スマートフォンがすっかり普及した今、私たちは毎日多くの写真を撮り、インターネットに接続すれば世界中のいろんな写真を見ることができるようになった。写真はとても身近なものになったけれど、じゃああなたを表す一枚は?と問われ、その一枚を、どのくらいの人が持っているだろうか。
1月29日公開の映画『おもいで写眞』は、メイクアップアーティストになる夢に破れ、たった一人の家族だった祖母が亡くなったことをきっかけに東京から富山へと帰ってきた結子(深川麻衣)が主人公。彼女はお葬式で祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをする。そんな時に、幼なじみで役所勤めの一郎(高良健吾)から頼まれた、お年寄りの遺影をその人の思い出の場所で撮る“おもいで写真”の仕事を引き受けることになり、結子の物語も動き出していく。
今回は結子の幼なじみの一郎役を演じた高良健吾さんに、映画について、そして写真について、率直な想いを伺った。
写真にまつわる特別な思い出
一郎は喪失と後悔の中にいる結子に“おもいで写真”を撮る仕事をオファーするという、物語のキーになる役どころですね。高良さん自身に写真にまつわる特別な思い出はありますか?
実は僕も祖父が亡くなった時に、結子と同じことを思ったんです。祖父も遺影のための写真を撮っていなかったので、別々の写真の顔と胴体を合成しなくてはならず、それもピンボケしていて。悲しかったですね。祖父との思い出はたくさんあるし、祖父を尊敬しているから。でも、やっぱりその人が生きているうちにそこまで気がつくのって難しいんですよね。その時、これは亡くなった後に、残された人が直面する問題なんだなと思って。だから今回、その問題に光を当てられることに、やりがいを感じます。
普段お写真は撮りますか?
一時期RICOHのGRシリーズのカメラを持ってみたりはしたんですけど、撮らなかったな……結局めんどくさいんでしょうね(笑)。「いいな」と思った瞬間って、カメラを構えた時には終わっているじゃないですか。だからSNSもしていなくて。僕には合わないのかな(笑)。でも、旅行に行った時によく写真を撮っている人は、旅行が終わった後みんなに写真を送ってくれたりするじゃないですか。あれ、優しいですよね(笑)。あの時あの場所でみんなでこうしているのを撮ってくれていたっていうことが、すごく嬉しい。僕はそういう人になれていないな。
被写体になる機会も多いと思いますが、写真に撮られることはお好きですか?
好き嫌いでは言えないですね。僕が被写体になるのって大抵の場合お仕事や宣伝だから、「撮ってもらっている」という感覚なんです。だから嫌いとはいえないし、じゃあ好きですか?と言われると、またそれも違うじゃないですか(笑)。
映画やドラマなども「撮られる」ということになると思いますが、写真の「撮られる」とは違いますか?
感覚の違いはありますね。どちらがやりやすい、やりにくいということはないんだけれど。動画は自分がやる芝居に意識がいっていて、それは撮ってもらわないと成立しない。やっぱり自分の中の中心なんです。でも写真の場合、僕はモデルじゃないから、ちょっと違う場所にいる感じがするんですよね。だから「撮ってもらっている」という意識が強いのかな。もちろん静止画の時も演技をするという感覚はあるんですけどね。今日撮った写真も、いつもの自分とちょっと違うはずなんですよ。素ではないんですよね。
東京で暮らすことは全てじゃないし、地方へ戻ることは負けじゃない。
もし高良さんが“おもいで写真”を撮るならどこで撮りますか?
故郷の熊本の河川敷だと思いますね。よく友達と集まっていた場所なんです。遊ぶ場所がそこしかなかっただけなんですけど(笑)、僕にとっては大切な場所です。
映画では高良さんが演じる一郎へ上京の話が舞い込み、東京で暮らすか地元で暮らすか悩みます。逆に今はコロナの影響もあって、人口が密集している都市ではなく、地方で生活することを考える人も多いと思うのですが、高良さんにも共感する部分はありますか?
僕自身が地方出身だし、不思議と地方出身の役をいただくことが多いこともあり、一郎の悩みには共感しますね。僕は今東京を拠点に活動しているけれど、地元に残ったとしても、地元から出たとしても、自分の状況が違うだけで「これでよかったのか?」というのは考えてしまうことだと思う。
ご自身がもっと年齢を重ねたら、故郷に拠点を移したいと考えたことは?
熊本から仕事に通えるようになることは目標ですね。僕、10代の、それこそ上京する前からずっと目標にしているんですよ。いろんなライフスタイルがある今、東京だから、地方だからという線引きはあまり意味がないとは思うんだけど、僕は東京が日本を支えているというより、地方が日本を支えていると思いたいし、そう思っているところがあって。地方は魅力だらけなんですよね。なんなら地方だからこそできることに魅力を感じますね。
地元への愛を感じます。
もちろん東京のことは好きだし、住めば住むほどいいところばかりが見つかって大好きにもなっていくけど、でもやっぱり仕事をしている場所という感じがあるんですよね。やっぱり僕にとって、東京は全てじゃないんです。だから上京したけど地方に帰る、という選択肢は負けでもなんでもなくて、新しい挑戦だと思っています。今いろんな状況で、地方で生活することを選ぶ人にもエールを送りたいですね。地方だからこその可能性があるし、面白いことができるんじゃないかと思っています。
高良健吾
1987年生まれ、熊本県出身。2006年、『ハリヨの夏』にて映画デビュー。『軽蔑』(2012)で日本アカデミー賞新人賞、『苦役列車』(2013)で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、『横道世之介』(2014)ではブルーリボン賞主演男優賞を受賞する。近年の主な映画出演作に、『アンダー・ユア・ベッド』(2019)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019)、『葬式の名人』(2019)、『カツベン!』(2019)、『星の子』(2020)などがある。2021年は、NHK大河ドラマ「青天を衝け」への出演と、映画『あのこは貴族』『くれなずめ』の公開が控えている。
映画『おもいで写眞』
劇場公開日:2021年1月29日(金)
監督:熊澤尚人
出演:深川麻衣、高良健吾、香里奈、井浦新、古谷一行、吉行和子 他
たった一人の家族だった祖母が亡くなり、メイクアップアーティストになる夢にも破れ、東京から富山へと帰ってきた音更結子。祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをした結子は、町役場で働く幼なじみの星野一郎から頼まれた、お年寄りの遺影写真を撮る仕事を引き受ける。初めは皆「縁起でもない」と敬遠されたが、思い出の場所で写真を撮るという企画に変えると、たちまち人気を呼ぶ。ところが、あるひとの思い出が嘘だったとわかり、その後も謎に包まれた夫婦や、過去の秘密を抱えた男性からの依頼が舞い込む。怒って笑って時に涙しながら成長してゆく結子の毎日は、想像もしなかったドラマを奏でてゆく──。芸能事務所テンカラット25周年企画映画。
Photo:近藤みどり Interview:阿部洋子 Stylist:渡辺慎也(Koa Hole)Hair+Make:高桑里圭