東 京祐(あずま きょうすけ)
1989年生まれ、北海道歌志内市出身。
作家活動の他、女性のポートレートを中心にファッション、音楽などジャンルを問わず活動。
【BIOGRAPHY】
大学卒業後、約3年間スタジオ勤務
2015年 独立
2016年 写真展「family tree」開催
2020年 WEB マガジン「人色」を始める
人を撮るって、楽しい
一番、感情を揺さぶられる仕事は写真集
スタジオ時代に撮った作品
早く自分で撮りたかった、スタジオアシスタント時代
スタジオマンになって人の撮影を見ていても、正直楽しくなくて、やっぱり自分が撮りたいじゃないですか。街中で声をかけてポートレートを撮らせてもらってと毎日のように撮っていました。
アシスタントの頃はみんなそうだと思いますが、現場でカメラマンを見て、自分だったらもっといい写真が撮れるなとか考えることがあると思うけど(笑)、いざ自分がなると、どのカメラマンも皆さん上手だと思うようになる。それがすごく不思議で、写真の見方が変わるのかもしれない。カメラマンという肩書きで生活していくようになって、根拠のない自信がなくなりました。
上白石萌歌1st写真集『まばたき』(宝島社)(2020)
写真集の撮影で写真の本質を再確認
人を撮ることが好きなので、仕事として何に一番感情を揺さぶられるかというと、それは写真集。
スタッフと一緒に作るファッション撮影とは違って、被写体と1対1になることも多く、他力本願になれないことがカメラマンとしての責任を思い出させてくれるように思います。
初めての写真集撮影は台湾ロケ。初めましてだった萌歌さんのいろいろな魅力を撮るという難しさもありつつ、作品を成立させていくことが僕に合っていると思ったし、写真とは、という原点みたいなものをすごく感じました。
今その時しか残せない10代最後の時間を託してもらえたこともうれしくて、人を撮るって楽しいと改めて思わせてくれた作品です。
将来カメラマンになるなんて1mmも考えていなかった
写真展「family tree」
中学生の頃、バンドマンだったんですよ。その時、ライブ写真を記録用に撮らなくてはいけなくて。周りに写真を撮る友達がいなかったので、自分で撮ろうと思って店員さんに勧められたEOS Kissを買いました。
すごく写真がやりたくて、という気持ちではなかったけど、せっかくカメラがあるからと思って、一度同級生の女の子を撮影したら、ものすごく楽しくて。コミュニケーション能力が高くないので、カメラがあると女の子と二人で散歩できる、くらいの感覚でした。そこから「人を撮る」というのが始まった気がしますが、当時は写真で食べていこうなんてまったく考えていなかった。
地元が田舎だったので、親から絶対に東京に出るように言われていて、上京して、大学は法学部に入りました。
カメラマンを考えるようになったのは就職活動の時。音楽で食べていくのは難しいと思い、洋服も好きでアパレル会社は合格しましたが、人が作った服を販売するのはどうなんだろうと思い始めて、そういえば自分は写真を撮っているなと思ったんですよ。それでどうすればカメラマンになれるかをいろいろと調べて、アシスタントから独立という道があることを知り、都内のあらゆるスタジオに応募して、最初に合格をもらったところに入りました。
当時はスタジオによって色があることも知らなかったから。
毎日写真を撮って、たくさんの人に見せることが 写真家になるための一番の近道
山田杏奈セカンド写真集『BLUE』(東京ニュース通信社)(2021)
セブンネット限定の表紙
アシスタントの頃はしんどかったけど、振り返ればいろいろなカメラマンさんがいて、勉強になりました。僕はアラーキー(荒木経惟)さんの撮影によく入っていたので、ああはなれないけど素敵だなと思って、同じカメラ(PENTAX67)も買ったし、いろいろな影響を受けました。これぞ写真という現場を見ることができたと思います。スタジオ時代は好きなものをひたすら撮って、ひたすら見せる場を作っていました。
学生の頃から展示はやっていましたが、とにかくいっぱい写真展をやったことで世間に知ってもらえた気がします。
雑誌の関係者が見に来てくれて、仕事を依頼されるようになりました。ちょうどSNSがブームになって若手カメラマンが流行った時期で、その流れに乗っかった感じだと思います。
師匠について独立するのが主流だった頃に比べると、時代もよかったのかもしれない。デビュー当初は1週間700円で暮らしていた時期もありましたが、心の中で小さな目標を作って、ひとつひとつクリアしてきました。
スランプはないですね。毎回もっとこう撮ればよかったみたいな後悔はありますが、撮れないというのはない。ほかの人に比べたら、そこまで自分の写真に対して理想がないからかもしれないけど、これが今の自分なんだって。切り替えていかないと、世の中には素敵なカメラマンさんがいっぱいいるから、悩んでいるより写真を撮ろうといつも思います。
純粋に撮る喜びを共有するWEBマガジン「人色」
「人色」片平里菜(2022.3)
「人色」は最初の2年間はデジタルで、今年からフィルムで撮っています。デジタルだから、フィルムだから、というのは個人的にはまったくなくて、時期によって自分の中でブームがあるくらいですが、今年1年の「人色」のテーマが"親近感"なので、手法としてフィルムのほうが合うかなと。デジタルの大きなカメラより、フィルムのカメラのほうが相手に親近感を持ってもらいやすいんですよね。
撮りたいから、撮る目的を作っている
「人色」石川瑠華(2022.2)
「人色」桜田ひより(2020.10)
素敵なモデルさんがいて、いつか撮りたいと思っても、待っているだけではご縁は回ってこないので、仕事ではなく撮影をお願いできないかなと。その子が素敵だということをただ見せるだけのWEB上の写真集を作りたいと思って、周りの人の協力を得て始めました。単純に写真を撮りたい、と思ったのがきっかけなので、タイアップみたいなことは一切なし。すべて自腹で、許可もアポも自分でとっています。
今年で3年目ですが、「人色」をやっているから僕のことを知ってくれた人もいて、認知されてきた感じがあり、お声がけするとむしろ光栄ですと言ってもらえることも。気持ち程度の出演料で申し訳ないけれど、興味がある方だけに出ていただいているので、自分も写真をやっているという被写体の方も多く、写真を撮る喜びを共有できる媒体にできたらいいのかなと思っています。ある意味プライベートの作品撮りに近いですね。
僕は自分の日常に興味がないのか、目的がないと撮る姿勢にならなくて。日頃からカメラを持ち歩いて、おもしろい出来事があるかもしれないとアンテナを張る感覚より、撮りたいから目的を作っている感じで、人を撮りたいから、目的を作ったのが「人色」です。いつかこれを本にしたり、写真展をしたりできるようにと考えています。
僕が何かを表現できる手段は写真しかないから。あと、これ以上かっこいい仕事を僕は知らない
「人色」小西桜子(2021.12)
人を撮る時は、ブツもそうですが、被写体をよく見ること。相手のことをよく見ようとする気持ちを大切にしています。
撮る時は被写体とはほとんど話しません。でも撮っていると気持ちで会話できているように勝手に感じています。
もちろんうまくいかないこともあるけれど、写真を撮るのを諦めない。
僕ひとりではないことを思い出して、周りのスタッフの皆さんの力を存分に借ります。みんな一緒に力を合わせて、ひとつのものを作っていく仲間なので。
いいね!を押すくらいの感じ"いいな"を感じてもらえたら
RECENT WORKS
「人を撮る」をメインに、幅広い年齢層の雑誌やカタログのファッション撮影やタレントのポートレート撮影を手がけている。
倉科カナさん主演の舞台「木漏れ日に泳ぐ魚」のポスター
板谷由夏さんがモデルの『HERS2022年夏号』(光文社)の表紙
写真を撮るという「行為」は楽しさ以外の何物でもないですが、仕事となれば一概に楽しいとは言い切れなくて。どんなことも自分が好きなことを仕事にすると、楽しい以外のことが大半を占めるじゃないですか。
撮影も自分ひとりだけで完成されるものではないから、たとえばこういう風に撮ってほしいみたいな要望があった時、最初はそれが辛いこともありました。でも今はだいぶ、どんな仕事でも写真を撮る喜びを感じられるようになってきている気がします。
昔なら絶対に受けていないような仕事にも挑戦していて、それがむしろすごく楽しい。今まで経験してこなかった案件を自分の写真でどう表現できるかという興味もあるし、新たな自分の一面を見られて、スキルアップに繋がることもあります。デビュー当時は自分の写真はこうであるべきだ、こういうのしか撮りたくない、ととがっていましたが、本当はこだわりなんてなかったんだと思います。あると思っていただけで。
この仕事がなぜ僕に?と思う時も、いただいた理由を考えて、それをうまく料理するのも楽しいのかなって、経験を重ねていくうちに、そういうスタンスになってきました。
僕は人の心を動かすような大それたことをしているつもりはなくて、SNSでいいねを押すくらいの感じで、ちょっとした”いいな”の感覚を持ってもらえたらと思っています。僕の撮った写真も、撮った人も洋服も…自分がこういうのっていいよねと思っていることを、より多くの人に共有できたらいいですね。
GENIC vol.64【写真家たちの履歴書】
GENIC vol.64
GENIC10月号のテーマは「写真と人生」。
誰かの人生を知ると、自分の人生のヒントになる。憧れの写真家たちのヒストリーや表現に触れることは、写真との新たな向き合い方を見つけることにもつながります。たくさんの勇気とドラマが詰まった「写真と歩む、それぞれの人生」。すべての人が自分らしく生きられますように。Live your Life.