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生き物としてのホテル/龍崎翔子のクリップボード Vol.38

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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生き物としてのホテル/龍崎翔子のクリップボード Vol.38

「釜の扉を開けると、パンが光って見えることがある。それは年に1回あるかないかだけど、たしかにそんな日があるんだ」
2月のはじめ取材旅行で行った沖縄で出会ったパン屋を営む主人がそう言った時、私は彼の言わんとしていることがなんとなく分かった気がした。
ホテルを営んでいて、時に空間全体が生き生きと輝いているような不思議な高揚感に包まれることがある。それは、イベントのような非日常の時もあるし、何もない日に訪れることもある。ただ、肌で明らかにいつもとは違う気配を感じながら、この空間が生き物であることを実感する。

素敵な空間に足を踏み入れた時、その凛とした佇まいや穏やかに流れる時間に心が溶かされるように感じることがある。場を支配する空気感は、おそらくその場にいる人や共同体のもつ人格から発せられてるんだろうけど、それが一体何なのかは私自身まだよく分からない。
人間は当然生き物なんだけど、人と人の関係性もまた生き物のようだと思う。初めは距離があって、やがて打ち解けて、そして小慣れていく。その瞬間には分からないけど、少しずつ刺激に呼応して、長い時間軸で見れば関係性は生き物のように育まれていく。

そのホテルで働く人々が、時に入れ替わりながら、関係性を育てていく。その共同体の文化や空気感が滲んだ空間に、ひとりふたりとゲストがやってきて、その人の纏った空気感とぶつかり溶け合いながら、ひと時の共同体の空気を形成する。そんな営みがホテルでは絶えず行われ続けて、やがて空間に独自の空気が堆積していく。

このプロセスは私にとってまだ研究途中で、再現性をもたせることはできないし、むしろそう望むことすらナンセンスなのかもしれない。ただそこにあるのはホテルを生き物として捉え、愛情を注ぎ育むことなのかなと最近は思っている。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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