menu

100年前の世界と今と/ぽんずのみちくさ Vol.98

片渕ゆり(ぽんず)<連載コラム>毎週火曜日更新
ほんとに大切にしたい経験は
履歴書には書けないようなことばかり
旅と暮らすぽんずが送るコラム

  • 作成日:
  • 更新日:

ADVERTISING

100年前の世界と今と/ぽんずのみちくさ Vol.98

2019年の終わりから2020年の始めごろ、夢中になって観ていたドラマがあった。イギリスのTVシリーズ、「ダウントン・アビー」だ。

由緒ある貴族一家が暮らす大邸宅 “ダウントン・アビー” を舞台に、仕事や恋愛、そして戦争などをめぐる様々な人間ドラマが繰り広げられる。

ハリー・ポッターシリーズのマクゴナガル先生役を演じたマギー・スミスや、ディズニー映画「美女と野獣」の実写版で野獣を演じたダン・スティーヴンスなど、日本でも有名な俳優陣が活躍している。

1912年、豪華客船タイタニック号沈没の知らせが飛び込んでくるところから物語は始まる。一家の跡継ぎとなるはずだった青年も命を落としていたことが判明し、屋敷中は騒然。一家には娘が3人いるのだが、当時の法律では女性に相続権はない。磐石と思われた一家の将来が、突如ゆらぐこととなってしまったのだ。

“ダウントン・アビー” という屋敷そのものも、この物語の立派な主役のひとり。変わらぬ美しさで存在しつづける屋敷を、ひと目見たいと願っていた。

じつは2020年、ドラマのロケ地となったハイクレア・カッスルを訪れる予定だった。しかし、ついこのあいだまで対岸の火事という雰囲気だったイギリスにも、コロナの波はあっという間に押し寄せた。申し込んでいたハイクレア・カッスルの見学ももちろん中止に。

その後、ドミノ倒しのように世界中が猛スピードで疫病禍にまきこまれていったことについては、わざわざここで詳しく書く必要もないだろう。

大好きな作品にもかかわらず、2年間もこのドラマを観られなかったのは、ハイクレア・カッスルの姿を見ると、コロナに関するさまざまな記憶がフラッシュバックしてしまうと思っていたからだった。

少しずつ状況が変わり、ふとしたことをきっかけに、最近、あらためて第1話からこのドラマを見始めた。すると、以前は気づかなかったことに気づくようになった。たとえばスペイン風邪の流行は、現代の私たちにも既視感がある。前に観たときには「大変なことがあったのね」くらいにしか思っていなかったけれど、今見ると「おばあちゃん近い!患者さんからもっと離れて!!ソーシャルディスタンス!!!」と叫びそうなくらい前のめりで観てしまう。

「電話が発明されて、在宅勤務が可能になり人生が変わりました」なんてシーンを見ると、オンライン会議が普及してきた現代と重ね合わせてしまう。

時代の変化に合わせて、登場人物のファッションもどんどん変貌を遂げていく。いかにもクラシックなドレスとロングヘアの装いから、足の見えるスカートや大胆なショート姿に。今私たちのまわりにあるものはすべて、過去の誰かの挑戦の延長線上にあるものなのだと気付かされる。

大変な時代は、今だけじゃない。100年前に生きる人々も、嘆き、怒り、そして笑い、生きてきた。変化に怯えたり、未来に期待したり、きっとその感情は私たちのそれと大きくは変わらないのだろう。

片渕ゆり(ぽんず)

1991年生まれ。大学卒業後、コピーライターとして働いたのち、どうしても長い旅がしたいという思いから退職。2019年9月から旅暮らしをはじめ、TwitterやnoteなどのSNSで旅にまつわる文章や写真を発信している。

片渕ゆり(ぽんず)Twitter
片渕ゆり(ぽんず)note
次の記事