ウエスト・サイド・ストーリーとともに/ぽんずのみちくさ Vol.101
ニューヨークという街に、初めて憧れたのはいつだったろうか。思い返してみると、たぶんそれは小学3年生のころ。レンタルビデオを借りてきて観たミュージカル映画「ウエスト・サイド物語」がきっかけだった。
当時の自分にストーリーがどれだけ理解できていたのかというと、かなり怪しいだろう。「アメリカ」も「プエルトリコ」も遠い遠い世界の話。盗んだバイクでは走り出さない ”ゆとり世代” として育ったのだ。登場人物たちの派手なケンカを見ても、何を理由にいがみあっているのか、その頃はまったくピンとこなかった。
それでも、心惹かれるには十分だった。歌詞の意味はわからずとも、メロディの美しさは心に残った。中学、高校で英語を学ぶようになってからは、歌詞の意味もわかるようになってきた。色褪せぬ名曲たちを何度も口ずさんでは、まだ行ったことも見たこともないニューヨークの街に思いを馳せた。
高層ビルにはあまり興味がないのに、ニューヨークの摩天楼だけはなぜか特別なものに思えるのが不思議だった。劇中で印象的に使われる非常階段は、今のニューヨークにも本当にあるのだろうか?古いレンガの壁は?バスケットコートは……?
憧れは消えることがなく、その後大学生になり、初めてアメリカへ渡った。探していた風景のいくつかは実際に見つけることができた。それに今でもやっぱり「また探しに行きたい」と思う。
そして2021年(日本公開は2022年)、新しい「ウエスト・サイド・ストーリー」が公開された。1961年のリメイク版にあたり、メガホンをとったのはスピルバーグ。あの歴史的名作をあらたに作り直すことなんて可能なんだろうかと(勝手に)不安に思うこともあったけれど、映画館に足を運び、その不安が杞憂に過ぎなかったことを知った。現代の技術とフィルムの味わいを融合させた映像は見惚れるほど美しく、リアルな生活音の入り込んだ音響は臨場感満載。キャストはフレッシュで、社会背景の描き込みが増えたことで、それぞれの置かれた境遇がわかりやすく、より感情移入しやすくなっていた。
重苦しいニュースが続くなかで、名作が語り継がれて行く未来を思うとすこし希望が見える。新しい「ウエスト・サイド・ストーリー」も、多くの人を動かすのだろう。
片渕ゆり(ぽんず)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。