<おれんじ鉄道に揺られて>GENIC編集長 藤井利佳
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「おれんじ鉄道」
その名前を初めて聞いたとき、わたしはすぐに質問した。
「それは愛称?」
本名だった。まさか!そんな可愛い名前の鉄道が日本に存在しているなんて。
そして自分が知らなかったなんて。
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さまざまな柑橘のお出迎え
「肥薩おれんじ鉄道」は28駅を有し、熊本(八代駅)と鹿児島(川内駅)間の116.9キロを走る九州のローカル線。
旧国名の「肥後」と「薩摩」で肥薩(ひさつ)。そしてこのエリアが柑橘類の産地であることから、「おれんじ」と名づけられたのだそう。
実際に、私が行った12月には、行く先々でニッコリと微笑むようにさまざまな柑橘が迎えてくれた。
ホームでも、駅前でも、お風呂でも。
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目の前一面がオレンジ色をした柑橘畑、なんていうシーンにも出会った。
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世界最大級の柑橘類と言われる「晩白柚(ばんぺいゆ)」、色が濃くつやつやとした「紅みかん」、農家さんの名前付きで道の駅に並べられている「金峰みかん」。
温暖な気候が、さまざまな柑橘を育ててくれる。
なんて豊かな土地なんだろう。
搾りたての愛
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暖かな土地で育つのは、柑橘類だけじゃない。
どこで出会う人々も、東京からやってきた私たちを包んでくれるように、癒してくれるように、静かにあたたかく迎え入れてくれた。
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「こんにちは」
撮影中に、水俣駅で声をかけてくれたひとりの少年。地元の中学生だという彼は、2種類の旗を手に持っていた。
彼との出会いで、わたしはひとつの新しい言葉・存在を知ることになる。
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手作りの旗に描かれていた(貼られていた)のは、「おれんじ鉄道」のマークと、「おれんじ食堂」のマーク。(肥薩おれんじ鉄道には、まるで走るレストランのような「おれんじ食堂」という観光列車がある。詳しくは後述。)
彼は、これらの列車が水俣駅を通る際に、乗客に向かって旗を振り、歓迎をしてくれる「振り鉄」さんなのだった。
「『おれ鉄』と『おれ食』は同じ線路を使ってるけど全然違うんで」
だから2種類必要なんだと彼は口早にそう言うと、笑顔で2種類の旗を振ってくれた。
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水俣駅についてもいろいろ教えてくれた彼に、わたしは聞いた。
「将来、おれんじ鉄道に就職したい?」
「あ、はい、多分します」
こんなにも、確度の高い「多分」は聞いたことがない。
撮り鉄でも乗り鉄でもなく、地元の人々で構成された「振り鉄」さん。どうやら、一般用語ではなく、おれんじ鉄道オリジナルの言葉のよう。
なんだかギュッと詰まった愛が、柑橘類のように爽やかで。こういう人たちに支えられて、おれんじ鉄道は存在しているんだな、と撮影スタッフ一同感動。搾りたての愛に触れた瞬間でした。
九州の西海岸で揺られて
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おれんじ鉄道の英語のロゴにはこう書かれている。
JAPAN KYUSHU WEST COAST LINE
西海岸、という言葉は、ちょっといい。
ほぼアメリカのモノのように使われているけれど、ここは間違いなく西海岸だし、夕日を浴びながらおれんじ鉄道に揺られていると、むしろアメリカの西海岸ではこの体験はできないだろう!なんてちょっと得意げな気持ちにもなる。
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ところで、(本当にところで、だが、)わたしは「揺られ女子」だ。旅に出たら、高い確率で、ローカル鉄道を使って移動をする。特に、鉄道オタクでもなく、車内に目的があるわけでもない。でもわたしにとっては鉄道に揺られている時間は至福の時なのだ。
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決まった線路の上を、決まった時間で走る鉄道は、安心の塊であって、あせる必要も何かを考える必要もない、わたしにとっては最もリラックスできる時間。それは重要な旅のコンテンツであり、どこかにたどり着くためのしょうがない時間じゃないから、旅の時間割の大半が「鉄道」という言葉で塗りつぶされていても、まったくをもってイヤじゃない。むしろ旅の醍醐味は、鉄道で揺られている時にある、とさえ思っている。
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それで、今回パンフレットを作りながら思いついたのが「揺られ女子」という言葉。
全国の揺られ女子、揺られ男子、揺られ人類の皆さん。次の揺られ旅は、九州の西海岸を走るおれんじ鉄道で。
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おれんじ食堂にも揺られて
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観光列車である「おれんじ食堂」は、おれんじ鉄道と同じ型の車両を使っているが、その様相はまったく異なる。
名前のとおり、それは走るレストラン。
地元の名店が作ったコース料理をいただきながら(便、時期、などによってメニューは異なる)、大きな窓に流れる九州・西海岸の景色にうっとりする。
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肥薩おれんじ鉄道の社員である東さんと最初にお話ししたとき、こう言われた。
「ひとりで乗るお客様はすごく少ないけど、ひとり旅にもぴったりなんです」
ほんとに?ひそかに思いながら、取材の日がやってきた。
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いろいろなことを省いて、いきなり結論。ほんとだった。
これは…ひとり旅にもぴったりなのでは。
ひとりでレストランに赴きフレンチのコースや割烹料理に舌鼓を打つ、とはちょっとハードルが高い行為だけれど。「おれんじ食堂」にひとりで乗車してシェフが腕によりをかけた料理をいただくのは、ハードルが低いどころか、そこにはハードル自体がほぼないと感じた。
シートのスタイルはさまざまあり、ひとりでただただ、景色と料理(と、わたしのように飲めるならばお酒)と向き合うことができる。
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列車の中にあるキッチンで仕上げられた料理は、一皿ずつ丁寧にスタッフが運んでくれる。メインディッシュが出るころ、目の前にあるのは、静かに光る海と、どこまでも続く空。
便や天候によっては、オレンジ色に染まるサンセットや、淡いピンクのマジックアワーも堪能できる。
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気付けば、ただ広がる景色と会話をしているわたしがいた。誰にも気兼ねなく、自分のまま、そこにいればいい。
心が洗われる、なんて割とよく使っちゃってたけれど、これを体験したら、そうそうには使えなくなる。これこそが、心が洗われる瞬間。
付け加える必要は多分ないけれど。もちろん、大好きな友達や愛する人、家族と一緒に乗車するのもおすすめです。
出会えたことが幸せ
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わたしは仕事でおれんじ鉄道に出会い、打ち合わせを重ね、リサーチをたんまりし、いろいろなことに備えてしっかり準備し、「おれ鉄」「おれ食」という言い慣れなかった言葉もだいぶ自分のものになったころにやっと現地に向かったけれど、皆さんは何もする必要はありません。
ただ、行く日を決めるだけ。
訪れるべき場所は、わたしたちがパンフレットに記しておきました。すべて委ねていただければ大丈夫。
地図が見られるスマホと、目の前を切り取るカメラだけ持って、ひとりでも、ふたりでも、みんなとでも、好きな旅スタイルで、たっぷりとおれんじ鉄道に揺られてください。
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パンフレットは肥薩おれんじ鉄道沿線地域、及び、福岡、熊本、鹿児島の商業施設などで配布中。デジタル版は以下のリンクよりご覧いただけます。
おまけの出会い
今回のパンフレットには掲載していないけれど、おれんじ鉄道には「くまモン」のラッピング列車があります。
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いろいろなデザインがあって、どれも本当にずるかわいい。
ラッピング列車の運行スケジュールはおれんじ鉄道公式HPより確認を。
肥薩おれんじ鉄道
停車駅
八代・肥後高田・日奈久温泉・肥後二見・上田浦・たのうら御立岬公園・肥後田浦・海浦・佐敷・湯浦・津奈木・新水俣・水俣・袋・米ノ津・出水・西出水・高尾野・野田郷・折口・阿久根・牛ノ浜・薩摩大川・西方・薩摩高城・草道・上川内・川内
観光列車おれんじ食堂
運行日
土・日・一部祝日
プラン
▼1便<モーニング>
出水駅7:54発→新八代駅9:39着
▼2便<スペシャルランチ>
新八代駅10:40発→川内駅14:46着
▼3便<サンセット>
【夏ダイヤ】川内駅15:35発→新八代駅19:04着
【冬ダイヤ】川内駅16:30発→出水駅18:16着
※運行日、ダイヤは変更になることがあります。公式HPをご確認ください。