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濱田英明 写真家10年の現在地

写真家としてデビューして10年。写真は自分にとって「世界がこうあってほしい」という祈りにも似ている、という濱田英明さんが2022年の今語る、これまでの軌跡、写真への想いを代表作の数々とともにお届けします。

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濱田英明

写真家。1977年生まれ、兵庫県淡路島出身。2012年、35歳でデザイナーからフォトグラファーに転身。同年12月、写真集『Haru and Mina』を台湾で出版。2019年、写真集『DISTANT DRUMS』(私家版)を出版。

撮りたいものはずっと変わっていません。善なる光景を僕は撮りたいのです

『ハルとミナ』を撮り始めた頃からずっと変わらないのは、「善なる光景を撮りたい」ということ。写真は真実だけを写すことはできないから、自分にとって「世界がこうあってほしい」という祈りにも似ています。

できるのは撮ることに対して誠実でいるということ

model:堀田真由(「私が撮りたかった女優展 Vol.2」より)

model:湊あす香

写真とは自分の好きなものや興味あるものばかりを撮ってしまうもの。フレームの外にもある世界のすべてを撮りたいと思っても、それは不可能です。自分の写真が誰かを傷つけることもあるという感覚を常に持ちながら、対象に誠実でいること。善なる光景を捉えるにはその態度が必要だと思っています。

写真は写し鏡。自分を救ってくれるものでもあります

自分が何者であるかは、自分だけではわかりません。誰かとかかわることでその輪郭が浮き上がってくる。写真というのもそれなのかなって。撮った写真を見返したり誰かに見てもらったりすることで、まだ知らなかった自分に出会えるかもしれません。

写真は言葉。撮ることは、世界を見つけていく行為

まだ言葉になっていない世界、その人にしか見えていないものがたくさんあるはずです。それを見つけることで、同じものを見た人や同じ経験をした人と交わることができます。それは暑いという感覚を知って「暑いね」と言い「そうだね」と会話するのに似ています。

濱田英明 写真家10年の現在地

撮りたいのはずっと善なるもの

「写真は自分にとって『世界がこうあってほしい』という祈りにも似ていて、真実のすべてを写すことは不可能だとも思っています。目まぐるしく変化し混乱する社会のなかにある、善なる光景を撮りたいのです。だから悲しいことや辛いことはできるだけ撮らないようにしています。それは、『ハルとミナ』を撮り始めた頃から変わっていません。これは自分の価値観の形成も関係しています。いじめを受けていた小学生時代やずっとひとりで過ごした高校時代があったからか、いつも諦めのような感覚が根底にあって、だからこそ、そうじゃないものに手を伸ばそうという意識があるんです」。

写真の暴力性を常に自覚したい

「数年前から社会における写真という表現の受け取られ方に危機感を感じるようになりました。それは、時代の変化とともに露わになってきた写真の本質とかかわっています。写真は、きれいな部分だけをすくい取って、そうでないところには目を伏せているように『見えて』しまう表現です。その対象の背景にはいろんな社会的な問題があるかもしれないのに、気持ちのいいところだけを消費しているというか。写真は一部の人間だけでなく、ほとんどの人が撮り、見る時代になりました。その流れの中で、『正しさ』が写真にも求められるようになってきました。無邪気に撮りたいものだけを撮る、その陰で誰かを傷つけているかもしれない。写真が持つある種の暴力性にみんなが気づいたとき、社会が写真を撮ることを許さない日が来るかもしれません。言葉の分野ではすでにそれが起きています。それでも撮り続けていくのであれば、必要なのは結局『誠実さ』ではないかと思っています。対象に常に誠実に向き合うこと、まずはそれを自覚することが必要な気がしています」。

生きやすくなったのは写真のおかげ

「僕の写真家としてのはじまりは本当にラッキーなものでした。20代が、インターネットの普及とカメラが発達するタイミングとちょうど重なっていて、それをリアルタイムで享受できたんです。当時、唯一とも言える写真共有サイトのFlickrを通して出会ったPENTAX 67という中判フィルムカメラの存在はとても大きなものでした。フィルム1本で10枚しか撮れないことで、対象とどう向き合いどう撮るかということを深く考えるようになったんです。そして、どうしても近くで撮ってしまう自分の子供という対象を客観的に見つめられたのは、最短で1mまでしか寄れないPENTAX 67のレンズのおかげだったと思います。今思えば、2010年代初めのインターネットではそういう距離感のある子供の写真が珍しかったのかもしれません。子育てブログからはじまった趣味の写真がいつの間にか世界中の人にも見てもらえるようになりました。そんななか台湾版の『THE BIG ISSUE』をはじめ、いろんな媒体に掲載してもらえたり海外で初めての写真展を開くことになったりして、ついには違和感を抱えながら続けていたデザイナーを辞めて写真を仕事にすることに決めたんです」。

自分に相応しいと思えるかどうかが大事

「実は最近、本格的に映像監督の仕事もはじめました。ずっと写真を撮ることばかりだったので依頼を受けたときは自分に出来るかどうか不安でしたが、結局引き受けたのは、写真の仕事もそうやって誰かに求められはじめたからです。多分、頼まれなかったらどれも趣味のままだったかもしれません。だから、自分の可能性は決めつけず、新しいこともどんどんやってみるようにしています。そうすれば誰かが、自分がまだ気づいていない良いところを見つけてくれる気がしています。写真の下積みをしていないのは後ろめたくもありますが、その分、自分にはこの仕事しかないというようなこだわりがいい意味でないんです。執着は時に生きづらさにもつながってしまいます。たとえ別の仕事でも写真の代わりになるものがあるならそれでも良くて、それよりも自分に相応しいと思えるかどうかが大事なんだと思っています。そういう自分の生き方が、たまたま今の時代に合っているのかもしれません」。

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濱田英明 公式WEB

GENIC vol.64 【濱田英明 写真家10年の現在地】
Edit:Chikako Kawamoto

GENIC vol.64

GENIC10月号のテーマは「写真と人生」。
誰かの人生を知ると、自分の人生のヒントになる。憧れの写真家たちのヒストリーや表現に触れることは、写真との新たな向き合い方を見つけることにもつながります。たくさんの勇気とドラマが詰まった「写真と歩む、それぞれの人生」。すべての人が自分らしく生きられますように。Live your Life.

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