アスパラ
会社員・壁を撮る人 長崎県出身。2020年5月Twitterに「#壁を撮る人」というハッシュタグを用いて、壁の写真の投稿を開始。同年12月には初の写真集「壁を撮る人」を発売。会社員として働きながら、休日はカメラを片手にお散歩している。
愛用カメラ:Canon PowerShot SX720 HS、OLYMPUS OM-D E-M1 Mark Ⅲ
愛用レンズ: M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
現実逃避
心地良さと少しの違和感を楽しんでもらいたい
「これは、昼間のビルと夜の月の写真を重ね合わせています。本来きれいな青空だったのですが、夜独特の吸い込まれそうな暗闇と混ざり合うことで、濁りのある空に変化しました。異世界で見る空はこんな感じなのではないか。と、この写真を見るたびにゾクゾクします」。
要素は3つまで。それを超えると情報がこぼれてしまうから
カメラを始めたばかりの写真を見返すと、当初からミニマル好きの面影があったというアスパラさん。
「私が撮っている写真のほとんどには、人物が写っていません。それは人そのものよりも、人が残していったもの、あるいは、遺していったものに興味が湧いてしまうから。さらに視野を狭めれば、一見なんてことない誰しもが目にする建物の壁には、無数の感情が存在していて、その壁に感情を投影させて間接的に人物を撮影していると思っています」。
「階段と奥に見える濃い茶色の手すりの組み合わせが面白くて撮影。このアパートと戦闘をすることになったら、きっとこのブルーの部分が弱点だろうな。なんて非現実的なことを想像しながらレタッチしました」。
「真ん中にある筒状の照明と三角にくり抜かれた壁が不思議な雰囲気を醸し出しています」。
断片的でありながら、確かに見た日常の記憶
「私にとってミニマル写真とは“現実逃避”。確かに現実の世界を歩いて目の前にあるものを撮っているのですが、レタッチ後の写真は、非現実的なものに見えます。今置かれている状況から完全に目を背けるのではなく、ミニマルな世界に一歩逃避する。そこから見た現実は自分が思っているよりも繊細で、キラキラとしているんです」。
「平面的でありながら、影を注視すれば立体的にも見える。規則的でありながら、右端の反射を取り入れることで不規則な状態を作り上げる。さまざまな要素が点在しているにもかかわらず、ミニマルな印象を与えることが出来た一枚」。
「レタッチの段階で建物に映っている電線の影が得体の知れない生物の触覚、もしくは、手足に見えるなと気づき、ざわついた感情をそのまま空の色に反映」。
「壁の縦軸、階段の横軸、芝生の湾曲、それらが絶妙にマッチし、絵画のように見えました」。
「特徴的な建物と、道路標識の組み合わせ。均等に並んだ無数の窓を別世界に通じる部屋に見立てて、標識の中にいる人物がどこの部屋に入ろうか、と歩き回っている様子をイメージ」。
GENIC VOL.60 【ミニマルに切り取る日常】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC VOL.60
特集は「とある私の日常写真」。
当たり前のようでかけがえがなく、同じ瞬間は二度とないからこそ留めておきたい日常を、表現者たちはどう切り取るのか。フォトグラファーが、クリエイターが、私たちが、それぞれの視点で捉えた日常写真と表現、そしてその想いに迫ります。