最初の相棒と出会ったときのこと/ぽんずのみちくさ Vol.24
初めてカメラを買おうと決めたとき、私は19才だった。
スマホもSNSもない頃だったので、カメラを買うにあたり、情報を集めるには店員さんの話を聞くほかになかった。今までは指をくわえて眺めるだけだったけど、今日は勇気を出して話を聞こう。そう決心し、博多駅前の家電量販店に向かった。
売り場には、大小さまざまなカメラが並んでいる。黒々としたエリアの中で、カメラのくせにピンクやホワイトで彩られたド派手な商品が目に止まった。私はこういう見た目に頼ったチャラチャラした軟派な商品が嫌いだった。カメラなんだから、見た目じゃなくて機能で勝負すればいいのに。冷ややかに一瞥して、声をかけられそうな店員さんを探す。
正直なところ、すこし不安だった。話しかけたところで、店員さんはまともに相手をしてくれるのだろうか。知りたいことを教えてくれるだろうか。「若い女性にはこれが人気ですよ〜〜」なんて、押しつけられたら、やだな。
一握りの勇気を出して店員らしき男性に声をかけ、初めてのカメラを買おうと思っていること、末長い趣味にしたいこと、旅行に持っていきたいことなどを話した。
いざ話してみたら、私の心配は杞憂にすぎなかった。相手はプロだ。一つひとつ、疑問がクリアになっていく。メーカー、機能、価格、デザイン。今まで全部一緒くたでごちゃごちゃして見えたカメラ売り場が、だんだん秩序だって見えてくる。
「一晩考えて、また来ます」お礼とともにそう伝えて帰ったけど、心の中ではもう決めていた。納得いくまで話を聞いた結果、私の理想にもっとも近い機種は、最初に売り場で苦手だと思ったあのカラフルなシリーズだと知ったのだ。「見た目だけ」なんて思い込んでいたそのシリーズは、機能も十分、いや、値段から考えたら十二分なくらい、素晴らしい製品だった。
記念すべきファーストカメラは白と黒のツートンカラーで、パンダみたいな見た目をしていた。私が「チャラチャラしてる」と決めつけたそのファンシーな外見は、その後、行く先々で褒められた。向かい側から歩いてきた人が足を止めて「ジャパンのカメラなの?超クールじゃん!」と惚れ惚れして去っていくこともあった。
「若い女性」とひとくくりにされるのを嫌っていたはずなのに、中身をろくすっぽ知る前に見た目で判断していたのは自分だった。あの日、懇切丁寧に教えてくれた店員さんには今も感謝している。
ぽんず(片渕ゆり)
1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。