髙木美佑
写真家 1991年生まれ、兵庫県出身。高校の写真部でカメラに目覚め、日本大学芸術学部写真学科へ入学。スタジオ勤務後、留学を経てフリーランスに。https://www.takakimiyu.com、https://takakimiyu.theshop.jp
愛用カメラ:Nikon Z 7、 Nikon FM2、PENTAX 645NII、Konica現場監督など
愛用レンズ:Nikonのカメラには、デジタルでもフィルムでも使えるDレンズを愛用
自己の探求
someone’s glasses(2021)
「眼鏡は身体の一部という言葉があります。では、誰かの眼鏡をかけることは、他者の身体の一部を一時的に取り込んでしまうことなのか?友人の眼鏡を借りたり、フリマアプリなどで購入したりして集めた他人の眼鏡をかけて撮った作品です。焦点が合わなかったり頭が痛くなったり...眼鏡が自分の身体に合わず拒絶することなどで、他者との関係を考えました」。
私にとってセルフポートレートとは宝箱であり、棺桶のようなもの
「“自己の探究”が大きなテーマの作品制作として、セルフポートレートを撮っています。なにか自分の中でルールを決めて撮り始め、それが小さなきっかけだったとしても、数が集まると記録資料のようになります。作品としてセルフポートレートを撮り始めたのは、二十歳の誕生日がきっかけ。二十歳=大人になることが本当に嫌で、二十歳になるまでの100日間を撮影しました。仕上がった写真には本当につまらない日常ばかりが写っていて、自分の十代がこんなものだったのか、とひどくがっかりしたのを覚えています。それが悔しく、煙草を吸ったりビールを飲んだり、自分がイメージする“大人”の行為を体験する様子をセルフポートレートで撮りました。
今では人生の節目や、なにか自分の中でのきっかけやアイディアがある際にセルフポートレートを撮ります。また、旅先などで撮影する場合は、単なる風景などの写真よりも自分の感情が露骨に表れてくるセルフポートレートのほうが、あとで見返した際にその時の状況を鮮明に思い出せます。私にとってセルフポートレートとは、宝箱か棺桶。大切な宝物を集めたようなものであり、また、どうしようもない感情を自分の中で昇華していくための弔いの行為であったりします」。
自叙伝(2016-2019)
「高校時代の歴史の教科書の挿絵部分に私自身の写真を貼り、複写しました。幼い頃は自分も歴史に残るような偉大な人物になり得ると思っていましたが、年齢を重ねるにつれて、そんな特別な人間ではないのだと気付きました。教科書に載るという夢を、せめて自分の中だけで叶えるための作品」。
きっと誰も好きじゃない(2020)
「出会い系アプリを通じて男性と知り合い、別れ際に男性にカメラを渡して私自身のポートレートを撮ってもらいました。私のセルフポートレート作品には、私自身がシャッターを切っていない写真が含まれることもあります。ここでは見知らぬ他者と過ごした自分、また、他者から見た自分を探ってみました」。
snack food collection(2016-)
「珍しい味や期間限定のポテトチップスを食べることが好きで、記録として写真を撮りためています。他にTシャツが50枚集まった記念に、一斉に50枚分を着て撮影した作品などもあります」。
しょーもない私の十代が終わりました(2012)
「私にとって大人になるということは悪であり、恐怖でした。どうにかして自分の十代を記憶に残そうと、二十歳になるまでの100日間を1日フィルム1本で撮り、誕生日に自分のイメージする大人を体験した写真を撮影。セルフポートレートを撮るきっかけになった作品です」。
GENIC vol.62 【大切な「あの人」のすがお】
Edit:Satoko Takeda
GENIC vol.62
テーマは「素肌と素顔を写す」。
人の美しさを大切に写しとった「素肌」と「素顔」の世界をお届けします。「性」ではなく「生」を感じる、神秘的で美しい森に迷い込んでしまったような写真たちと、そこにある撮り手の想いに迫ります。