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風土を食べる/龍崎翔子のクリップボード Vol.40

龍崎翔子<連載コラム>第2木曜日更新
HOTEL SHE, OSAKA、
HOTEL SHE, KYOTOなど
25歳にして5つのホテルを経営する
ホテルプロデューサー龍崎翔子が
ホテルの構想へ着地するまでを公開!

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風土を食べる/龍崎翔子のクリップボード Vol.40

埼玉のスーパーマーケットで、『その辺の草の天ぷら』というお惣菜が売られていたというニュースを見て、いいなと思った。私たちはいつの間にか、畑で育ちスーパーで売られている食材しか食べられない呪いにかかっていたみたいだった。世の中にあるほとんどの植物は(美味しいかは別として)口に入れれば食べることができて、その土地その時だからこその味わいがあることを、団地のつつじの花の蜜を吸って過ごしていた頃の私は当たり前に知っていたはずだったのに、大人になるにつれて忘れてしまっていた。

層雲峡のHOTEL KUMOIでよもぎ蒸しをしているという話の流れで、地元のよもぎ農家によもぎを卸してほしい、と地域の方に相談したら、よもぎなんてその辺にいっぱい生えているよ、と言われた。改めてあたりを見渡すと、森の茂みいっぱいによもぎが生えていた。それまで、ただのその辺の草としか思っていなかった。

小笠原諸島で泊まった宿は、左官仕上げの真っ白な壁の一輪挿しにしおらしい草花が活けられていた。素敵ですね、とスタッフの方に声をかけると、庭に生えている雑草です、とのことだった。この島に住んでいる人からすると、この草花は幼い頃から何度も目にした光景で、ありふれた路傍の草でしかないのだろう。でも、初めてこの島に訪れた私にとって、それは屋内空間で風土を感じさせる瞬間だった。そして、それは花屋から卸された美しい花ではきっと醸し出せない情緒なのだろう。

沖縄の養蜂農家に取材に伺った時は、だだっ広い原っぱで蜜蜂を探すところから取材が始まった。ぱっと見ではどこにも虫の気配はない、雑草の生い茂る空き地。2~3分かけて目を凝らすと、ようやく蜜蜂が花から花へと飛び回っているのが見えるようになってきた。近づいてよく見ると、蜂の足元には花粉と同じ色の塊がくっついている。巣箱から半径2km。この空間を縦横無尽に飛び、その時咲いている花の花粉と蜜を集め回り、やがて巣箱に持ち帰る。巣箱には蜂の足元についていた色とりどりの花粉の塊(ビーポーレン)が集められていて、時期によって咲く花が変われば色合いもまた変わるのだという。ハチミツも、ビーポーレンも、その時巣箱から半径2km圏内の自然をギュッと凝縮したものだった。私たちが食べていたハチミツは、名前も知らないその辺の花の味だった。

冬が終わり、暖かな陽射しがキラつく時期になると、北海道の白樺は大地に染み込んだ雪解け水を吸い上げて、この1ヶ月だけ樹液が甘くなるのだという。3月末になると、白樺の木に穴を開け、そこに管を通すと樹液がポタポタ落ちてくる。これを集めてコーヒーを淹れたり、鍋の割り下にしたり、あるいは化粧水にしたりするのだという。

私たちはインターネットの時代に生まれ、物心ついた時にはamazonと楽天で世界中から欲しいものを手に入れることができた。いつしか、それに私たちの行動が制限されていた。

でも、私たちは自然を食べることができる。その辺の草花を愛でることができる。そして、ようやく気づく、それこそが最大のローカリティなのだと。

龍崎翔子

2015年、大学1年生の頃に母とL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を立ち上げる。「ソーシャルホテル」をコンセプトに、北海道・富良野に『petit-hotel #MELON』をはじめとし、大阪・弁天町に『HOTEL SHE, OSAKA』、北海道・層雲峡で『HOTEL KUMOI』など、全国で計5軒をプロデュース。京都・九条にある『HOTEL SHE, KYOTO』はコンセプトを一新し、2019年3月21日にリニューアルオープン。

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