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【わが街の道の上で:1】八木香保里<東京・戸越>

玄関のドアをあければ、そこは被写体の宝庫。毎日通る道、慣れ親しんだ場所。そこには、自分の視点だからこそ写し出せる「何か」がきっとある。地元フォトグラファーの写真から、ファインダーを通して自分の街を愛する方法を学びます。
1人目は、品川区戸越を生活の拠点とし活動している写真家、八木香保里さんです。

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八木香保里

写真家 1974年生まれ、京都府出身、東京都品川区在住24年。教育産業に従事後、東京への引っ越しをきっかけに「知らない街を知るために」と写真を撮りはじめる。現在は生活の拠点である品川区戸越と実家のある京都市で撮影し制作を続けている。
愛用カメラ:ARAX-60 MLU、PENTACON Six TL、Hasselblad 500 C/M
愛用レンズ:Carl Zeiss Jena Biometar MC 80mm/f2.8、Carl Zeiss T* Planar 80mm/f2.8

わたしにとっての「戸越」

「都会に不慣れだった私に“東京にもこんな所があるんだ”と安心させてくれた場所。“東京の人は冷たい”という乱暴なステレオタイプの想像を壊してくれました。とにかく優しい人が多くて、優しさに触れる光景に出合うことがたくさんあります」。

とごしとわたし

「よく歩く通りで見かける子。戸越銀座の写真屋さんでこの一枚を展示したら『この子、知ってる!』とお客さまから何度も声をかけられました。街のみんなに愛されてるみたいです」。

「スーパーへ行く途中に通る理髪店。緑と赤のコントラスト、花の点と建物の線の組み合わせは初夏のお楽しみ。スクエアのファインダーにぴったり収まる店構えがお気に入り。撮影中に、通りがかりの人が不思議そうに私を見たあと、お店を見て『なるほど』と言って去って行きました」。

何度も行き来している場所でも、私にはいつも同じには見えてない

「商店街のキャラクター、戸越銀次郎(通称:銀ちゃん)が店内でお留守番中のパン屋のハリマヤさん。行きかう人たちをこっそり眺めている様子が愛らしかった」。

「商店街はその表情が一日に何度も変わります。これは晴れた昼下がりに光が綺麗だったので直感を頼りにシャッターを切ったもの。普段の街の様子がよく表れていると思っています」。

24年前に戸越へ引っ越してから本格的に写真を撮るようになったという八木さん。道に迷わないよう目印になるものを撮影したことがきっかけだそう。「譲り受けたカメラで自宅の近くを撮るうちに、身近な光景を写真に残すことに興味をもちライフワークになりました。街と一体となるような植物のある風景が好きでよく撮りますが、被写体に関してはコレと決めず“いつもの戸越”をテーマに撮影しています。生活していると些細な変化にも敏感になるのか、同じ場所で繰り返し撮っていても苦になりません。何度も行き来している場所であっても、いつも同じには見えてないみたいです」。

レンズ越しに何度も出会ってきた。人の優しさが溢れる街

「戸越には写真に興味がある人が多いと感じています。なに撮ってるの?と声をかけられることもあります。『それ、とっても良いレンズだから大切にしてね!』と初対面のお爺ちゃんに言われたことがありました。よく見ると、私が以前撮った桜の写真に写る人でした。偶然の出会いに驚き!」

戸越の撮影ではフィルムカメラを使っていて、中判のウエストレベルで撮っています。一つの風景を撮る回数はたいてい一度。ファインダーを覗いても納得がいかなければ撮りません。フィルムの現像やデータ作成などは戸越銀座商店街にあるフォトカノンさんにお願いしています。戸越の街の色合いや雰囲気を体感しているスタッフさんに手がけていただくことも、制作過程の大切な一つと考えているからです。戸越は本当に優しい街。住みはじめた頃よりも今のほうがその気持ちが強いのは、レンズ越しに、人の優しさや心の内を知れる光景に何度も出合ってきたからだと思います」。

落とし物はたいてい目立つように、そして絵になるように置かれている

「探しに来た人が気づくように、かつ楽しそうな雰囲気も忘れずに。優しさに遊び心があります。自分が落とし物をしたときこんな風に見つけたら嬉しいだろうな...と想像しながら撮ることが多いです」。

Information

2022年12月9日より「フォトカノン戸越銀座店」のギャラリーにて写真展を開催予定。

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GENIC vol.63 【わが街の道の上で】

GENIC vol.63

GENIC7月号のテーマは「Street Photography」。
ただの一瞬だって同じシーンはやってこない。切り取るのは瞬間の物語。人々の息吹を感じる雑踏、昨日の余韻が薫る路地、光と影が落としたアート、行き交う人が生み出すドラマ…。想像力を掻き立てるストリートフォトグラフィーと、撮り手の想いをお届けします。

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