“移住” と “旅行” の関係値から紐解く「どこに住んだらいいの?」問題/伊佐知美の「旅するように移住」Vol.2
「私、どこに住んだらいいんだろう?」
移住に携わる仕事をしていると、様々な質問をもらう。中でも、意外に飛び抜けて多いのが、「どこに移住したらいいと思いますか?」というそもそもの「場所」に関する問いだ。
たしかに、移住を考える際に、場所って大切すぎるテーマ。なんなら移住の入り口と言っても過言ではない。
「こういう暮らしがしたい」とか「子どもをこんな学校に通わせたい」など、「譲れない条件」が自分の中に思い浮かべられている人にとっては、場所って選びやすいのだけれど。
まだそこまで現実味を帯びていない「いつか移住してもいいなぁ」という気持ちの段階だと、「世界中どこでも移住していいよ」と言われても、選択肢がありすぎて戸惑ってしまうばかり……という状況になるのは、大いに共感する。
「これまでの旅先で、また訪れたい場所って?」
そんな時におすすめしたい、自分への質問がひとつある。「今まで旅行した場所の中で、また訪れたい旅先って、ある?」だ。
私がこれまでインタビューした移住実践者の中で、移住前に一度もその場所を訪れたことのない人って、ほぼゼロだった。というか、正直思いつかない。
それどころか、旅先を気に入って定期的に通ううち、「あれ?もしかして、往復の時間や交通費のことを考えると、住んでしまった方がいいのでは?」と気づいて、移住を考え始めました、という人も少なくなかった。
とにかく、大きなトラブルなく自らの暮らしを物理的にスライドさせた人って、大体「移住した場所に、まずは旅行をしていた過去がある」と言えるのだ。
移住者は、過去にその場所を旅行している
とすると、好きな旅先がいつかの移住候補地になっていく可能性って、多分にあり得るのではないか、というのが私の見解。
初めての旅行で訪れたばかりなのに、どうしてだかすぐに「また来たい」と感じたり、「できたら長く暮らしてみたい」という気持ちを抱いたり……そういう風に「なんとなく肌に合う。好きだなぁ」と感じる理由は、本当に人それぞれだ。
たとえば、私は鮮やかな海が望める島が大好きなのだけれど、同じ島好きでも「波の少ない、四国の多島美の景色が好き」と言う人はいるし、とある友人は「雨の多い陰鬱な雰囲気の街が落ち着く」と言ったりする。
土地の空気感との相性だけではなくて、好きな食べ物がきっかけで移住先を決めるに至りました、という人にも出会ったことがある。
たしかに、気持ちは分かる。ものすごく地味な例だけれど、私の隠れた好物にネギ・にんにく・山芋があって、青森県の十和田湖を旅行中に、青森県がその3食材の一大産地と知って、「好きなものを年中新鮮&安価でいただける土地で暮らすって、いいな」と感じた。あとは、牡蠣大好き人間なので、名産地の広島県での暮らしにもやっぱり惹かれる。
実際、マンゴーが大好きで、沖縄の夏は食べ放題なので、それを日常にしたいと考えて移住した節もある……!
こんな感じで、個々人にとっての「なんか、いいな」の基準はきっと違う。ほかの人にとっては「些細なこと」が、移住を考え始めるきっかけになっても全然いいのだ。
なので、冒頭の質問に立ち返ると、すべての人にとっての「ここが最高の移住先です!」という解って、正直ない。
けれど、「もっと多くの時間を過ごしたいと感じる旅先」がひとつでも思い浮かべられるなら、そこはもしかしたら、自分にとっての有力な未来の移住候補地となり得るかも、と思うのです。
旅行と移住の関係性は、薄いけれどしっかりと
そういう意味で、「旅行」と「移住」には薄いけれどしっかりとした関係性があって、もっと言ってしまえば「移住って、旅行の延長線上にあるのでは?」と私は考える。
もし、「移住がしたいな」と思っているけれど場所に迷っているという人がいたら、まずはお気に入りの旅行先を、「いつか暮らす場所だとしたら」という目線で、改めて見直してみることを提案したい。
「人生の短くない時間を過ごす土地」として、その場所の日々の交通手段やスーパーや薬局の場所、amazonが届く日数や配送料(ちなみに沖縄はびっくりするくらい高いし、時間がかかるケースがあります!)などを想定しながら、Google Mapや賃貸サイトなどで「もし住むなら物件&立地」のアタリをつけてみるのも立派な移住準備のひとつになる。
「あなたにとって行きつけにしたい旅先って、どこですか?」。この質問に、少しだけでもわくわくする? だとしたら、今の暮らしの延長線上に、移住という選択肢を考えてみるのも、いいかもしれません。
伊佐知美
これからの暮らしを考える『灯台もと暮らし』創刊編集長。日本一周、世界二周、語学留学しながらの多拠点居住など「旅×仕事」の移動暮らしを経て沖縄・読谷村に移住。移住体験者の声をまとめた『移住女子』の著者でもある。