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トルコ、猫日誌/ぽんずのみちくさ Vol.100

片渕ゆり(ぽんず)<連載コラム>毎週火曜日更新
ほんとに大切にしたい経験は
履歴書には書けないようなことばかり
旅と暮らすぽんずが送るコラム

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トルコ、猫日誌/ぽんずのみちくさ Vol.100

私は猫を飼ったことがなく、熱心な愛猫家というわけではない。けれども、猫のことはかわいいと思っている。小学生のころ、ミュージカル「CATS」の影響で猫が好きになり、暇さえあれば猫の絵を描いていた時期もあった。猫を飼うならば理想の名前はなんだろうなと、日がな一日考えていたこともある。アレルギー体質ゆえに猫を飼う夢は叶わなかったけれども、出かけた先で猫を見かけるとやっぱり自然と顔がほころんでしまう。

「トルコは猫が多い」という話は、何度も耳にしたことがあった。しかし、実際に訪れてみて、「こんなに多いとは」と驚いた。単にいっぱいいるだけじゃなくて、人間との距離が近い。イスタンブール市内のカフェ(おもにテラス席)でコーヒーを飲んでいると、必ずと言っていいほど猫が近寄ってくる。気づけば隣の席にすっぽり収まっている猫や、私のリュックの紐をおもちゃにして遊び始める猫もいる。

トルコへの渡航は仕事も兼ねており、パソコン作業もたびたび必要だった。〆切、〆切、と焦りながらキーボードを叩く私のひざの上に、猫たちはするりと忍び寄ってくる。私のひざを「あたたかいところ」と認識したらしい猫は、うつらうつらと居眠りを始める。撫でるでもなく、ご飯をあげるでもないけれどただ、お互いにあたたかいからくっついている。感動的な交流とは呼べないが、こういう時間は好きだ。

カフェや公園の猫をだいぶ見慣れてきたと思ったあとも、猫大国での驚きはまだまだ続いた。

ひとつ目。古代遺跡に猫がいる。遺跡を見に来たはずの人間たち、気づけば猫にカメラを向けている。石の上にすっくと座る猫の姿は、心なしか神々しささえ感じてしまう。

ふたつ目。バス停に猫がいる。これでバスにも乗り込んで来たらもう物語の始まりだなと思って期待したけれど、さすがにそんなことはなかった。私の期待なんぞお構いなし、バスには目もくれずごろごろしていた。(ちなみにトルコには公共交通機関を乗りこなす地域犬がいるらしい。)

みっつ目。改札に猫がいる。これはもはや「あざとい」の域では!?と私は驚嘆していたけれども、まわりの人々は見慣れた様子。ここを通勤路にしている人がうらやましい。

よっつ目。なんと病室にも猫がいる。用事があって病院にいったら、猫様が病室の中までするりと入ってきてしまった。さすがにスタッフが慌てて帰らせていたけど、その後も隙があれば入ってこようとしていた。「あの猫、もしかしてドクター?」と聞いたら「そうだよ」とスタッフ。そうですよね。そうに違いない。

トルコで出会う猫たちは、常に予想の斜め上を行くのであった。

片渕ゆり(ぽんず)

1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。

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