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映画『エッシャー通りの赤いポスト』出演のモーガン茉愛羅さんにインタビュー「このままでいいのか?という思いを抱えている人に」

2021年12月25日公開、園子温監督『エッシャー通りの赤いポスト』に出演するモーガン茉愛羅さんに、GENICが単独インタビュー。モデルとして、女優として、そしてフォトグラファーとして活躍する茉愛羅さんが、この映画を通して気づいたこと、そして受け取ったメッセージとは?

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エキストラでいいんか!?人生のエキストラで!?立ち向かえーー

『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』など、傑作、怪作を生み出してきた園子温監督が、久しぶりにインディーズ映画のメガホンを握った『エッシャー通りの赤いポスト』。「忘れていた感情がもどってきた」と語る本作は、園子温監督が映画を作ることで原点回帰を遂げた、映画愛にあふれる瑞々しい青春群像劇です。

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約2時間半の本編は、疾走感に溢れ、園子温監督らしい魅力的なヒロインが次々に登場します。その中で「方子(かたこ)」役を演じたのが、GENICではフォトグラファーとしておなじみのモーガン茉愛羅さんです。

映画の撮影はだいぶ前に行われたんですね?

そうなんです。2019年夏に撮影したので、もう2年半前になります。パンデミックの前だったので、このような群像劇がまだまだ撮りやすい時代でした。でも今公開だからこそ、この映画から気づけることが増えたんじゃないかな、と思います。

この映画は、劇中に出てくる鬼才・小林監督が映画を撮るためのオーディションを実施して、映画を撮り進めていくというストーリーですが、これはなんと、実際に茉愛羅さんたち出演者が現実で体験したこと一致しているのですよね?

はい。園子温監督が映画を撮るためのワークショップを行うということで、そのオーディションを受けたのですが、実際に受けたオーディションとまったく同じ内容が、映画の中で繰り広げられるんです。
どんなワークショップだったのか?というのは、この映画を見ていただければわかる、というくらい!本当に混ざっちゃう感じです。

ワークショップには697名の応募があり、最終オーディションを通過したのが、この映画に出演した51名だそうですね。

書類選考を通過した478名の一次演技面談からは、園監督ご本人が立ちあってくださっていて、実際の映画にも出てくる「安子」と「切子」のシーンを全員がやったんです。
私が実際に演じた「方子」という役はそのときにはなくて。出演する51名が決定してから、園監督が役を増やしていって、そこでできたのが方子という役でした。そこからまた、51名で役決めのオーディションが3日間あったんですが、そのときにはもう「方子をやりたい!」と思っていたので、その3日間は方子をめがけて挑んでいた感じでした。

方子役に決まったときはどうでしたか?

電車の中で、配役決定の電話を受けたんですが、「これで運命が変わる!」みたいな、この映画の中の登場人物たちと同じようなことを思いました。
私はこういう顔立ちなので、役を選ぶという難しさもどうしてもあったりして。
でもこの映画で自分を試せるチャンスをいただけて、大きい役は初めてだったのですごく嬉しくて、そのときは緊張とかよりも楽しみが勝っていました。

なぜ方子を演じたいと思ったのでしょうか?

安子も切子ももちろん魅力的だったんですけど、方子という役は自分に似ている部分があるなと思っていて。一番セリフがスッと入って、一番理解できたのが方子だったんです。

どんなところが似ていると感じてたんでしょうか?

曲がってることは許せないというか……。子どものころから割とはっきりした性格だったので、納得できないことが許せなくて、大人になっても「それ違うんじゃないですか?」とか言ったりして、なかなかいろんなことにフィットしていけないんタイプなんです。自分の心情と行動が一致してないと動けないし、それがすごく表に出ちゃう。世渡り上手じゃない部分とか、不器用というか、正義感が強いというか、そういうところが方子と自分は似ているな、と感じてました。

方子は劇中でカメラを使っていましたね。園監督が「演じる俳優たちの個人的な要素も散りばめて、自分自身に近い役を〈演じる〉ことで、現実と虚構の壁を突き破った演技へ昇華させることを求めていた」というお話を伺いました。方子がカメラを持っているのは、茉愛羅さんが演じたからなのでしょうか?

私が演じる上で追加されたキャラクター要素だと思います。そもそも方子は映画が好きで文学的な子で、映像や写真を撮るのが好きって感じもあったので。そしてあれは私物カメラです!キヤノンのA-1とミノルタのTC-1をそのとき使ってたので、現場に持っていって、それを劇中でも使用していました。

方子は、映画の中でどんな役割を担っている人物だと思いますか?

もうひとりの小林監督なのかな?と思っていました。誰にでもある、心の中にいるもうひとりの自分、みたいな。あっと驚くタネが隠されている役です。
役づくりとしては、ふわっと浮遊しているような軽やかさを大事にして、そこに存在しすぎないようにしたいな、と思っていました。でも、とても芯のある女性である、というところは抜けないように。

安子の「カメラは愛してる奴に向けるもんなんだよ」という台詞があります。茉愛羅さんはそれを聞いてどう思いましたか?

熱い言葉だなあと思いました!園監督が映画を作るときに、こう思って作ってるんだろうな、とも感じて。愛を向けて作品っていうのは作るんだよ、っていう、監督からのメッセージにも思えたし。作品って、映画だけじゃなくて、絵でも写真でも、クリエイティブなものってすべてそこに愛を向けて作るものだと思うので、すごく大事なメッセージだなと思いました。

映画は、濃いキャラクターたちがたくさん出てきて、みんなが疾走している感じでしたが、実際の現場はどんな雰囲気でしたか?

ほんと、そのままな感じでした。特に商店街のシーンは51名全員が集まって、さらにエキストラの方もいたんですが、気温的にも暑いし、みんなも燃えてて熱いし。熱量がすごかったです。
私は自分が登場しないシーンも、ずっと撮影は見ていたんです。方子は恋人である小林監督をずっと見守っているような存在だったので、園監督からも『小林のシーンはたくさん観ておきな』と言われ、監督の側で自分の出ていないシーンもたくさん見させてもらいました。だから撮影期間の10日間、ほとんど現場にいたのですが、ほんとあっという間で楽しかったです。
51名全員が、自分を試しに来てる、という感じで、人生かける!という思いがあったので、すごく現場の熱量も高いし、映画と実際の乖離がない感じでした。

ペンキをかけるシーンも印象的でした!撮影秘話はありますか?

長台詞だったんですが、あれは本当に失敗が許されない一発勝負のシーンでした。でもとにかく噛まずに全力でできれば絶対いいシーンになると思って、逆にアドレナリンが出て、プレッシャーよりもすごく楽しんでできました!みんな、全員が興奮状態でした!

完成した映画を見て、どう思いましたか?

撮り終わったあとすぐに試写したときは、まだ撮りたてで恥ずかしい気持ちもあったんですが、2年経って見たら、作品として見ることができて、ちゃんと映画からのメッセージを受け取ることができて、燃える思いがしました。撮ったときには気づけなかったことがたくさんありましたね。コロナの世界を経て、今だからこそ響くメッセージが、たくさん散りばめられている映画だと思います。

茉愛羅さんが映画から受け取ったメッセージとは?

コロナでいろんなことができなくなったり、前みたいなあっけらかんとした部分が自分自身になくなった人も多いと思うんです。流れに身を任せていくような感じになっちゃって、このままでいいのか?という思いを抱えている人もいるかな、って。
この作品を改めて見てみて、自分の意志とか、自分が何をしたいのか?ということをもっと考えなきゃいけないなと思ったし、それと同時に、こんなに一生懸命に生きている人たちがいるんだ、ってことに勇気づけられました。今の自分って生半可なんじゃないかなとも。
見終わったら、最後は走り出したくなっちゃうような感じで、今思っていることを伝えないと、とか、やりたいことをやらないと!今って有限なんだ、という気持ちになりました。いろんなキャラクターがいろんなことに挑んでいるので、自分もきっとできるっていう風に思えるんですよね。

「エキストラいでいいんか!?人生のエキストラで!?」という映画の中のキーワードへの思いは?

自分がどんなところでも主役なんだ、ということは、自分の考え方ひとつで変えられるし動いていけるっていうのを、改めて感じたし、自分も見て励まされました。
もっと自分のやりたいこととか、もっと楽しんでいいんだな、って思えたんです。
世界中が同じ経験をした今、そう感じてくれる人が多いといいな、と思っています。落ち込んだり元気なくなったりしてる人にも、この映画を見て、こんな人たちもいるんだな、自分も何かできるな、と思ってもらえたらすごく嬉しいです。

映画に出る前と出たあとで、茉愛羅さん自身が変わったことはありますか?

もっと表現をしていきたい、と思いました。女優だけじゃなくてもちろんフォトグラファーとしてもそうだし、作品を作る、って本当に楽しいことだなと改めて実感したんです。
大きな経験だったので、自分にとってもすごく自信になったし、ようやくこの映画を届けられることに、今はとても嬉しい気持ちです。
今年のクリスマス、年末年始は、お時間があれば映画館にお出かけいただけたら嬉しいです!

『エッシャー通りの赤いポスト』

劇場公開日:2021年12月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本・編集・音楽:園子温
出演: 藤丸千 黒河内りく モーガン茉愛羅 山岡竜弘 小西貴大
上地由真 縄田カノン 鈴木ふみ奈
藤田朋子 田口主将 諏訪太朗 渡辺哲 吹越満

鬼才カリスマ映画監督・小林正の新作オーディションに出演を狙う者たちが押し寄せた。興味本位で応募してきた者、夫の意志を継ぎ女優を目指す若き未亡人、「小林監督心中クラブ」のメンバー、浴衣姿の劇団員、やらせの有名女優、殺気立った訳ありの女…etc!? 一方、小林監督はエグゼクティブプロデューサーの無理な要望に苦悩し、シナリオ執筆もうまく進まない。そんなとき、昔の彼女が監督の目の前に現れるが……。

ⓒ2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会

Photo:酒井貴弘 Interview:藤井利佳

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