鹿野真里菜
写真家 1993年生まれ、兵庫県出身。神戸大学にて音楽を専攻、芸術を中心に学び、卒業後映画会社に就職。2018年にフィルムカメラでの撮影を始め、写真展やワークショップを開催。現在は独立し、アーティスト撮影やブランドのビジュアル撮影、ウェディングの前撮り等、多岐にわたり活動中。
愛用カメラ:Nikon F3、PENTAX SP、Canon EOS-1
愛用レンズ:Nikkor 55㎜F1.2、AI Nikkor 85㎜F2、Carl Zeiss Jena Pancolar 50mm F1.8
私の観たい景色
「お花屋さんLAURENCE.のmisaki watanabeさんと、お花の表情・質感を捉えた写真づくりをしようというのがきっかけで企画した撮影。女性らしいフォルム、曲線を生かした写真に。寄りの写真は、ピントの合う部分を薄く、あえてボケの多い曖昧なタッチで絵画のような写真をイメージしました」。
「テーマは”赤”。赤いドレスに合わせた赤メイク。まつ毛1本1本の赤に焦点を合わせ、黒目部分はピントが外れています。どアップなので表情は読み取れませんが、逆に語りかけてくるような目の奥に惹かれました」。
肌の温度や質感、なめらかさまで伝わる写真を求めて
昨年、個人でセレクトショップを始めたことをきっかけに、ものづくりの豊かな表現に触れ、多くのインスピレーションを受けているという鹿野さん。女性らしい繊細な肌の質感にこだわった作品が素敵です。
「肌や体のパーツを切り取った、寄りの写真を撮るときは特に光を意識しています。光の強さや方向や色で、肌の表情が変わります。身体の持つ温度感や湿度、なめらかさまで伝わるような写真になればいいなと思いながら撮っています」。
「デザイナーnanami氏によるランジェリーブランドsmiretureの撮影。シルクのなめらかさや艶やかさ、ふわっとした空気を纏うシャツの素材感。そして女性の持つ美しさ、しなやかさ、繊細さも写真におさめたいという気持ちで撮っていました。少し雨の降る曇りの日でしたが、窓からの湿度ある自然光が、しっとりとした重みをもたらしてくれました」。
「スタジオCASA/SIDRANにて撮影。ヴィンテージの家具の質感と曲線を生かしながら、モデルの青砥朱果さんの透明感のある可憐な手足を撮らせてもらいました。奥行きを持たせつつ、でも視線は指先のネイルに」。
シャッターを切る瞬間にすべてが決まっている
素肌を撮るときに特に気を付けていることは?
「撮影時から写真全体の完成図をイメージしておくこと。私の写真はすべてフィルムカメラによる撮影なので、大幅なレタッチをすることはありません。シャッターを切る瞬間にすべてが決まっている、といえば大袈裟かもしれませんが、撮影時のイメージは何より重要だと思っています。自分の中で理想の画づくりが固まっていればいるほど、撮ったときの気持ちをそのまま思い出せるような写真になっている気がします」。
私自身が空気のような存在であることが大切なんです
「hair salon LIANCAさんのビジュアル撮影。青い髪色と空の色をリンクさせ、海外で過ごす穏やかな休日のような空気感をイメージ。肌の透明感や髪の抜け感を大切に、かつ空を綺麗に写すことを意識して撮りました。撮影で大切にしているのは、ありのままで居てもらうこと。無理に笑顔をつくってもらうことはしません。私自身はできるだけ空気のような存在になる。そのときに、自然と湧いてくる感情、そこから出る仕草や表情、その人の美しさや個性を捉えられる写真家でいたいなと思っています」。
「着物スタイリング&ヘアメイクsoloの撮影。桜の枝をボケすぎないように前ボケに入れ構図をコントロール。右側には着物の差し色にもなっている緑を合わせて、陽は入りすぎないように調整。布にまとった柔らかい光で、優しい肌の質感を目指しました」。
「アクセサリーブランドmemento.の撮影。窓際に立ってもらったとき、窓からの光で輪郭が透けるようにぼやけ、舞い降りてきた天使を見つけたような気持ちで撮影していました」。
「”自分らしさ”を自分で見つけることは、とても難しいですよね。写真を始めて、自分の直感や惹かれる感情のままに撮影をしていくうち、撮影仲間やSNSでみてくださっている方々に”鹿野ちゃんらしい写真”と言われ、これって私らしいんだ、とハッとする経験をしました。それからは写真を言葉で説明することにはあまりとらわれず、風景やポートレートどちらであっても”私の観たい景色”をそのまま切り取るのが私らしさかな、というふうに思っています」。
Information
2021年に撮影の旅を通して出会ったアンティークやインテリア雑貨を集めたオンラインセレクトショップ『hora』をオープン。ジャンルを限らず、海外から集めた偏愛するアイテムを紹介。
GENIC vol.62 【表現者たちのファインダーのその先に、透明感を追い求めて】
Edit:Megumi Toyosawa
GENIC vol.62
テーマは「素肌と素顔を写す」。
人の美しさを大切に写しとった「素肌」と「素顔」の世界をお届けします。「性」ではなく「生」を感じる、神秘的で美しい森に迷い込んでしまったような写真たちと、そこにある撮り手の想いに迫ります。