石川卓磨
1979年千葉県生まれ 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース卒業
主な個展に、「世界と孤独vol.2 石川卓磨」(2012年、東京)、「教えと伝わり」(2016年、東京)、高橋耕平企画:ALLNIGHT HAPS 2017 後期「接触の運用」(2017年、京都)、「小説の中の私」(2019年、東京)など。
社会的なナラティブと結びつく作品シリーズ
これまで、写真や映像における事実と虚構、記録と表現の狭間にある、メディアそのものが孕む批評性を捉えながら制作し、作品化してきた石川卓馬。映画や古典絵画の成り立ちを想起させる写真や、近年はとくに連続写真を映像の一コマのフレームとして繋いだ映像作品などを発表、新型コロナウィルスのパンデミックが発生した2020年以降、その制作を写真作品へと回帰させています。コロナ禍での行動や意識の変容によって、あらためて生活と制作の関係を見直したといい、「写真」というメディアの持つ、持続的な時間や思考を断片化する覚書のような特性が、どのような作用を自身にもたらすのか、あるいは美術においてどのように有効となるかを再考しています。
本展は「悲劇と色彩」と題され、個人的な生活圏にある被写体を用いたイメージを扱いながら、その視覚作用や寓意の組み立てによって、社会的なナラティブと結びつく新たな作品シリーズを主軸に構成されてます。
「イメージとは本質的に非現実的である。この点にこそイメージの力はある。つまり、内容に実体を与えることに対する抵抗においてである。受肉とは肉を与えることであって、身体を与えることではない。受肉において物は不在なのだ。」— マリ=ジョゼ・モンザン
1
悲劇はそれぞれに固有の色彩を持っている。それらは、暗いモノクロームとは限らない。苛烈さが悲劇に彩度を与えることがあり、甘ったるいキャンディーカラーの中に冷たい悲劇が存在することもある。モノクロームに感じる方が稀かもしれない。どんなに美しい風景の中にも悲劇が存在するように、また、悲劇には人間の実存が含まれているように、それぞれに個別の色彩を持っている。
2
新型コロナウイルスのパンデミックによって、世界はひっくり返ったように麻痺し、多くの人が毎日亡くなり、行動や外出を制限され、暗く閉ざされていた。あの時期に、もうこれ以上深刻になることは耐えられない、と思った瞬間がある。だから色彩は必要だった。悲劇に色彩を与えることは、世界の深刻さを感受することであり、同時にその世界から逃避することでもある。
そしてもう一度、写真作品の制作に戻ろうと思った。芸術としての写真は、すでに見放されたように取り残された場所にある。そのことは、呼吸するように制作できる条件になっていた。
3
世界はゴシップから深刻なニュースまで、悲劇で溢れかえっている。新たな戦争や災害、差別から引き起こされる事件などが毎日SNSのタイムラインに流れてくる。ぼくの写真は世界のニュースを伝えてはいないし、何らかの行動を促してもいない。制作者としての自分は、何かの当事者になることはないし、どこかに赴くこともない。それは被害者ではなく、特権であることだ。ただ、世界中のニュースや、それと切り離すことのできないアテンション・エコノミーは、制作に明らかな影響を与えている。だから、心の中にさまざまなニュースが飛び込んでくる日常の中で、写真制作を媒介として感じる自分の受動性を観察することにした。
4
悲劇と色彩の問題は、バーネット・ニューマンやマーク・ロスコなどの抽象表現主義の画家たちが主題とした。特にロスコと色彩について想像する。けれどもぼくの作品は、彼らのような崇高や英雄的な身振りとは程遠い。ぼくの受動性は、多動的で軽くて小さい。
石川卓磨
石川卓磨 個展「悲劇と色彩」情報
開催日時
2024年3月2日(土)〜3月24日(日)11:00 〜 19:00
休廊日:月曜、火曜、祝日
入場料
無料
会場
TALION GALLERY(タリオンギャラリー)
〒171-0031 東京都豊島区目白2-2-1 B1
行き方・アクセス
<電車>
JR山手線「目白駅」から徒歩で6分
東京メトロ副都心線「雑司ヶ谷駅」から徒歩で2分
- 【お問い合わせ先】
- TALION GALLERY
- taliongallery.com