ほっこりしてない北欧と出会ったときの話/ぽんずのみちくさ Vol.23
北欧というと、枕詞に「ほっこり」とつくイメージがあった。やさしいパステルカラーに彩られた、ほっこり北欧。やさしくて毒のない童話のような世界。
私のイメージする北欧は、あまりにも優しくてピースフルで、旅に刺激を求めていた当時の自分の求める場所ではないような気がしており、旅先の候補として検討したことすらなかった。
そんな中、家族が一時期デンマークに住むことになった。ならば私も会いに行こうということで、知識ゼロのまま初の北欧へと向かった。
驚いたのは、目に入ってくる看板や広告がいちいち洗練されていることだった。私の思う「かっこいい広告」が、おしゃれな要素を付け足して作る「足し算の広告」だとしたら、デンマークで目にした広告の多くは、余計な要素を省いた「引き算の広告」だった。
とくに印象的だったのはスーパーマーケット。洗剤に柔軟剤、シャンプー、ハンドソープ。白や黒、落ち着いた色合いで統一された棚は、生活必需品が並んでるだけなのに心が躍る。
ホテルやカフェ、図書館などの空間づくりやインテリアも刺激的だった。優美な曲線を描く椅子や、繊細な光を灯し陰影を際立たせるランプ。合理的・実用的であることと、モノとしてかっこよくあることは、完璧に両立しうるんですよ。そう語りかけられているようで、ただ街を歩いてるだけなのに何度もため息をついて感動してしまった。
たった数日の旅だったのに、最高にクールだと思う光景や商品に何度も出会った。それは、デンマークを訪れる前に私が描いていた「ほっこり」一辺倒の文化とは全く違うものだった。
無垢で素朴な北欧のイメージは、北欧のもつ深い文化の中のほんの一要素でしかなかった。そりゃそうだ。日本におけるフジサンやゲイシャが一側面でしかないのと同じなんだ。当たり前のことだけど、私の貧弱な想像は、いつも現実に追いつかない。いつだって、その場所に実際に足を踏み入れてから気づくのだ。
それがどんな些細な変化だったとしても、自分の持ってるステレオタイプがくつがえされることには意味があると思う。
自分の頭の中より世界はずっと広いのだと、生きてる限り何度でも脳を殴られたい。
ぽんず(片渕ゆり)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。