【表現者たちが撮るおいしい写真 #2】川口葉子

誰かと何かを食べる時、そこには五感で感じる交流が生まれる。
一人で何かを食べる時、気がつけばその時間までもがとっておきになっている。だから、「おいしい」の解釈は面白い。
「表現者たちが撮るおいしい写真」#2では、文筆家・喫茶写真家である川口葉子さんの思う「おいしい写真」を見せてもらいました。

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川口葉子

文筆家・喫茶写真家 大学卒業後、企業に就職。会社員だった2001年に初の著書を出版し退職、フリーライターとして活動を始める。現在に到るまで20 以上の著書の文章と写真を自ら手掛けている。柴田書店「café-sweets」誌で写真つきコラムを連載中。
愛用カメラ:SONY α 7R Ⅲ
愛用レンズ:SIGMA 50mm F1.4 DG HSM

作り手や空間の魅力が生み出す カフェのおいしい

カフェスペースが併設された名古屋のライフスタイルショップ「NODE」。
「カフェのフード写真はいつもスタイリングせず、ほぼそのまま撮影。選択するのはカップやお皿をどこに置くかだけです。このお店はテーブルの上にも店主の美意識が反映されているので、主役のコーヒー&カヌレと共にそのスタイリッシュさを写しとりたいと思いました。こだわりはキャンドルや花の絶妙なボケ具合」。

“「カフェのおいしい」を構成しているのは そのときの自分を包み込む世界全体”

毎年訪れていた伊豆大島のカフェが突然閉店したことから、愛するカフェのはかなさを痛感し、記録に残しておかなければと焦りを感じたという川口さん。
「私が写真を撮る目的は一貫してカフェや喫茶店を記録し、その魅力を伝えること。写真は変貌しつづける街の喫茶空間の記録です。それに文章を組み合わせ、コーヒーとお菓子のように共鳴させて、ひとつの世界を作っています。喫茶店もカフェも本質的には同じもので、どちらも街角にコーヒー一杯分の憩いを提供する自由な空間。レトロであれ現代的であれ、そこに座っているだけで店主の世界観やお店に込めた愛情、街に貢献したいという志などが自然に伝わってくるようなお店に惹かれますね」。

沖縄本島に残る古い外国人住宅を改修したベーカリーカフェ「PLOUGHMANS LUNCH BAKERY」。
「ここは植物の匂いの中にパンを焼く香りが漂う楽園。ドアや窓ガラスに映るガジュマルの木、壁をはうツタなど、緑のみずみずしさとカフェの扉を開ける期待感を伝えたいと思いました」。

名古屋の喫茶店「musico」。
「落ち着いた空気とドイツ製の柱時計が打つ鐘の音色が素晴らしいお店。店主が厨房でコーヒーをネルドリップしているシーンは、おいしい一杯を生み出すための正確で手抜きのない作業を記録したいという思いで撮影。たちのぼる湯気を強調するため、背景に暗い壁がくる位置を探しました」。

店内に漂う幸福な成分を ちょっと持ち帰れるような気持ちに

そんな川口さんの写真のインスピレーションは湯気から。
「コーヒーをドリップするときにたちのぼる湯気は、臨場感と香り、気温や湿度を伝えてくれます。人間は舌と鼻の情報だけからおいしい体験をしているわけではないんですよね。目の前にあるコーヒーとスイーツのほか、空間やうつわ、音楽、店主の言葉、隣にいる人、自分の精神状態など、そのとき自分を包みこんでいる世界全体が”カフェのおいしい”を構成していると考えています。私が”おいしい”を表現できたと感じるのは、たとえフードやドリンクだけを切り取った写真でも、その匂いや温度、カフェ全体の空気感や時間帯、季節などを豊かに想像させるものが撮れたとき。店内に漂う幸福な成分をちょっと持ち帰れるような気がするのです。そして、その写真を目にした人に、このカフェに行ってみたいと思っていただけたら最高です」。

福島にある海辺の町の人気カフェ「ウミネコ商店」。
「バラ色のベーコンの一糸乱れぬ連なり、キャロットラペの細かさなどに感嘆。連続して並べることで”萌え断”とも呼ばれる断面の美しさと迫力が増しました」。

スペシャルティコーヒーを焙煎・販売する高円寺のロースタリー&カフェ「JULES VERNE COFFEE」。
「旬の果実を挟んだフルーツサンドの完璧な断面、ナイフの切れ味や作り手の技術がうかがえる鋭角的なパンの角を見せたくて、いくつかアングルを試した中の一枚」。

カフェを併設する福岡の人気ベーカリー「アマムダコタン」。
「架空の国のパン屋さんに紛れ込んだかのような世界観をトータルで構築した空間が魅力。天井から下がる大量のドライフラワーが圧巻です」。

オリジナルのおしゃれなノートが作れる名古屋のショップ「NO DETAIL IS SMALL」の小さなカフェスペース。
「きりっと冷えた炭酸水にエスプレッソを注いだ、爽快なエスプレッソトニック。グラスに注がれて広がり始めるコーヒー液の動きの面白さや炭酸の泡をとらえるために、明るい窓を背景にして撮影」。

川口葉子 Twitter
川口葉子 Instagram

INFO

『喫茶人かく語りき』(実業之日本社)、『京都 古民家カフェ日和』(世界文化社)を出版予定。

GENIC VOL.58 【表現者たちが撮るおいしい写真】
Edit:Yuka Higuchi

GENIC VOL.58

テーマは「おいしい写真」。
口福を感じる料理やスイーツとの出会い、オリジナリティ溢れるフードの創作、こんなシーンには二度とお目にかかれないかもと思った瞬間。様々な表現者たちが繰り広げる “おいしい” の世界を召し上がれ。

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