。写真を撮る行為にはヨガや瞑想のような癒し効果があるという気づきを得て、写真と心理の関係に興味を持つ。また、料理撮影をきっかけに和菓子の奥深さに惹かれ、著名和菓子作家や学校にて和菓子制作を学ぶ。五感で感じるままに季節や自然、感情を自作の和菓子と写真で表現することに癒しを感じている。2020年より茶室で和菓子撮影を愉しむ写真教室『写菓の会』、和菓子づくりと写真のミニレッスン『創菓の会』を主宰。
【BIOGRAPHY】
高校時代 父のカメラで写真を撮り始める
<2012年>
外国人主宰のストリートフォトグループに参加し、街撮りを始める
<2013年>
D600を購入
<2015年>
ミュージカルの稽古風景、舞台写真、ポートレート撮影を開始
写真展「Sense of Oneness – 対比から融合へ」を開催
<2016年>
日本料理の教室やカフェなどから料理写真撮影を請け負う(〜2019年)
アメリカで瞑想的な写真撮影のワークショップに参加
写真集「TOKYO」(EINSTEIN STUDIO)に写真掲載
<2017年>マインドフル・フォトグラフィを主宰(坐禅、ヨガの呼吸法、マインドフルネスの実践を取り入れた写真ワークショップ)
「写真がもっとうまくなる!デジタル一眼マスターBOOK」(コスミック出版)に写真掲載
和菓子制作の勉強を始め、SNSアカウント @wagashi_momentsを開始
<2020年>
『写菓の会』(茶室での写真ワークショップ)を開始(不定期開催)
<2021年>
GENIC vol.58「おいしい写真」に掲載
Z 6IIを購入
『 創菓の会』(和菓子づくりとミニ写真ワークショップ)を開始(毎月開催)
<2022年>
「内閣官房 新型コロナウイルス等感染症対策推進室」待受カレンダーキャンペーン#KeepSafeEnjoyLifeに参加
<2023年>
プライベートの写真教室を開始(不定期開催)
写真展「Nikon Creators」my favorite photo – GENIC+meriken cafe with Nikon」に出展
<2024年>
アトリエやスタジオでの和菓子&写真教室を開催予定
私とカメラの関係の始まり
父の影響で子どもの頃から写真に興味を持ち、高校時代から父のカメラで撮影するように
父が趣味で写真や8ミリフィルムを撮っていて、若かった頃の写真を見せてもらうのが好きでした。幼少期から父の写真やカメラが身近にあったせいか、写真は特別なことではなく日々の中に自然に溶け込んでいたような気がします。旅行など特別な機会よりも日々を撮ることに興味を持ち、高校の時に初めて父のハーフカメラを借りました。学校で友達を撮ってみたらとても楽しかったので、ときどき借りて使っていましたが、24枚撮りのフィルムでなぜ48枚撮れるのか、ずっと不思議でした(笑)。レンズ付きフィルムのカメラもよく持ち歩くようになり、コンパクトデジタルカメラを経て、2012年についに自分で一眼カメラを購入。写真を本格的に始めてみようと思いつつ、いきなり一眼レフはハードルが高いと思い、まずはミラーレス一眼に。
初めてのNikonはD600です。外国人たちとのストリートフォトウォークに参加するうちに、彼らが持っていたような本格的な一眼レフが欲しくなり、2013年の元旦に購入しました。Nikonを選んだ理由は、フォトグループの中で私の好きなタイプ(コントラスト強め)の写真を撮るメンバーがNikonユーザーだったこと、Nikonは黒の表現が美しいから、主に夜に開催されるフォトウォークに最適だと勧められたこと、家電量販店で実際に手にした時に持った感じやシャッター音に惹かれたこと、他ブランドに比べて硬派なイメージを持っていたことです。フォトウォークで持ち歩くことを考えて、カメラの軽さとスペックでD600に決めました。購入してからはどこに行くにも一緒で、数年間は毎週、数百枚撮るほど愛用。何度かクリーニングに出しているうちに、最終的には新品交換でD610になりました。
私が本格的に写真を始めたといえるのは、一眼レフのD600を手にしてからだと思っています。毎週のように外国人のストリートフォトグラファーたちと街撮りをしながら、グループにいたプロやセミプロのメンバーに撮り方を教えてもらいました。写真講座にも参加しましたが、大勢で撮り歩きをしていると、同じ場所でも10人いれば10通りの写真になるのがとても刺激的で、特に外国人たちは常識や枠にとらわれないユニークな視点を持っていたので、路上で学ぶことのほうが多かったです。
それと同時に、仕事帰りで多少疲れていても、集中して撮り歩きをするとヨガや瞑想後のように、疲れが取れて心がすっきりするので、写真は一種の瞑想だと気づきました。そこで写真と心の関係やマインドフルネスに興味を持ち、アメリカ・コロラド州で瞑想行為としての写真撮影を学ぶ1週間のワークショップに参加。そこでは自分の思い込みを外して、物事をありのままに見て受け止め、写真に収める練習をしたのですが、日を追うごとに上手に撮ろうとか、見たいように物を見るという意識が薄れていき、カメラを介して、目の前の世界と自分が素直に繋がる感覚が強まりました。この時の経験によって自然に対する畏敬の念や、身の回りの美に気づく眼が、より育まれたように思います。
和菓子に魅せられ、和菓子撮影に夢中に
1999年よりフリー翻訳者として、ヨガ関連記事、児童書・絵本などを手がけてきましたが、自分でも何か表現活動をしてみたいと思った時、真っ先に浮かんだ手段は文章ではなく、高校時代に親しんでいた写真でした。翻訳はいわば、筆者になりきって筆者の言葉や思いを代弁する裏方の仕事です。さまざまなリサーチを行い、筆者の言わんとするエッセンスを伝えるために時間をかけて言葉を紡いでいく翻訳のプロセスをとても楽しんでいますが、その瞬間の自分の感情の揺らぎを即座に表現できる写真にあらためて魅力を感じたのです。
ずっと翻訳や海外と関わる仕事をしてきたせいか、海外の文化に目が向いていたのですが、日本料理を撮影する仕事を通じて、改めて日本文化の豊かさや面白さに気づきました。和菓子に興味を持ち始めたのは、10年ほど前に料理撮影の仕事で和菓子を撮ったことがきっかけです。ほんの数センチ四方で季節や自然、風習などを表す和菓子の趣と奥深い世界に、たちまち魅了されました。和菓子の色使いや素材や意匠を眺めていると、感覚や感情がとても刺激されるんです。涼やかな寒天菓子に川のせせらぎを感じ、淡紅色の和菓子を見て春風に舞う桜の花びらを思い浮かべることも。その印象や感覚を写真表現でさらに深められるのではないかと思い、光や背景を工夫して撮ってみたらすごく楽しくて、和菓子撮影に夢中になりました。
Instagramを始めたのを機に和菓子フォトグラファーとして始動
当初は和菓子店で買った既製品を撮っていましたが、こんな和菓子があったらいいのに、と探していた時に、「それなら自分で作ってみよう!」と思い立ち、和菓子教室に通い始めました。和菓子は豆や米などのシンプルな材料ながら、製法や繊細な技巧によって無数の形に様変わりし、学び尽くせないほど奥深い世界です。和菓子作りは自分の感覚や感性と繋がる時間、そして、手の中から表現したいものを生み出せるという喜びをもたらしてくれます。
和菓子を作るようになってからは、季節の移ろいや自然の営みにも敏感になりました。仕事で忙しい時も、散歩の途中で見つけた愛らしい花や、きれいな夕焼けに心が動いた時に、それらをモチーフにした和菓子を作ると、地に足がついた感覚が戻ってきます。Instagramは2016年に和菓子作りを習い始めた時に、作った和菓子の記録用として始めました。季節や自分の心に寄り添って和菓子を作り、その印象をさらに写真で表現することに無限の可能性を感じ、和菓子フォトグラファーという肩書きがあっても面白いかもと思い、それ以来名乗っています。
和菓子も写真も「一瞬の煌めきを表現する術(すべ)」
和菓子の学びを深めるために、数年前から茶道を習っていますが、茶の湯では和菓子はお茶を美味しく飲むための引き立て役です。理想的な和菓子とは、季節や自然を繊細に演出しながら五感に訴え、お茶を飲んだあとは食べたことも忘れるくらい後味を残さずに消えていくものと言われています。その刹那を楽しむのは、写真にも共通していると思います。写真は物事の一瞬を捉え、和菓子もどんなに手間暇かけて作っても食べるのは一瞬。そこに美学を感じます。また、和菓子に季節や自分の感情を落とし込み、形がなくなる前の一瞬を写真に残すことで、むしろ自分の中に大切な瞬間がしっかりと蓄積されていくような気がするのです。
自作の和菓子を撮る時は、和菓子を作っている段階から撮影のイメージやストーリー、和菓子を引き立てる器、背景、光の向きなど浮かんできます。一方、既製品を撮影する時は、そこに何が表現されているのか、作り手の思いはどこにあるのか、と観察しながら、ポートレートを撮るようにその和菓子の最高の表情を撮ってあげよう、という気持ちで臨んでいます。一番大事なのは、最後に美味しく食べることなので、お菓子が乾いてしまわないうちに撮り終えることも重要。私にとっては、和菓子も写真も「一瞬の煌めきを表現する術(すべ)」です。
2021年、Zシリーズと出会って
ボディーの軽さとクリアな色味に感動して、Z 6IIを購入
Nikon Z 6IIとの出会いは、GENIC主催の伊佐知美さんのオンラインイベントでした。Zシリーズを体験してみたいと思い、また伊佐さんの作品も素敵だったので、応募させていただきました。Z 6IIに初めて触れた時、まず本体の軽さに驚きました。グリップの持ちやすさ、明るくクリアに撮れること、自分の好みに合うクリエイティブピクチャーコントロールがあったことなどが気に入って、イベントの後、すぐに購入。Nikon機とはD600からの付き合いなので、Zを選んだのは自然な流れだったと思います。マウントアダプターによってD610用のレンズをZ 6IIで引き続き使えることも購入の決め手になりました。
Z 6IIが好きな理由はたくさんあります。コンパクトで軽いので持ち歩きやすいこと。本体の大きさやグリップが手に合っていて、カメラとの一体感を得やすいこと。サイレント撮影ができて、舞台撮影や茶道稽古の撮影時に便利なこと。そして、何と言っても色味が自然なことです。D610ではやや黄色味があったのですが、Z 6IIは白が白く写りますし、全体的に明るさと抜け感が増した印象です。ISOの数値をかなり上げてもノイズが少ないことにも驚きました。瞳・顔検出AFも優秀だと思います。特に役に立っているのは動物AF。写真嫌いなうちの猫を撮る時にとても重宝しています。チルト式液晶モニターも使いやすく、ローアングル、ハイアングル撮影が楽になりました。
自分が思い描く表現を叶えてくれるZ 6II
Zの魅力はクリアな空気感、ドラマティックに撮れること、そしてレンズのラインナップが豊富な点です。Z 6IIで初めて和菓子を撮った時の第一印象は、明るさと透明感!特に寒天を使った和菓子では、まるで光が宿っているような写真が撮れます。また、和菓子の柔らかさや表面の素材感も表現しやすいです。
Z 6IIを購入してからは、ピクチャーコントロール、クリエイティブピクチャーコントロールを使って、以前よりも色遊びをするようになりました。和菓子や料理撮影では素材の色味に大きな影響を与えないピクチャーコントロールのビビッドを、人物撮影ではポートレートを使うことが多いです。クリエイティブピクチャーコントロールは、自分の撮りたいイメージに合わせて手軽に写真の雰囲気を変えられますし、適用度を調整できるので、とても便利。スナップ撮影、ストリートフォトでも活用しています。よく使うのはピュア、ポップ、モーニング、サンデー、ドリーム、メランコリック、デニムです。表現したい雰囲気に合わせて、適用度も変更しています。
サイレント撮影では、うちの猫や写真を撮られるのが苦手な方もカメラを意識しないで済むので、より自然な表情が撮りやすくなりました。何かに集中している人の作業を邪魔せずに撮影できるのもいいですね。舞台撮影や、ワークショップで参加者の皆さんが和菓子づくりに取り組んでいる様子を撮影する時、また自分が通っている料理教室や茶道でも活用しています。
表現の幅も、仕事の幅もZが広げてくれた
プライベートでも仕事でも常に側にいるZは、まさにパートナー
趣味用のカメラとZ 6IIを併用していますが、Z 6IIはメイン機として仕事でもプライベートでも愛用しています。和菓子、料理は公私ともにZで撮るのが基本。ポートレート撮影の仕事もZと決めています。プライベートでは我が家の猫、茶道の稽古、旅、おやつ、日常風景を撮る時に使っていて、特に猫が可愛い表情をしている時にさっと撮れるよう、リビングのすぐ手に取れる場所がZの定位置です。愛猫に関しては、以前はスマホで撮ることが多かったのですが、Z 6IIの動物AFで瞳にピントを合わせやすくなり、毛並みの質感や表情もしっかり捉えられるので、静止画はほとんどZで撮るように。
軽量なZ 6IIを相棒にしてからは、手軽に持ち歩けるので、日常的な風景を撮ることがさらに増えました。近所を散歩する時や、友人と会ったり、外食したりする時にもよく持ち歩き、まさにパートナーという感覚です。Zを使い始めてから、仕事面での変化も感じています。写真教室のオファーが増えましたし、ウェブサイト用などのお菓子撮影のお仕事もいただきました。そして、雑誌『GENIC』に作品や記事を掲載していただいたおかげで、和菓子フォトグラファーとしての認知度が高くなったと感じています。あとは、Zで撮ると、自分の実力以上に写真が上手くなったような気がします!
シーンや撮りたいイメージに合わせてレンズを使い分け
自分が思い描く表現をZ 6IIは忠実に、時には見えている世界以上を写してくれます。操作性も良く、機能ボタンもカスタマイズできるので、ここのダイヤルで調整すればこういう画になる、と手のほうが覚えていて、撮影時にカメラの操作に煩わされることがありません。今持っているレンズのそれぞれの特徴や良さもしっかり引き出してくれるカメラだと思います。キットレンズのNIKKOR Z 24-70mm f/4 はZ 6IIを借りた時に初めて使わせていただき、クリアな描写力に驚きました。単焦点レンズを購入してからは出番が少なくはなりましたが、レンズを交換する時間が取りづらいミュージカル舞台の撮影などで今も重宝しています。
和菓子・料理撮影の勝負レンズはNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR S
NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sは、その写りの美しさに一目惚れして購入して以来、私の頼れる勝負レンズ。透明感のある写りがとても気に入っていて、和菓子や料理撮影では主にこのレンズで撮っています。素材感をよく表現できますし、特に和菓子にのせた金箔などにピントを合わせると、焦点部分が浮き上がり、周りは自然になだらかにボケます。このレンズを買ったあとすぐに、大好きな夏をモチーフにと思い、花火や波の和菓子を作ったのですが、こだわりの詰まった宝物のような写真が撮れました。NIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sはお菓子の質感をリアルに表現するだけでなく、目で見る以上にさまざまな雰囲気を写し出してくれる、大切なパートナーです。
料理全体やアレンジを俯瞰で撮る時に重宝するNIKKOR Z 40mm f/2
明るく立体感のある描写で、シャープな写りとボケもきれいなNIKKOR Z 40mm f/2。小型軽量ですし、暗い場所でも撮りやすいので、ちょっと出かける時の相棒的な存在です。被写体にわりと寄れるのも重宝しています。複数のお菓子を使ったアレンジメント全体を撮る時や、撮り歩きスナップ、うちの猫、自分の和菓子教室の様子、友人と食事に出かけた先での料理など、いろんな場面で活躍してくれます。
60mmのMicroレンズはしっとりした写りがお気に入り
D600とD610でよく使用していた60mmマイクロレンズも、雰囲気のある画が撮れるので、今も使う時があります。これは初めて買ったマイクロレンズで、このレンズとともに和菓子撮影を始めました。しっとりした写りが気に入っていて、カメラを換えても使い続けたいと思い、マウントアダプターFTZ IIを購入。Zで使うと、このレンズの性能や特徴がより引き出されたような気がします。明瞭で透明感のある写りのNIKKOR Z MC 105mm f/2.8 VR Sも好きですが、AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDの素直に撮れる感じも好きなのです。
GENICのイベントでZ fcにふれて、動画への興味もアップ
Sachiko Matsunami
GENIC主催のコムロミホ先生の講座でZ fcを試用させていただきました。Z fcはとにかく軽くて小型で、クラシカルなデザインの楽しいカメラ、という印象。ダイヤルの配置にも違和感がなく、すぐに慣れましたし、バリアングルのモニターも使いやすかったです。自分の和菓子&写真レッスンにも持参したのですが、皆様からも「かっこいい!軽い!欲しい!」という声が上がりました。
Z fcをお借りしたのを機にリールにも初挑戦。それまで動画は、ハードルが高そうな気がして手を出せておらず、スマホで何かの記録用として撮るだけだったのですが、コムロミホ先生のおかげで編集動画を作成することができました。自分が和菓子を作る様子を撮影したので、三脚の配置や設定などに時間がかかりましたが、動画を繋げたり、音楽を加えたりすることで、より多角的に自分が表現したいことを伝えられると実感。スマホより画像に奥行きがありますし、クリエイティブピクチャーコントロールが使えるのも楽しかったです。
今年はZ 6IIでもっと動画を撮ってみたいです。和菓子と風景を合わせて季節感を表す動画にトライしてみたいですね。日常の中でキラッと光る瞬間を映画っぽく撮るのも面白そうだなと思っています。
写真家(和菓子フォトグラファー)としての現在地
和菓子フォトグラファーとしての活動に寄り添ってくれるZ 6II
現在、和菓子フォトグラファーとしては、自作の和菓子と写真で季節や自分の思いなどを表現する活動や、ワークショップ『写菓の会』、『創菓の会』を開催しています。また、写真教室、菓子などの依頼撮影、ポートレート撮影などの仕事もしています。和菓子撮影でも、創菓の会などの写真教室でもZは欠かせません。高い機能が備わっていながら操作の自由性も高いので、カメラの機能やボタンなどを和菓子撮影のためにカスタマイズしています。カメラ任せで撮るというよりも、自分でカメラを使いこなして思い通りの表現を実現できるという面白さがZにはあります。
和菓子を撮る時に一番こだわっているのは、その和菓子の特徴や表情を捉えることです。色味や形だったり、素材だったりと、焦点を当てる部分は和菓子によって異なります。食べ物なので、不味そうに撮らないことももちろん大事です。Zでは和菓子そのものの繊細な色や表情を自然に写すことができます。家では、午前中からお昼ぐらいまでの自然光で撮るようにしていますが、ワークショップなどでは、光の状態によっては和菓子の色味が忠実に撮れないこともあるので、編集で光や色味を少し調整しています。それでもZで撮ると最小限の編集で済みます。和菓子教室を開催している場所では、部屋の中から外の庭を背景にして撮ることが多く、内外の輝度差がわりと大きいのですが、Zなら白飛びも黒つぶれも抑えられるので安心です。
自分らしく表現する楽しさを存分に味わえるカメラ
上手く撮ろうというよりも、目の前の被写体や瞬間に全神経を集中させて、心が惹かれるままにシャッターを切っています。私にとって写真撮影は、一瞬の瞑想のようなものです。被写体に集中しているうちに余分な力が抜けて呼吸が深まり、素の自分と繋がる感じがします。感覚が冴えてきて、表現を深めるアイデアが湧いてくることもあります。Zは撮りたい印象を忠実に描写してくれるので、自分らしく表現する楽しさを存分に味わえるカメラだと思います。
以前、写真展を開いた時に、私の写真を見て「呼吸が深まった」、「気持ちが安らいだ」と言ってくださる方がいて、とてもうれしかったです。それはまさに写真を撮っている時の私の状態だからです。忙しく日常を過ごしていると、あっという間に季節が過ぎていきますが、和菓子を作り、撮るようになってからは、繊細な季節の移り変わりや日本古来の歳時記への意識が高まり、生活が豊かになりました。私の写真を見てくださる方の気持ちが少しでも安らぎ、季節や自然に目を向けるきっかけになったら嬉しいです。
写真×和菓子のワークショップでもZが活躍
現在、茶室で和菓子撮影を愉しむ写真教室『写菓の会』と和菓子づくりと写真のミニレッスン『創菓の会』を行っており、どちらの会でも、もちろんZを使っています。
『写菓の会』は、茶室「吉松庵」からお声がけいただき、私自身も和菓子を茶室で撮ってみたかったので、二つ返事で始めました。ただきれいな写真やSNSに載せる写真を撮るというよりも、普段は入れない特別な場所で写真を撮りながら、表現の幅を広げられるような会を目指しています。少人数ですので、参加者おひとりずつのカメラ設定や写真を見ながらアドバイスをさせていただき、最後にはお茶と自作の和菓子をお出ししています。由緒ある素晴らしいお茶室と庭園で、お菓子を取り巻く場所の雰囲気や器、光をじっくりと味わい、自分の心が動く瞬間を見極めながら、丁寧に写真に収めてほしいと思っています。
鎌倉「蕾の家」から和菓子教室を打診されるまでは、自分で教えるつもりは全くなかったのですが、私自身の表現活動のベースである「和菓子づくり+写真」という組み合わせならやってみたいと思い、『創菓の会』を始めました。和菓子の意匠は私が考えているものの、色選びやアレンジは参加者の皆様に自由に選んでいただくことが多いです。自分でお菓子を創作して、思いのままに写真で表現する楽しさを味わっていただけたらと思っています。時間をかけてお菓子を作ると皆様も愛着が湧くようで、食べる前に一生懸命写真を撮られています。なくなるものだからこそ、きちんと向き合って撮ってあげよう、という想いを共有できる時間は私にとっても癒しです。
Zシリーズと描く未来予想図
自分の作風や視点を増やすために、新たなチャレンジを
和菓子フォトグラファー、写真家として、今後やっていきたい活動はたくさんあります。まず京都などの老舗の和菓子店や日本の伝統工芸を伝える職人さんにお会いして、お店や職人さんの想いが伝わるような写真を撮ってみたいですし、茶席の撮影もしてみたいです。さまざまなアーティストやギャラリーやアトリエとのコラボ、外国人向けのワークショップ、あるいは海外で『写菓の会』、『創菓の会』も行いたいですね。最近は時間の都合で撮り歩きのワークショップを開催できていないのですが、いろいろな方と一緒に写真を撮ると刺激になるので、いつか再開したいと思っています。そして、自分自身の視点や作風を広げるためにも、Zシリーズの新機種やレンズをどんどん試したいです。最近Z 8やNIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaをお借りしたのですが、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plenaはもっと街撮りをしたいと思わせてくれるレンズでした。その画の美しさにすっかり魅了され、欲しくてたまらなくなっています(笑)。
特にZを使って取り組みたいと思っているのは動画での表現活動。そして、名所や自然の中など、いろいろな場所での和菓子撮影や、和菓子の既存のイメージにとらわれない表現の開拓にもチャレンジしたいと思っています。本、絵画、器、音楽など、さまざまなアーティストの作品をモチーフに和菓子と写真で表現することにも取り組みたいです。あとは、毎年一人で「京都和菓子屋めぐり弾丸日帰りツアー」を実施していまして、1日8〜9軒の和菓子屋さんをめぐり、練り切りや干菓子を買っているのですが、訪れた店先や京都の街角でその和菓子を撮ってみたいです。また、コロナ禍以来まだ海外に行けていないので、Zを連れて大好きなロンドンの街を撮りたいですね。
Zとともに自分にとってさらに心地いい表現を探求したい
写真を撮ることの楽しさは、自分の思いや視点を瞬時に表現できること。レンズを通じて、肉眼で見えていなかった世界を発見できるのも、写真の面白さです。さらに被写体をさまざまな角度から見る癖がつくので、世界や物事を多面的に捉えられるようになるのも魅力だと思います。
ファインダーを覗き、生じる思考や感覚を観察しながら目の前に広がる世界と素直に関わることで、感覚がさらに研ぎ澄まされ、被写体や世界がより鮮明に見えてきます。自分自身と深く繋がり、自分と対話しながら、思いのままに写真で表現するうちに、それが癒しや自信となり、さらに表現の幅や自分の可能性が広がるような気がしています。私にとってZはもっと撮りたい、表現したいと思わせてくれる原動力です。Zがあるとさまざまな表現ができるので、さらに何かできるかも、と先を目指したくなるのです。表現方法の手段として、無限の可能性を感じています。そんなZを相棒に、自分と和菓子と写真の関係を掘り下げ、自分にとってさらに心地よい表現を探求していきたいです。