移住へのふんぎりはどうやって/伊佐知美の「旅するように移住」Vol.15
人生のさまざまな場面、決断でそうだと思うけれど、「心を決めて、実行する」ってかなりの体力と気力を使う。
住む場所や付き合う人、時間の使い方など、暮らしの根幹とも言える要素が変化する移住という決断なら、なおさらだ。
「移住したいな」という夢の種を、「よし、移住するぞ!」という決断まで持っていくためには、何が必要なのだろう?
つまり、移住へのふんぎりって、どうやってつけたらいいのかな?というのがこの連載の最後のテーマ。
移住の決断には、きっとタイミングがやってくる
ちなみに、最初に断っておきたいのだけれど、移住について考えて即決断できる人は、この記事を読んでいないと思うし、大きな決断に慣れている人の可能性があると思うので、今回の記事ではちょっと例外。
今回このコラムを届けたい人は、「移住したいとは思うけれど、迷っている人」だ。
その気持ちは痛いほどわかる。なぜなら、私もずっと心の中に「南の島に移住したいな」という気持ちがあったけれど、実行までに数年かかっているから。取材させてもらった人たちに聞いても、移住への興味関心が芽生えてから、実行までに時間がかかったよ、という人は少なくない。
そして、たくさんの移住のケースを見た上で感じたことは、移住に縁がある人には、「決断・実行するいいタイミング」が来るものなのかもしれないな、ということ。
そのトリガーは、大きく分けて2種類だ。
移住のふんぎりにつながる、2種類のきっかけとは
1つ目は、「ノリ」!2つ目は、「人生の転機に乗じて」。
前者については、「えっ、ノリ……つまり気分で決めちゃったの?」と感じる人もいるかもしれない。けれど、実際に「ノリで移住しました!」という人は、多いのだ。
もう少し丁寧に説明すると、これはある程度悩んだ挙句、最後のさいごはノリ、つまりその場の空気や勢いで決めちゃった!というケース。
一人で悩んで、というよりも、友人などに相談した流れで気持ちが盛り上がり、その場で現地行きの飛行機を取り、移住の一歩目を踏み出しました、というエピソードは移住あるある。コロナ禍においては、Zoomで雑談をしている時にやっと腹を決められた、という人も多数いた。
後者の「人生の転機に乗じて」は、文字通り、人生に何かしらの変化が生じた時に、「いっそ移住しようか」と前々からの希望を重ねるケース。
たとえば、転職を決めた時。あるいは、賃貸物件の更新時期がやってきた時や、長く付き合っていたパートナーと別れる時など。じつは、最後の例の「失恋・パートナーとの別れに際して移住を決めた」という人はとっても多い。
何を隠そう、私自身も沖縄移住を最終的に決めたタイミングは、関東で同棲していた部屋の解約を決めた時だった。
自由の身になるとわかった時、「であれば、ずっと暮らしてみたかった沖縄に移住しちゃおう、そうだ、そうしよう!」と思ったのだ。
もちろん、前々から沖縄移住は考えていたし、移住したいからこそ別れを選べたということはあるから、鶏と卵の話みたいに、どちらが先か、という順序は曖昧ではあるけれど。とにかくこんな風に「人生の転機をきっかけに、移住実行を決めた」という話は枚挙にいとまがない。
ちなみに、私は世界一周の旅をしている最中、日本から海外に移住した女性にインタビューしながら回っていたことがあるのだけれど、その時も「どうして移住を決めたんですか?」と聞くと、「表向き色々な理由は並べられるけれど、最後の決め手は失恋ですね、正直!(笑)」と話す人に何人も会った。婚約破棄に乗じて、という人もいたなぁ。
もちろん、失恋は一例だ。それ以外にも、何かしらの理由で生活が大きく変わり、「新しい自分」を始められそうなタイミングというものは、誰しもの人生に訪れるのではないだろうか。
そのタイミングで、「じゃあ、移住を」と考える人が多いのは、とても納得できる。
機が熟すのを待ってもいい
「行動しないと何も変わらないよ!」という意見も、もちろん真理だ。待っているだけじゃ、何も変わらない。それは真実。
この連載で何度も言ってきた通り、移住とは「ライフスタイルを選び直せる素敵な機会」だけれど、自由に選べすぎる時代だからこそ、決断や選択を迷ってしまうという人は多いんじゃないだろうか。
「移住したいと思っているなら、今すぐしちゃいなよ!」と勧められたらいいけれど、気軽に勧めすぎるのは無責任だなぁ、と私は思っちゃう。何度でもやり直せると言っても、やっぱり大きな変化が生じるもんね。
すぐに決めなければいけない、ということはないと思うのだ。
移住と縁がある人なら、日々、移住したいな、という種に少しずつ水をやりながら過ごしていたら、たとえば突然気持ちが盛り上がってくれるタイミングだったり、移住を促すような大きなほかの変化が発生したりと、「移住の機が熟す瞬間」が、どこかでやってくるのではないかと私は思う。
そのタイミングを逃がさないように、アンテナを磨き続けることも移住のふんぎりをつける一歩になるはず。
この連載を読むことも、移住の機を熟させるための鍵の1つであったらいいなぁ、と思いながら綴ってきました。息をするだけで幸せだ、と感じられる運命の場所に、一人でも多くの人が出会えますように。
伊佐知美
これからの暮らしを考える『灯台もと暮らし』創刊編集長。日本一周、世界二周、語学留学しながらの多拠点居住など「旅×仕事」の移動暮らしを経て沖縄・読谷村に移住。移住体験者の声をまとめた『移住女子』の著者でもある。