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定住しない移住のカタチ、移住の多様性/伊佐知美の「旅するように移住」Vol.14

様々な移住者にインタビューした『移住女子』の著者であり、自身も現在、沖縄・読谷村に移住中の伊佐知美が送る連載コラム。移住に向いてる人、向いてない人、お金や仕事のことなど、気になる話を15回にわたってお届けします。
「"いま"この街で暮らしている意味って、なんだろう?」そんな疑問を持っている方の背中をポンッと押す、“最新の移住”コラム。
第14回は、移住の多様性についてお話します。

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連載コラム:伊佐知美の「旅するように移住」

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定住しない移住のカタチ、移住の多様性/伊佐知美の「旅するように移住」Vol.14

移住というと、イコール定住じゃないの?という疑問が聞こえてきそうだけれど、今回は、定住しない移住のカタチもアリだよね、という「移住の多様な在り方」について、ちょっと話を聞いてくださいな。

新しい移住のカタチと多様性

移住というと、一昔前なら、「人生で一度しか実行できないもの」「この場所に絶対移住するぞ!という確固たる意志を持っている人しか実行できないもの」というイメージを持つ人もいたんじゃないかと思う。

「移住したら一生骨を埋めなきゃ」とか「後戻りできない」とか、「人生の一大決心!背水の陣!」など、決定は覆せないもので、そこで幸せに暮らせなかったら、移住は失敗だ、というように。

7〜8年前には、移住者を募集する自治体の担当者が、「移住を希望するなら骨を埋めるつもりで来てほしい」と言っているシーンに出会ったことも正直あった。

けれど最近は、暮らし方や働き方、パートナーとの関係性の在り方など、ライフスタイルの多様性が広がったり、移住に興味を示す世代の中心が、定年後のシニア世代から20〜40代の若い世代に移行したりする中で、以前とは比べ物にならないくらい「移住の多様性」が受け入れられる世の中になってきたな、と感じている。

冒頭で述べたような「移住=定住、ずっとそこにいるもの」というステレオタイプのイメージは、すでに過去のものになった、と言い切ってしまっていいとすら私は思う。

近年は、とある自治体の担当者がこんな風に言うのを聞くようになったくらいだ。

「移住者の方とはよく話す立場にいるんですが、以前は『この街にずっといてほしいな』と思っていたし、実際に移住希望者の方にも、そういう風にお話してしまっていたなと反省しています。でも今は、『好きなように暮らしてください。住んでもいいし、出ていったって構わないんですよ』と思っていますし、そうお伝えします。もちろん居てくださったら嬉しいのは変わりませんが、もう縛る時代じゃないですよね。

けど、じつは後者のほうが、結果として定住率は高まったんですけどね(笑)。童話の『太陽と北風』みたいで、なんだか不思議な話ですけど」。

移住=一ヶ所での定住、じゃなくていい

現代における移住とは、「人生で一度しか実行できない特別な選択肢」ではなく、修正可能な「トライ」の一種で、移住先は1つでも2つでもいいし、移住した結果、「やっぱりもともと暮らしていた環境に戻ろう」という人がいても、全然アリ。

移住後に時間が経って、その人が移住した街から離れるとしても、その後は広い意味での「関係人口(※)」となって、ふるさと納税をしたり、旅行で定期的に訪れたり、祭りや行事ごとに顔を出したりと、「行きつけの街」として自主的に生涯通うケースも多く、それも1つの移住の着地だと私は思う。

※関係人口とは:総務省が定義する、移住した「定住人口」でも、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉

もちろん、移住する時も出ていく時も、地域の方への配慮や、家族や友人への報告、仕事の調整など、気を配るべき先はたくさんあるし、すべて自由に好き勝手やっていい、ということが言いたいわけではないのだけれど。

エッセイストの紫原明子さんは、著書『家族無計画』の中で、「すべての決めごとは(仮)でいい」と語ったけれど、マインド的には、移住も(仮)くらいの捉え方でじつはちょうどいいんじゃないかなと思うのだ。

二拠点、多拠点、バンライフなどの実践者が増えている

この記事を読んでくれている人の中にも、知り合いが移住をした、という人は今や多いのではないかと思う。その中に、移住のベーシックスタイルである「どこか一ヶ所への移住」を選択しなかった、こんな人はいないだろうか。

・二拠点居住者:東京都内と湘南エリアなど、暮らす場所を2つ持つ人
・多拠点居住者:メイン拠点以外に、複数の拠点を持つ人
・バンライファー:キャンピングカーや改装したバンなどで、バンライフ(車中生活)を送る人
・ロングステイ:1ヶ月のうち1週間、1年のうちの1ヶ月など、一定期間をメイン拠点とは異なる場所で過ごす人

二拠点居住は「unito(ユニット)」、多拠点居住は「HafH(ハフ)」や「ADDress(アドレス)」、バンライフは「Carstay(カーステイ)」など、「所有しない移住のカタチ」を実現させてくれるシェアリングサービスも増えている。

今後は、さらに新しい移住のスタイルが増えていくんじゃないかと私は予想する。

上記で挙げた二拠点、多拠点などの形式が増えるというよりも、移住を「帰る場所を増やす」「安心できる場所を増やす」というように、気持ちの面での「ホーム作り」として捉えて、多様な移住を実践する人がもっと増えるんじゃないかな、と取材をしながら感じるのだ。

そのための「トライ」としての移住の一歩は、もしかしたら移住という言葉ではなくて、お試しの移住=「試住」という言葉でもいいのかもしれないなぁ。

定住しない移住のカタチも、「アリ」ということ。移住の多様性が広がっている今、イメージしているよりも移住は身近でトライしやすいものかもしれないよ。自分にフィットするカタチを、実践しながら探っていくのも移住の1つのカタチかもしれませんよ、ということを伝えられたら嬉しいです。

では、次回テーマは「移住へのふんぎりはどうやって」です。どうやってふんぎりましょうねぇ。

伊佐知美

これからの暮らしを考える『灯台もと暮らし』創刊編集長。日本一周、世界二周、語学留学しながらの多拠点居住など「旅×仕事」の移動暮らしを経て沖縄・読谷村に移住。移住体験者の声をまとめた『移住女子』の著者でもある。

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