齋藤朱門
ランドスケープフォトグラファー 宮城県出身。カリフォルニアに住んでいた2013年、目にした風景写真の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、独学で風景写真を学び始める。自身がその時見て感じた自然・風景の素晴らしさを、作品を見てくれる人々にも同じように伝えたい...。その想いから現在も国内外で、精力的に自然を撮り続けている。共著に『思い描いた世界観を表現する仕上げの技法 超絶レタッチ術』(インプレス)。
愛用カメラ:Sony α7R V
愛用レンズ:Sony FE 24-70mm F2.8 GM II
常に変わりゆく美しい自然「LANDSCAPE PHOTOGRAPHY」
その場にいるかのような“没入感”、“臨場感”を感じられる作品を撮りたい
「長野県八千穂高原で、一面にカラマツ林が広がる場所を見つけた。真冬にこのカラマツが霧氷で真っ白に染まる瞬間を狙い、夜中から待ち続けて撮影。自然が作り出す美しい霧氷の繊細さと、パターンを意識して切り取った一枚」。
「常に変わりゆく美しい自然が与えてくれる、その“場所"その“瞬間"で自分自身が感じたその“感動"を、作品を通じて伝えたい」と思い、自然風景写真を撮影している齋藤さん。“風景写真”ではなく“ランドスケープフォト(グラフィ)"という言葉を使って自身の写真を表現しています。
「“写真"という日本語は、“真実”を“写す”という意味に捉えられがちで、写実的なものを指すことが多いのですが、語源の“Photography"が持つ、“撮影し、処理する技術、アート"という意味を強調したいので、“ランドスケープフォト"と呼んでいます。ランドスケープフォトを撮り始めたきっかけは、2013年にカリフォルニアで、あるランドスケープフォトグラファーと出会ったこと。彼の作品を購入し、部屋に飾って毎日眺めているうちに、その作品の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、自分でも撮影したくなったんです。カメラを手に取り、なんとか同じ場所を探し出して撮影しましたが、まるで同じ写真にはなりませんでした。そこから、作品を見た人が、自らがその場にいるかのような“没入感"、“臨場感"を感じられるような作品を撮りたい、とのめり込んでいきました」。
栃木県のスッカン沢。「“スッカンブルー"と呼ばれる、青い渓流と色鮮やかな紅葉のコントラストの美しさに魅了された。前景に岩を入れ、渓流の流れを意識した構図とすることで奥行き感を高め、よりダイナミックな印象となるように切り取った」。
空気感や記憶、経験によって膨らんだイメージを盛り込んでこそ作品
美しい自然に感じた感動を、作品を通じて伝えていく
熊本県の阿蘇で、地震前の2015年に撮影。「かつては“ラピュタの道"と呼ばれた有名な撮影場所だったが、地震の影響で崩落してしまい、もうこの風景を見ることは出来ない。外輪山の特徴的な地形と、眼下に広がる雲海、そして遠くに見える阿蘇山の噴煙を入れることで、より迫力のあるダイナミックな構図に」。
帰国後はじめて撮影したのは富士山。「海外にも富士山に似た形の山がありますが、やはり日本のシンボルである富士山はとてもダイナミックで美しいと感じた記憶があります。撮影時には、そのときの感動を伝えることが大切。自分がどこをどう見て、何に感動したのかを意識してシャッターを切るようにしています。単にカメラで撮影するだけでなく、空気感や、自分の記憶や経験によって膨らんだ印象やイメージを盛り込んでこそ、作品と言えると思います」。
写真は感動を閉じ込め、伝えるための手段
「長野県の中綱湖は、桜の時期には大勢の人が訪れる有名な撮影場所。早朝のやさしい温かい光に照らされる満開の桜の木と、それが湖に映り込む様子が美しいと感じ、シャッターを切った」。
沖縄県宮古島。「月の出の瞬間。海面からまばゆい光を放ちながら昇る月と、その明かりで徐々に消えてゆく天の川がとても印象的だった。月明かりで照らされる水面近くの雲や、ブルーアワーの空と満点の星空に自然の美しさを感じた」。
熊本県阿蘇。押戸石の丘にて。「遠くに見えた不思議な地形の草原の中に、ぽつんと生える木に光が当たり始めた瞬間が、なんとも言えない美しさだった」。
GENIC vol.66【伝えたいニッポンの風景】
Edit:Izumi Hashimoto
GENIC vol.66
GENIC4月号のテーマは「撮らずにはいられない」。
撮らずにはいられないものがある。なぜ? 答えはきっと単純。それが好きで好きで好きだから。“好き”という気持ちは、あたたかくて、美しくて、力強い。だからその写真は、誰かのことも前向きにできるパワーを持っています。こぼれる愛を大切に、自分らしい表現を。