自分にとっての「心地よさ」を追求すること/市川渚の“偏愛道” Vol.02
「なんだか、一緒に居て心地よい」
誰しも、そんな人と日常を共にしたいと思うのは自然なことだ。また「心地よい」と感じるポイントは、人それぞれであって、正解、不正解があるようなものではない。
前回、人生は取捨選択という行為が連続したものだ、と書かせていただいたが、何かを選択しなければならないとき、私は自分がそれと共に生活することが心地よさにつながるかどうか、ということを自然に考えている。
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私にとって心地よく感じられる要素のひとつは、無駄がないことだ。
造形美に心奪われることももちろんあるのだけれど、極限までディテールが削ぎ落とされたミニマルなものというよりは、機能美と造形美が両立しているものが好み。
家に例えれば、収納が少なくモルタルとガラスが多用されたストイックなデザイナーズ物件より、毎日の生活に無理を強いられることがない機能的で美しい物件を選ぶ。
もともと身体が強くない上にストレスにめっぽう弱い人間なので、自分自身で避けられるストレスの原因は避けていきたい、ということも、そういった意識に自然と向いていく要因のひとつだと思う。
もちろん、これはあくまでも私の好みであって、良い、悪いの話ではない。
機能美と造形美が両立したものとして、真っ先に浮かんだのが、数年前まで愛用していたカメラだ。
もう生産が終わってしまったパナソニックの超小型ミラーレス機のLUMIX GM。
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スペック的には当時併売されていた一回り大きいGXシリーズとほぼ同等なのに、女性の片手にすっぽりおさまる驚異的なサイズで、小さなバッグでもポンと入れて持ち歩けてしまう。
もちろん、このシルバーメタル×ホワイトという佇まいに一目惚れして購入した。
このカメラとLEICA DG SUMMILUX / 15mm F1.7のレンズは最高の組み合わせで、私が写真にますますハマっていったきっかけにもなった1台である。
女性だけをターゲットにしたような柔らかく可愛らしいデザインではなく、少しクラシックで硬派な佇まいも気に入っていた。
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発売から6年も経ち、キズや汚れも目立つようになってしまったけれど、未だに大きめのカメラを持ち歩きづらい旅先などで使っている。
「“らしい”ね」と言っていただける私のニュートラルな写真の色味も、このカメラの佇まいから必然的に生まれてきたといっても過言ではない。
もはや、このカメラの佇まい is 私、なのである。復活してくれないかなあ……。
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閑話休題。この連載がスタートして、何故偏愛に走ってしまうのかを色々と考えてていたのだが、どうやら私はその心地よさ--自分との“調和”とも言える--に対する執念が人一倍強く、それが妥協を許さない偏愛的価値観へと繋がっているのかもしれない、とふと思った。
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自分が納得して選べるものが果たして世の中に存在するのか、時間の無駄だとは思いつつも、インターネットという大海原へ飛び込み、とにかく自分で探しまくる。
見つからなければ、前回お話しした名刺ケースのように自分で作ることもある。
そして「これだ!」と納得して時間をかけて選んだものだから、長く使いたいし、大切にしたい、という想いも強くなる。
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一方で、身に纏うものにおいては、ある意味“心地よさ”とは対極にあるものを選ぶことも多い。
矛盾ともとれるこの嗜好、私が生きていく上で、なくてはならない要素。
詳しくは、また次回に。
【市川渚の“偏愛道” 】バックナンバー
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市川渚
1984年生まれ。N&Co.代表、THE GUILD所属。
ファッションとテクノロジーに精通したクリエイティブ・コンサルタントとして国内外のブランド、プロジェクトに関わっている。自身でのクリエイティブ制作や情報発信にも力を入れており、コラムニスト、フォトグラファーやモデルとしての一面も合わせ持つ。