【＃エモーショナルな日々：2 】宵月 絃

四季の記憶を綴るように、好きを集めては写している花好きのひとり。特に紫陽花には毎年恋をしている。日常に巡る月と空の表情や青の世界観、猫も気まぐれに記録中。CURBONにて、オリジナルのLightroomプリセット「Flower's Collection」を販売している。
愛用カメラ：OLYMPUS PEN-F、Canon EOS Kiss X7、FUJIFILM X-T ４
愛用レンズ：M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0、EF-S55-250mm F4-5.6 IS STM、フジノンレンズ XF16-55mmF2.8 R LM WR

宵月さんが本格的に写真を撮るようになったのには、とても切実な理由が。
「実は、小さな頃からいろんなことを経験しすぎたせいか、大人になる頃には心の風邪を引いてしまいました。何もかもが色褪せたように感じ、この世界に自分は居てもいいのだろうかと心が塞ぎ込む日々。そんな時に、身近な人が春の写真をSNSにあげていたんです。純粋に綺麗だと感じました。そして自分が数年間、季節をちゃんと感じられていなかったことに気がつき、いろんな人の世界を見る感覚で写真を眺めるようになりました。そのうち、この世界のことを覗くだけではなく、今の自分の感情を写すように、自分なりに写真を撮ってみたいと思うようになったんです」。
そうして写真を撮ることが、自身の支えに。
「今でも自分のことがわからなくなってしまう日もあります。それでも、”触れたい”と思えた気持ちや、四季が過ぎる中で感じる一瞬の光、温度、風の心地よさ、そういったものを残したいという思いで撮っています。焦る必要はないよと季節に背中を撫でられている気持ちになるのです」。

「尾道のホテルに泊まった次の日の朝、夜のカーテンが段々とめくれてゆくようなイメージで撮りました。ホテルの朝はいつも街の音が微かに耳を撫で、静かに時が流れているように感じます。Kenkoのレンズフィルター ブラックミストNo.05を使いました」。

「春の暖かな陽に照らされる藤のカーテン。静かに揺れるのを見た時、青が波打つようで、藤の花に引き止められたように感じました。花一つ一つが小さな玉ボケになるようF値を絞りすぎないようにして撮りました」。

宵月さんにとって、日常を写真に残すことは、少し先の未来へ手紙を綴ることなのだそう。
「写真という形で”好き”の欠片を少しずつ集め、それを自分で見返したり、誰かと一緒に振り返ったり、時には贈ったり。私はそういうことを通じて、昨日の自分をほんの少しだけ、見つけてあげられる気がするんです」。

「街明かりが水面に反射しているところ。水面が揺れながら光を泳がせているように見えて好きなので、つい街灯や光る看板、家の灯りなどがあるところを探してしまいます。揺らぐ水面の音が写ればと、一番光るタイミングまで待ちました」。

「月が空の上でうたた寝をしているかのような、優しい夜。雲の布団で月が眠っているようなイメージです。ブルーアワーの空の色が上半分を占めるようにしました。さらに青く落ち着く印象にレタッチしています」。

「長雨の憂鬱さで満たされそうな日に、蝶の紫陽花巡りを見つけて。蝶の模様が綺麗に写るよう右側に余白を取り、あえて紫陽花を真ん中に持ってくることで、蝶を梅雨の中の登場人物のようにしました」。

「猫の瞳、いつも覗いてしまいます。瞳の中に小さな惑星でもあるのではと思うような丸みが美しいです。動きが止まった一瞬を狙って、シャッターを切りました。瞳の中に光を入れたかったので、窓の近くで撮影しています」。

「春の雨はなんだか優しくて、花を撫でながら散らせているのではと感じます。綺麗な雫にフォーカスしつつ、漏れ出る優しい光を雨のようなイメージで玉ボケに」。

GENIC VOL.60 【エモーショナルな日々】