白に対するこだわり/市川渚の“偏愛道” Vol.01
人生というものは取捨選択という行為が連続したものだと私は考えている。何を選ぶか、どうして選ぶか、という行為が積み重なって、その人をつくりあげていくのだ。
選び方に、その人なりの偏ったこだわりがあることを、ここでは偏愛と呼んでいきたいと思う。
私の偏愛のひとつは「白いもの」だ。白いものを選ぶというよりも、白いものしか選ばない、と言うのが正しいかもしれない。白も青みがかった真っ白ではなくて、曇り空のような、落ち着いたオフホワイトに近い色が好み。
何か新しく興味を持ったものに白(またはシルバー系のカラーバリエーション)が存在しなかったら、手に入れるのを諦めるくらい、このこだわりは譲れない(笑)。
これだけのこだわりをもっていると、逆にものを選びやすくなるという利点もある。「アウト」なものが眼中に入らなくなるからだ。
どうしても理想のものが見つからなければ、自分で作ったりもする。愛用の白い名刺ケースは以前、自分で作ったものだ。そもそも汚れやすい名刺ケースに白というカラバリを取り揃えているメーカー自体が少ない。フランスの某老舗レザーグッズブランドに理想のカラーリングのものが存在していたのだけれど、レザーの質感が個人的にあまり気に入らず手が伸びなかった。
ある日、バッグブランドをやっている学生時代からの親友が「好きそうな白いレザーのハギレがあるからあげるよ」とくれたのが、このマットな質感のレザーだ。“手作り感”溢れるテイストがあまり好みではないので、ラグジュアリーブランドの革製品を参考にしながらコバ(革の切り口)の仕上げや縫い目にもかなりこだわった。
その結果、もう4年ほど愛用している。流石にちょっと汚れてきちゃったけれど。
イノベーターのためのライフスタイルブランド「objcts.io」とのコラボレーションで作ったドローン「Mavic Air」用のバッグも、彼らのショールームに遊びに行った時、プロトタイプとして展示されていた白いレザーのプロダクトを見かけたところから始まった。オフホワイトまではいかない、クリーンな白。理想の白だった。
というように、私はとにかく白いものに目がない。
なぜ白にこだわるようになったかというと、それは2002年に発売されたAppleのパソコン「iMac G4」の存在が大きい(ご存じない方は、ぜひググってみてほしい)。マットな白い丸い本体から伸びるシルバーのアームが液晶画面を支えるデザイン。それまでのパソコンの概念を覆すようなその姿は親しみを込めて“大福”と呼ばれていて、ティーンエイジャーの私はそれをえらく気に入っていた。そこから自室に置くものをiMacと調和するものだけに限るようになったことが、白にこだわりはじめたきっかけと思う。
「白いものって汚れやすいでしょ?」と聞かれることも多いけれど、着たあと、使ったあとのアフターケアをきちんと行えば、白を恐れる理由はなくなる。これらは白いものを白いまま愛用するための秘密道具の一部。
白いレザーの靴やバッグ(に限らないけれど)は購入したらすぐに防水スプレーをかけて、水シミだけでなく、汚れ自体を防ぐ。汚れがついてしまったら、ステインリムーバーで汚れを落として、栄養クリームを塗り、また防水スプレーをかけておく。それだけで、良いのだ。M.モゥブレィのステインリムーバーは使い続けた白いレザーも新品同様にしてくれるくらいの威力があるので、オススメ。
ある程度時が経てば、取れない汚れも出てきてしまうが、きちんとケアをしながら愛用した白いレザーには新品には出せない味が出てくる。それはもちろん、白レザーに限ったことではないけれど。
白い洋服に関しては洗濯前に必ず襟ぐり、袖口に染み抜き用の洗剤をつけてプレケアをしておく。これだけで白い服で気になりがちな襟袖の黄ばみやくすみを防止できて、お気に入りの1枚をより長く楽しむことができる。2回に1度くらい、酸素系の漂白剤を使ってお湯洗いするとなおよし。
汚れやすいけれど、あえて選んでいる。汚れやすいから、ちょっとだけ手がかかるのだが、こだわりをもって選んだものに手をかけるから、より愛着も強くなると思うのである。
市川渚
1984年生まれ。N&Co.代表、THE GUILD所属。
ファッションとテクノロジーに精通したクリエイティブ・コンサルタントとして国内外のブランド、プロジェクトに関わっている。自身でのクリエイティブ制作や情報発信にも力を入れており、コラムニスト、フォトグラファーやモデルとしての一面も合わせ持つ。